04-17
食後に次のご飯は何を食べようかと食堂でだらだらしていると、豚は家畜化された猪がどうこうという記述が目に留まり、豚由来人種というのはかなり危険な呼び方ではないかと気になった。
≪金剛城≫では色んな動物のお肉を食べているし、いつだか豚肉も誰かが食べていた気がする。
その辺りを当事者のムチムチ美人さんに確認できるわけもなく、近場にいた悪そうな顔でフォークぺろぺろしてた子に訊いてみた。
「あの……豚肉食べてたのはご本人です……」
悪そうな顔でフォークぺろぺろしてた子はすごく言いにくそうに教えてくれた。そうだったっけ。
「はい。それに、その場にいた皆様に『美味しいからたべてみよう』と……」
視線で気付いて気付いて! ってされてしばし考え……。
「あ、俺も食べてた?」
「はい。ガッツリ」
コクコク頷く悪そうな顔でフォークぺろぺろしてた子はなにやら安堵している様子。
「そうです。私が発起人となり皆で豚肉パーティーを楽しんだのです」
後ろから唐突に話に入ってこられてびくっとした。
「本来であればそういう疑問を抱いた人種と比較的近しい動物を例に挙げて実感を持ってもらうのが疑念を解消する近道なんですけど……ぴーま――プライマリーヒューマンと近しい生物って人種だけなんですよねぇ……」
ちょっと悩まし気にムチムチ美人さんが頬に手を当て、溜息を吐いている。
いつから聞いていたのか、はたまた悪そうな顔でフォークぺろぺろしてた子から聞いていたのかは分からないが、俺が気に似ていることに関してムチムチ美人さんはすでに把握しているらしい。
「その辺はさておいて、とにかく私個人としては別に種族の大本がどこぞの家畜でも大して気にしませんよ」
「そんなもんなのかな……?」
プライマリーヒューマンの俺としてはそう言われてしまうとそうなのかなとしか言いようがない。寧ろ、だからこそちょっと気になっている上に本人にどう思ってるか訊けなかったわけだし。
「たぶん、この宇宙の人種ってもとは実験動物か家畜的な生き物ですよ。明らかに上位存在の関与が存在しますもん。近縁種が人種しかないプライマリーヒューマンとか不自然の塊ですもん」
「ああ、そう言われるとすごい納得した」
これまたいつの間にかムチムチ美人さんの後ろの方には無機質美人のホログラムが居て、彼女は微笑むだけでふっと居なくなった。意味深な微笑みのためだけに来たんだろうか。
「≪金剛城≫クルーにも、豚みたいに祖先が明確に人種の家畜由来っていうと他にもいますし、微妙かなって感じの人もいますし、大体気にしないヒトが多いですね。恐竜由来人種とかみたいに具体的な祖先はなんなんだって感じで研究が進んでいない人種だとか、鉱物由来人種とか大概の鉱物には人種が居て交雑しすぎて追及できないなんて例もありますし」
「確かにナントカ由来人種って表現も雑なんだなー」
改めて説明されないと気にも留めていなかった。
俺の出身のハビタットにあったスクールなんて、生物の詳しい話を教えてなかったもんな。帝国の歴史のアウトライン、コミュニケーションに必要な言語能力、インプラントデバイスを使うまでもない計算能力あたりを教えるだけで、あとはインプラントデバイスの使い方を学ぶ場所みたいな。
基本的にはインプラントデバイスとインプラントデバイスで接続可能なネットワークがあれば知りたいと思ったモノは大体調べられたけど、知りたいと思わないなら知らないままって感じだった。
「個人的に面白いのは珊瑚由来人種ですね。一見歩く骨格標本なんですけど、人種と混ざって生活するのに人種に近しい外見を外骨格で形成した結果なんですって。外骨格って言ってもなんで人種の骨格を真似するんだよって思いません?」
人種の骨格っぽい見た目ではあっても本質は外骨格を纏う小さい群体生物なので、全身くまなくプラズマやレーザーで蒸発させられるとかしない限りどこか一部が残っていれば問題なく生き続けられるんだとか。
「人種あるあるネタと言えば、名前や呼び方がテッパンですね」
すすっと静かにやってきて俺と並んでムチムチ美人さんの話を聞いていた帝国皇女末妹ちゃんが、話の切れ目にスルっと入り込んだ。
これが、コミュ力……!
コミュ力はさておき、呼び方を正式な物一つに絞れないのは根本的な身体構造の差異が理由だということくらいは俺も知っている。
鉱物由来人種のツルスベさんの本名は、プライマリーヒューマンの俺には金属をぶつけ合わせたり擦り合わせたりの音に聞こえる。金属製の打楽器みたいだった。
ツルスベさんの知っている他の鉱物由来人種の人の名前をいくつか聞いたことはあるが、なんか違うくらいにしか判別できなかった。何より俺には発音できない。
そもそも種族によっては体臭や発光なんかで個体識別をしたりなんかもするらしい。
そんなわけで、人種なら大体が音声によるコミュニケーションができるくらいに共通なため、音による通名を用意するのがどこぞの銀河帝国のスタンダードとなっていた。
「中枢である≪金剛城≫クルーの皆さんに馴染みがあるということで、金剛帝国もその辺を導入することになっていますね」
「この音声のコミュニケーションは共通規格っぽいのも作為を感じるなあ」
「人種よりも上位の存在がこの宇宙に人種を放ったという類の学説においてその辺りが根拠に使われていますね。同系統だとプライマリーヒューマンは他の宇宙から送り込まれたバイオ兵器説ですとか」
沢山喋って休憩中のムチムチ美人さんにかわり帝国皇女末妹ちゃんが小ネタを披露してくれた。
そんな感じに雑談な雰囲気でムチムチ美人さんと帝国皇女末妹ちゃんによる人種談義を楽しんだ。
色々な人種の話を聞けたが、気付かないうちに悪そうな顔でフォークぺろぺろしてた子が飲み物と軽食を用意してくれて、意識しないでそれらを摘まんでいた自分に一番びっくりした。