04-19
「ちょっと宇宙の端っこ行ってみない?」
「え……宇宙の……端……?」
一緒にご飯を食べていたしなやかスレンダーさんが食事終了直後に唐突な提案をすると、帝国皇女リーダーさんは処理落ちしたように固まってしまった。
悪そうな顔でフォークぺろぺろしてた子はそんな二人を放置して食器を片付けてくれている。ありがとうございます。
「さすがに遠すぎない?」
俺は極めて常識的な疑問を呈した。いや、新エルフ星のある恒星系から宇宙の端までどのくらいあるのかなんて具体的な距離は知らないけども。少なくとも外部展望室で眺める星よりも遠いのは俺でもわかる。
「機械的知性達が各方面に調査に派遣されてるうち、一方向が端っこに到達したってさっき聞いたよ」
「宇宙の端っこか……想像もできないな。じゃあアンケート――」
「賛成多数だね」
≪金剛城≫を動かして遠出するなら≪金剛城≫クルーにアンケートとっていくか行かないか決めよう……と提案する前にアンケートは終わってた。
アンケートを見せてもらうと、反対意見にしても消極的な不安が挙げられているだけ。無機質美人のホログラムが≪金剛城≫なら問題はないと断言したことで、それなら良いかなと消極的賛成に変化している。
「じゃ、行こうか」
悪そうな顔でフォークぺろぺろしてた子から一見液体が入っているのが分からないほど透明な液体の入ったカップを受け取りつつ、遠征の決定を宣言した。
遠征の件はともかく、液体が見えなくて軽そうに見えるのに反してなんかすごい重いんですけど、何入ってるんですかこのカップ。液体金属とかじゃないよね?
恐る恐るカップに口をつけるとなんかつるっとしてる喉越しと爽やかな香りで面白い。
俺の百面相をニコニコと眺めている悪そうな顔でフォークぺろぺろしてた子が小憎らしい。
悪そうな顔でフォークぺろぺろしてた子が小憎らしいカップの中身を俺が空にする前に≪金剛城≫は宇宙の端っこ目前への移動を終えており、俺が移動の完了を知った時には宇宙の端っこは遥か彼方へ去った後だった。
「なにか面白いことありましたかね……?」
ちょっと飲み物片手にゆっくりしていたら遠征の目的を見逃したのでつい敬語で訊いてしまった。いやだってそんな、出発って言ったら終わってみたいなもんだししょうがないって過去の俺。過去の俺が悪くないので今の俺も悪くないです。
「いやー……さっぱり何も分からなかったよね。宇宙ってなんだろうね?」
しなやかスレンダーさんに何も分からなかったなら、俺が見てても見てなくても関係なかったな。
「今の私たちに扱える観測機器じゃ本当になにも分からなかったよ。そのうち今回の観測データの意味を理解できるようになるかなー」
しなやかスレンダーさんがとても楽しそうなので今回の遠征は百パーセント成功でした。
「あの、あそこに宇宙船みたいなのがあるように見えるのですが気のせいですか気のせいですねすみませんなんでもありません」
いや、帝国皇女リーダーさん、現実逃避しても意味ないと思うよ。俺にも宇宙船があるように見えてるし、少なくとも≪金剛城≫はあそこに人工物があるって言ってるし。
「いやあああ……だってここ宇宙の端っこなんですよ……さっきまですぐそこは宇宙じゃなかったんですよ……なんで宇宙船があるんですか……」
帝国皇女リーダーさんは≪金剛城≫で結構長いこと暮らしているのに以前の常識が強固だな。一種の才能ではないかと他の≪金剛城≫クルーに思われているだけはある。
「いやあ……私もアレは見なかったことにしたいなあ……」
寸前まで楽しそうににこにこしてホロウィンドウで宇宙の端っこを観測したデータを眺めていたしなやかスレンダーさんが、人工物や宇宙船のワードで興味を惹かれたのかそっちを確認した後久しぶりに瞳に虚無を映していた。
しなやかスレンダーさんに訊いても答えが返ってきそうにないので、ホロウィンドウを開いて機械的知性にあの船に何かあるのか訊ねると、プライマリーヒューマンの起源そのものの播種船だと教えてくれた。
俺の知ってる限りだと、プライマリーヒューマンの起源は判明していなかったはずだな? 俺は無知蒙昧の輩であると自負しているが、この件に関しては昔誰かとの対面講義という体裁のローテーション独占タイムで教えてもらった記憶がある。
つまり、宇宙の秘密の一つを紐解く鍵が今目の前にある……! 無視して帰ろうかな……。
案の定≪金剛城≫の内部ネットワークは阿鼻叫喚の悲喜交々だった。喜んでる一部はそれまでのログ見る限り何かが吹っ切れた人たちだな。
ちょっと現実から逃避して悪そうな顔でフォークぺろぺろしてた子と、尊大な色欲貴族風の純情青年とその青年に言い寄られる清純風小悪魔純情乙女とかいうよく分からないごっこ遊びをした。事前の打ち合わせとか何もなくその場のノリで設定を生やしたりキャラがブレたりして、最終的にはダークカオスエンペラーに反逆する革命家リーダーを敵の追手から守るために二人で散ったところでごっこ遊びは幕を閉じた。ライブ感満載で結構楽しかった。
俺と悪そうな顔でフォークぺろぺろしてた子が現実に返ってくると、なんでか一部の≪金剛城≫クルーが播種船を制御する機械的知性と接触し、平和的に色んなデータを貰っていた。
そのデータに依ると、なんと、プライマリーヒューマンがさまざまな人種と交雑できるのは、いつぞやデビごっこさんがお披露目していた魔法みたいな技術が関わっているからだと判明。正確には物質でありエネルギーみたいな魔素の扱いに関係した技術で、ファンタジー的な魔法ではなく科学の延長だそうだけど、科学と魔法は見分けがつかないとかいうので誤差だ。
俺の出身銀河ではギフト関係を除けば魔素関係技術なんてどこにも見当たらなかったし、そりゃあプライマリーヒューマンは謎種族だよねと腑に落ちた。
なお、≪金剛城≫データベースでその辺りの閲覧がアンロックされたことに関しては、まあそうだよねと≪金剛城≫クルーは満場一致で納得した。




