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なんかすごい性能の宇宙船を拾った  作者: 工具
04_Indestructible-Fortress

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04-18

 インプラントデバイス使用禁止期間を終了し、日常におけるアンドロイド侍女の有用性を実感した一部がそのまま雑事を任せるくらいの変化を残して普段の日常に戻って暫し。


 最近ではほとんどを機械的知性達に任せてしまっているワームホールの先での資源採集に久しぶりに繰り出してみると、ちょっと特殊な環境になっていた。

 銀河一つ分ほどまで縮小した宇宙はその状態で安定しており、物質が過剰な密度になっていないのが不思議になり調査していると、ドーナツ型の居住可能惑星を発見した。


「遥か昔、まだ宇宙開拓にほぼ着手すらできていなかった頃に、『惑星がドーナツ型だったら』って仮説立てて思考実験してたの知ってるかい?」


 俺と並んで≪金剛城(こんごうじょう)≫の展望室からドーナツ型惑星を眺めていたギフト化幼馴染殿が訊いてきた。


「しってるしってる」


「知らないみたいだね。まあ、球形以外で存在しうる形状ということでトーラス型、ドーナツ型が挙げられてたんだよ。どう自転するのかとか、重力はどうなってるのかって疑問を解消できなかったみたいだけど」


「実際目の前にあってもよく分からないね」


 掴み所がない四女エルフさんがすっと俺の後ろにやってきて俺の内心を代弁してくれた。

 普通に惑星を見るだけではよく分からない俺はホロウィンドウを開いて重力を視覚化すると、なんかよく分からんことになっていたのでそっと閉じた。


「あんなよく分からない状態で原生生物が、それも大型動物が存在するって不思議ねえ……」


 ギフト化幼馴染殿と俺を挟む位置にやってきたふわふわヘアーさんがしみじみと、何かをあきらめたような表情で呟いた。


「なんで一定の空間内で重力がループしてたり空間を跳躍しているのかしらね……」


 重力がループってつまり物が円を描いて落ち続けるってことだろ? 物が落ち続けるって言うと次元歪曲偏差炉を思い浮かべるけど、アレは空間の密度差がどうこうとかって理由だったはずなので多分別物。ハイ。俺の理解を超えましたね。


「うちゅうってふしぎだね」


「ふしぎ」


 理解をあきらめた俺に掴み所がない四女エルフさんが同意してくれた。俺は、一人じゃなかった。


「まあ、完全に自然現象によって生み出された物ってわけでもないようだし、ああいう形状の惑星があっても不思議じゃないんじゃないかな」


 ギフト化幼馴染殿は何かしらを理屈を把握しているようなので俺の仲間じゃなかった。


「輪っか型の重力発生装置が稼働状態で放置されて、それに引き寄せられた様々ものでドーナツ型の惑星が構築されて、重力転換装置で余剰分の重力が自転するエネルギーに変換されて、小型疑似恒星が重力発生装置の重力に捕まりドーナツの表面をくるくる回っている……つまりあのドーナツ型の星は球でもないし恒星を中心に公転しているわけでもないので惑星じゃないんだね」


「半人工物みたいなもんか」


「ジャンクパーツ星」


「小型疑似恒星……? 恒星の方が公転……?」


 俺と掴み所がない四女エルフさんはそんなもんかで納得したが、ふわふわヘアーさんはダメったっぽい。

 あと恒星がくるくる回るって図解されたの見たら、ドーナツ型の星の外縁を回るとかじゃなくて、外から輪の中を通って外に戻ってって形でドーナツの表面をまんべんなく舐めるようにくるくるするんだな。内側の昼の頻度高すぎない?


「輪の内側はほとんどが海で、島が疎らにあるだけだね。ここで暖められた海水が星全体の海流を生んでるんだよ」


「ところでそのデータどっから持ってきたんだ?」


 ギフト化幼馴染殿も事前知識などなかったはずなんだが。


「機械的知性たちが現在進行形で調査したデータを≪金剛城(こんごうじょう)≫での艦内ネットワークでまとめてくれてるんだよ」


 俺じゃ絶対理解できない速度で更新され続けるやつか。

 俺以外の他のみんななら、と視線を巡らせれば、掴み所がない四女エルフさんは笑顔で、ふわふわヘアーさんは苦笑で首を横に振る。

 肉体性能的な問題で無理だよね。脳内の信号よりもデータの更新の方が早いもん。


「じゃ、珍しいもの見て満足したし、帰る?」


 ドーナツ型の星とか小型疑似恒星とか他所では見られないものだった。この宇宙に来た価値は十分あったと言えるだろう。たぶん。


「この宇宙がここまで縮小しても安定している理由、調べたりしないのかしら?」


 本来のそのつもりでこの宇宙に滞在してましたね。でもほら……なんか疲れちゃったし……。


「機械的知性達がすぐに調べてくれるだろうし、そんな待たなくて良さそう」


 掴み所がない四女エルフさんは、いつのまにか用意していた数人がまるっと埋もれる大きさの白いクッションに半ば飲み込まれたまま頭だけ出している。そのクッション良いな。

 俺も用意してもらおうかな、と思ったら掴み所がない四女エルフさんに手招きされたので近づいてみる。案の定頭だけ外に残してクッションに引っ張り込まれ、俺は掴み所がない四女エルフさんと二人頭を並べてクッションに埋もれた。

 これ、どういう構造になってるんだろう。クッションの中は水に浮いてるみたいな感覚だ。


「何してるんだい……楽しそうだから一緒に入れておくれ」


 ギフト化幼馴染殿もクッションにイン。三人並んで頭だけクッションの外に出して、クッションを外から触っているふわふわヘアーさんを見つめる。


「ゲル……? いや粒子なのかしら……? 私も一緒に入る流れなのね」


 特に拒否するでもなくふわふわヘアーさんもクッションにイン。

 この後どうしようかなとちょっとぼうっとしていたら誰かに足を擽られた。


「え、誰? というかこれ脚どうなってんの?」


 ちょっとぼうっとしている内になぜか四人で向かい合う形になっている。しかも俺の足の上にも下にも足っぽいのがあるとなんとなくわかる。

 上にも下にもというかこれ絡まってない?


「あだだだだだ」


「イタイイタイ」


「ちょっだれ? だれ?」


「まってまってまってうごかなうごかー」


 唐突にふわふわヘアーさんが叫んでびくっとしたら全員で悶えることになった。誰って言うか全員が加害者で被害者になってる。脚が絡まってる状態で誰かが不用意に動いたらそうなる。


 暫し全員で苦しんだ後、最初の一人を見つけ出す心理戦が始まったものの、結局最初にふわふわヘアーさんが苦しみ始めた理由は迷宮入りとなった。

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