01-13
いつものように美味しい食事を終えて調理してくれた面々にお礼を言ってコントロールルームへ戻ろうかと立ち上がると呼び止められた。
大事な話があるので片付けが終わるまで待っていて欲しいとのこと。
改まってそんなことを言われたのは初めてなので余程の事なのだろうと大人しく頷いて、クッションやソファが並べられている食堂の隅に移動する。
そろそろ帰りたくなったのかなとか、もし帰るなら≪金剛城≫を建造してた宙域に戻って≪海老介≫でハビタットまで送るのが良いのかなとか考えていたら全員がソファに座っていた。結構な時間考えこんでいたようだ。
「さて、先ほども言ったように大事な話があります」
ムチムチ美人さんがいつにない真剣な面持ちで切り出した。
そういえば、なんとなく俺と女性陣を代表して話すのはムチムチ美人さんが多い気がする。
元々俺と接する機会が多かったからかもしれない。
「バイタルチェックやメンタルチェックでは健康な身体そのものなのに、性欲関連に限って活性度が意図的に抑えられているように見受けられます。なにかそのための処置を施していますよね?」
身体面のチェックは一緒にトレーニングしたり、そのメニューを相談するのにデータを誰かに見せた覚えがある。
精神面のチェックは覚えがない。
というかそんなこと出来る人いたんだな。
そこら辺は本題じゃないみたいなので一旦棚上げして、性欲の活性度ってなんだろう。
しかもそれを意図的に抑制する処置がどうとか。
ムチムチ美人さんは確信があるっぽいので多分なにかあるんだろう。
「特に何かした覚えはないけど確認してみる」
何かあったかな。
定期検診なんかの医療に関連した自分のデータに検索をかけたりしたらそれらしいのが見つかった。
「なんかそれっぽいのがある……セーフティ? なんのセーフティだろう。パートナーが居ないとか、性行為に対する興味が薄いとかそういう傾向から現状の俺には必要ない身体機能としてコストダウン的に制限されてるらしい。あー、≪海老介≫と一緒に拾ったコンテナ式汎用製造プラントで作ったインプラントデバイスに乗り換えた時の初期設定そのままだったのか。困ることもなかったし弄ってなかったんだなー」
「そんな設定項目……あ、ありますね。これが原因でしたかー」
ムチムチ美人さんやレディアマゾネスSPさん達も俺と同じように≪金剛城≫で製造した現行技術より高性能なインプラントデバイスに乗り換えているので自分のデバイスで確認したようだ。
日々の生活から勝手に学習して最適化してくれるデバイスだけあって自分でわざわざ設定変更なんてしないので、他の皆もそんな機能があると今知ったっていう顔をしている。
そもそも俺がそういうのに興味を持ったりしたら意識しなくても制限が解除されるようなので設定はこのままでも問題ない。
ムチムチ美人さんやレディアマゾネスSPさん達もこんな設定があるとかこんな機能知らなかったと楽しそうに喋ってるので呼び止められた大事な話っていうのも終わったのかな。
俺が不能なんじゃないかと心配してその改善を目的として皆で刺激していたとのことで、女性陣が一時期ほどあからさまな恰好をすることはずいぶんと減り俺の居心地の悪さも解消された。
一部の人の衣服に関する趣味が変わったのは多分気にするようなことじゃない。当人が好きでやってるなら俺がそれを見てどう感じるかは別の話だ。
その影響を受けてというわけでもないが俺も身なりにもう少しくらい気を使うべきなのかなと≪金剛城≫のライブラリを漁っていたら、俺と同種の人種が移住可能な可能性の高い惑星がスキャン範囲内にあるという通知が表示された。
有人惑星だとそのように通知があるはずなので多分人種のいない惑星だ。無人なら別に調査しなくてもいい。
「あれ? かなり好条件の惑星じゃないの? それも銀河間星系の。調査しないの?」
丁度そばにいたレディアマゾネスSPさんの一人に結構な勢いで聞かれた。
「有人惑星じゃないよね。調査する?」
俺は興味がないだけなので、調べてみたい人がいるなら他の人にも確認して暫く周辺宙域に滞在するのでも構わない。それはそれで楽しいだろうし。
「人類圏外の探索って移住可能惑星の発見が目玉で一攫千金の代名詞ってくらいなんだけど……それも銀河間星系のってなると今後を見越して国家規模で投資されるかもしれないような……あんまり興味ないの……かな?」
「そうなの? それだったら今までも見つける度に声かけた方がよかったかな」
「今までもスルーしてたの?」
「移住するわけでもないし気にする必要ないかなって」
その場の全員に何とも言えない表情をされた。
深宇宙の探索っていうのが移住可能惑星を探したりするものなら妥当な反応なのかもしれない。
でもほら、別にそれだけが目的ってわけでないから。
他に何を目的として深宇宙へ繰り出すのか知らないけど俺が深宇宙に飛び出したのも≪海老介≫がそれを目的にデザインされたっぽかったからで、深宇宙に出ることそのものが目的だったっていうか。
今は皆と≪金剛城≫で過ごすだけで楽しくて特に何かしようとも思ってないし。
そんなことを言ったら生暖かい視線を向けられた。
確かにちょっと恥ずかしい内容だった。手遅れだ。
とりあえず一回くらい惑星の探索も経験しておこう。
強引に話を切り替えて皆をコントロールルームに呼び集めることにした。




