04-21
「最近穏やかですし、そろそろ皆さんと家族計画について腰を入れて話し合われてはいかがでしょうか?」
なんかイベントでも考える? みたいな話を苦労人ぽい三女エルフさんと帝国末妹長女ちゃんとしつつ、白手袋擦り合わせる拳の鋭い子にお茶のお世話をしてもらっているときのこと、擦り合わせる拳の鋭い子にするっと鋭い提案を貰った。
ちょっともう俺の体力精神力が底をつきそうなヘビーな一撃ですねぇ。
「そうなー。保存してある受精卵とか結構な数になってるらしいしなー」
自然受精卵だけって言っても複製身体でも受精はできるし、四十年くらい二十人と飽きることもなく仲良くしてたら、四桁を軽く超える数の受精卵が保存されている。
将来に向けて溜めていくけど良いかなって前に確認されて、良いよーって答えたのは俺。
収入――は貨幣経済と断絶してるも同然の≪金剛城≫なので金銭的な収入はないものの、その≪金剛城≫のおかげで甲斐性という表現なら子供が千人万人いても俺は小動もしない。
ただ、≪金剛城≫クルーというか俺と恋人とかパートナーとかになってる皆さんは生まれ育ちにおける家庭的な問題が小さくはなかった派が過半数だそうで、子育てには自信が持てないとのこと。
エルフさん四姉妹が受精妊娠出産とは別の株分けという形で生まれているのを別にしても、まともな家庭で生まれ育ったと当人が認識してるのは奉仕家系出身の三人くらいなものだった。奉仕家系というのが外から見て一般的なまともなご家庭の枠に収まるかというのはまた別の話。
そんな感じで、自分たちで上手く育てられるかは分からなくとも機械的知性たちに丸投げするのも良くなかろうと意見が一致したまま、家族計画は進んでいるのか進んでいないのか分からないほぼ凍結状態で結構な時間が経っている……と俺は認識している。間違ってないよね?
「受精卵の数は結構なものになってますね……。全部一斉に育て始めても≪金剛城≫のキャパシティー的には何の問題もない範囲どころか、それでも居住者が少なすぎると言えますが」
苦労人ぽい三女エルフさんはそう言うが、実際にそんな数の子供を一度に育てるとか、思い切りがいいにもほどがある計画は流石に誰も……何人かはもういっそそのくらいやっちゃった方が吹っ切れて良いんじゃないとか言いそうだな。
「とうとう私が最年少じゃなくなるんですね!」
帝国末妹皇女ちゃんが会話に入ってるのかそうでもないのか分からないところで勝手に盛り上がっている。
「できれば私の子で各子供グループの最年少を取り続けたいものですね」
その前に俺はあなたとそんな関係になった覚えがないんですが、俺じゃないならいつの間にそんな相手を捕まえていたのか。ずっと≪金剛城≫に居たんじゃないの?
「え……? もちろん私の卵子の精子をドッキングさせるのは後にも先にもお一方だけですが……?」
帝国末妹皇女ちゃんの言葉と共に、ハートっぽい感じのピンクな矢印のホログラムが俺に向けられる。言葉にしないのに主張強いなー。
「そんな話ししましたっけ……?」
いやホントに。俺の記憶が怪しいのはいつものことだけど、全く記憶にない話で不安になる。
「暗黙の了解な既定路線ですね!」
今度はピンクのハートが矢で打ち抜かれるホログラム。誰のハートが誰に撃たれたのか。
帝国末妹皇女ちゃんはなー……本気で言ってるんだろうけど、どういう本気なのか分からないのが対応に困る。少なく見積もって打算は半分としても、残り半分は何なんだろうな。短い付き合いでもないのに内心がさっぱり分からん。困る。
と、面と向かって言ってみた。
「えぇ……そんな風に思われてたから反応が芳しくなかったんですか……少なく見積もって打算半分……半分……」
帝国末妹皇女ちゃんが衝撃を受けたような顔で呟くのをじーっと見て、本気でショックっぽいとちょっと罪悪感。
「いや、別に打算半分が悪いこととは思ってないよ俺」
むしろ打算がない価値観とか想像もできなくてコミュニケーションできる気がしない。多分そんな人と仲良くなったら損するその人の道連れで俺はガンガン不利益被るし、その人はごめんねって言いつつ損得勘定がないから同じこと繰り返してあっという間に俺は耐えられなくなる。
「……つまり!」
目を瞑って何か考えている……ように見せていた帝国末妹皇女ちゃんがカッと目を見開いて叫んだ。
「私にも望みはあると!」
しゅばっと心が強そうなポーズを決めた帝国末妹皇女ちゃん。俺はどう返していいか分からず、苦労人ぽい三女エルフさんに視線を向けた。
「望みがないわけではないならば望みがないわけではないと返したら良いのではないかなと思わなくもありません」
すごく瞬きを繰り返しつつ苦労人ぽい三女エルフさんは俺にアドバイスをくれた。正直無茶な助言を求めたと分かってました。
「≪金剛城≫に来てからの年月とその間の関係性の発展度合いを鑑みるに望みは……」
白手袋擦り合わせる拳の鋭い子が白手袋をはめた両手をしゅりしゅりと擦り合わせながら言葉尻を濁し、首を横に振っている。
そうなー。どうにかしなくちゃいけない問題ってわけでもない所為で、なあなあで済ませてる自覚がある。そしてなあなあのままでもなんだかなんだ帝国皇女さん達は≪金剛城≫に馴染んですっかり≪金剛城≫クルーって内外に認識されている。俺だってそう思ってる。
「正直もうこのままなんだろうなと私は思います」
何かを区切るようにしゅりっと白手袋を最後に擦り合わせた白手袋擦り合わせる拳の鋭い子がなんか揚げ物っぽい見た目のなにかを各自の前にサーブしてくれた。
出された物を何も考えずぱくっとやると……これは……! ……なんだろう? ふわっとしてて何かがじゅわっと溢れてくるけど、さらさらしてるから揚げ物っぽい外見に反して油じゃないのは分かる。甘くてほんのり苦いけどしょっぱい感じもしなくもない。
何かよくわからなくてじっくり味わってたら俺にサーブされた分がなくなっていた。怪奇現象だ。




