04-15
インプラントデバイスの使用を禁止すると、普段インプラントデバイスを介して何気なく操作していた機器も連鎖的に使えなくなる。部屋のドアを開けられなくて本気で困惑する≪金剛城≫クルーも居たほど、インプラントデバイスというのは日々の生活に根付いている。
そうなるとインプラントデバイス使用禁止期間はどうやって生活するかということで、機械的知性に侍女アンドロイドでお世話してもらっている。自室には絶対に自分以外立ち入らせない派の人達は、インプラントデバイスの代替として手で操作するタイプの端末をどこからか持ってきてどうにかしているらしい。部屋を出ると面倒臭さが勝って侍女アンドロイドにあれこれ頼んでいるので、便利とは言い難い感じなんだろう。
インプラントデバイスを使えなくすれば日々の生活で機械的知性たちに頼る比重が大きくなるのは事前に分かっていたこと。むしろ、インプラントデバイス使用禁止期間は機械的知性たちの奉仕欲求をストレートに満たしてもらおうという側面が大きい。俺が無駄に増やした大量の用途未定な星の管理を任せている機械的知性たちのガス抜き的に。
侍女アンドロイドを操作する機械的知性たちは必要以上の員数が無意味にクルーの傍に侍ることを良しとせず、必要に応じてクルーに侍る員数を増減させている。
そうすると、どれだけ多くの侍女アンドロイドを侍らせられるかに挑戦する人達も現れる。具体的な筆頭は帝国皇女末妹ちゃん。年齢は三桁を超えてるしぶっちゃけ“ちゃん”って呼び方がふさわしいのか疑問な感じになってるものの、≪金剛城≫クルーの妹ポジションを不動のモノとしているのでクルーの多くがちゃんを付けて呼ぶ帝国皇女末妹ちゃん。
疑似恒星光のサンルームでぼけーっと日光浴していたら歌みたいに聞こえなくもない圧縮言語っぽい音が聞こえてきた。帝国皇女末妹ちゃんがわらわらと引きつれた侍女アンドロイドたちにお茶のセッティングをしてもらってるところだった。
この音を出してるのが帝国皇女末妹ちゃんなら、圧縮言語っぽいけど圧縮言語じゃないやつだな。いつだか、インプラントデバイスを使わず圧縮言語で話せるなんてすごいなーと思って聞いてみたところ、正規の圧縮言語じゃなくて速記の様に独自パターンを作って機械的知性たちに対応してもらってるだけと言っていた。速記はよく分かんなかったが、テキトーに頷いて理解できた振りをした覚えがある。圧縮言語っぽいけど圧縮言語じゃないことは分かったのでそれでイインダヨ。
「あの子もよくやるわねぇ」
気付かない内に俺と並んで日光浴をしていたらしいおっとり長女エルフさんが、侍女アンドロイドを指揮する帝国皇女末妹ちゃんを見て感心してるのか呆れているのか微妙な声音で呟いた。
俺も帝国皇女末妹ちゃんはよくやるなあと思う。例の帝国の皇女は皇女って呼ばれる立場の割に、命がデスる的な意味合いでのデッドラインとの距離感で言えばお上品なスラムと同等くらいだったはずだし、お姫様って感じでちやほやされるどころかまともな教育すら受けられず人生でも学問でも教師は大体同じような立場の異母姉だったというから……今の侍女アンドロイド達にお世話されまくりな生活を満喫できているなら、もうそれで良いんじゃないかなとは思う。
帝国皇女さん達の身の上話なんかを思い出してちょっとしんみりしていたら、奉仕過激派系の子がそっと暖かい茶色い液体の入ったカップをくれた。ありがとう。甘くてほんのり苦くて美味しい。美味しいけどこれすごいぬるぬるする口当たりと喉越しだなぁ。誰かの提案で開催された触手踊り食い祭りの喉越しを彷彿とさせるぬるぬる感だ。
「このぬるぬるは触手の粘液を飲み物様に加工した添加物により実現されております。飲むのはもちろん、皮膚に塗りこめばお肌の調子をよくしてくれるんですよ」
(そういうプレイを)やりますか? と、ぬるぬるの入っているらしきボトルを見せられてもやりません。
「ぬるぬるするわぁ」
俺はぬるぬるプレイをしなかったが、おっとり長女エルフさんは試しに腕だけぬるぬるを使ったマッサージをしてもらっている。
「ぎょわーっ」
そして何を思ったのかそのまま奉仕過激派系の子のほっぺを両手で挟んでうりうりし始めた。当然のこととして奉仕過激派系の子も抵抗するので二人はぬるぬるでびったびたになり始めている。近寄らんとこ。帝国皇女末妹ちゃんが侍女アンドロイドを介してお茶に招待してくれたしあっちに避難しよう。
「ようこそ! ロイヤルなお茶会へ!」
「あ、はい」
全然ロイヤル感がない元気いっぱいな感じに迎えられた。テーブルセットとかティーセットは装飾も凝っていてロイヤル感ある。こういう細かいところまでこだわれるのすごいなって思う。俺はだいたいこれで良いよねって妥協しちゃう派。
「≪金剛城≫への移住を許して頂いてより、本物の王族よりもよほどお姫様らしい生活ができていること、皇帝陛下への感謝を申し上げたく思います」
「あ、はい」
用意されていたロイヤルなシュワっとドリンクをティーカップで飲んで一息吐いたところ、急に丁寧な言葉遣いと所作でお礼を言われてびっくりした。でも今俺のこと変な呼び方しなかった? 事実を認めたくないので音声ログを確認なんてしませんけど。
そのまま帝国皇女末妹ちゃんのこんなことでできて嬉しい、あんなことができるなんて夢にも思わなかったと一つ一つに対するお礼に気恥ずかしくなりつつうんうん頷いていたら、いつの間にか金剛帝国皇帝として後宮を建設し帝国皇女姉妹さんたち全員を正式な俺のパートナーとして迎え入れることになりかけていてビビった。おっとり長女エルフさんと奉仕過激派系の子が全身ぬるぬるしたまま帝国皇女末妹ちゃんの両脇を抱えてどこかへ連れて行ってくれなかったらどうなっていたのか。
帝国皇女末妹ちゃんはやべって感じに舌をぺろと出してウィンクしてきたけどアレは絶対に冗談で済ませる気なかったわ。コエー。




