04-13
――インプラントデバイスって便利だけど、実際のところ無くなったらどのくらい不便なんだろうね?
そんな、誰かの何気ない疑問から企画されたイベントが始まる。
「では、消極的賛成多数によりこれよりインプラントデバイス使用禁止期間を開始いたします」
司会進行役というのか議事進行役というのかはわからないが、ともかくそんな感じの役目をなんでか任された帝国皇女リーダーさんが引きつった笑顔で決を採った。大したことじゃないんだけど、彼女は大概の場合において引きつった笑顔を浮かべてる気がする。
「では次に、やむを得ない場合を除き、インプラントデバイス使用禁止期間中にインプラントデバイスを使用した際のペナルティを抽選します」
別に罰則ナシでも良いんじゃないかって話もあったが、遊びでもルール違反には厳しく対処していこうという一部ゲーム過激派の強い主張によりペナルティ有りとなった。
あんまり重くない範囲という前提の下その場でそれぞれが案を出した中からの抽選は、ぶっちゃけちょっと怖い。各自の裁量での『あんまり重くない範囲』は意味あるのかな。
「――え、本当にこれを……? んん。失礼しました。ルール違反のペナルティは『利き手で物を掴むとプークスクスと笑う効果音が鳴る』となります。ペナルティを受ける期間は、インプラントデバイスを使用した時点から使用禁止期間の終了までとします……キツイなぁ……」
帝国皇女リーダーさんが小声でこぼすのも頷ける。しょうもないのに結構心に刺さるペナルティだ。これ、本当にあんまり重くないペナルティかな? 下手したら心を病んだりしない?
流石に毎回笑われるのは重すぎるとか、いやいやたまに笑われる方が重いとか、ペナルティに対する意見が複数出たため、暫し議論が為された。
「はい。ではペナルティは『利き手で物を掴むとランダムに選ばれた動物の鳴き声が鳴る』に変更されました。選出される候補は、現時点での≪金剛城≫のデータベースに存在するものです」
皆一度は会議用ドリンクボトルが空になるほど長く激しい議論の末、満場一致でペナルティが決定された。
ランダムで中身が決定される会議用ドリンクボトルはたまにスープとか煮込み料理とかが詰められてるんだが、そういうのを引いた人すら一度は空にしている辺りどれだけペナルティを決めるのに時間をかけたか分かろうというものだ。
「疲れました……」
細かいルール説明などを終えた帝国皇女リーダーさんが俺の隣の椅子に腰を下ろすとテーブルに突っ伏した。
「おつかれー」
なんか元気になる感じのドリンクでも探しちゃろう。あれ? ホロウィンドウが開かない。
「おつ」
掴み所がない四女エルフさんが雑に思えるくらい端的に声をかけて、帝国皇女リーダーさんの頭をわしゃわしゃ撫でる。
「お疲れ様ですぅ」
おっとり長女エルフさんが乱れた帝国皇女リーダーさんの髪を整えてあげている。
「あ、そっか。インプラントデバイス使えないんだっけ」
テーブルのどこかをどうにかしたらテーブル付属の投影機を起動できるはず。どうやるんだったかな。ホロウィンドウの開き方を調べるのにホロウィンドウのマニュアルをホロウィンドウで開きたい。
「マニュアル開いて」
掴み所がない四女エルフさんがテーブルに指示するとホロウィンドウの開き方のマニュアルがホロウィンドウで展開された。
「音声認識だっけこれ?」
「んーん。機械的知性の誰かがやってくれた。ありがとう」
テーブルにお礼を言う掴み所がない四女エルフさん。
「普段よりサポートしてくれるってルールだったっけ」
そういえばそんなことを言ってた気もする。
俺が無駄に増やした惑星を管理する機械的知性達のストレスを和らげるために、インプラントデバイス使用禁止期間はクルーの生活を機械的知性達が手厚くサポートするとか。
俺の生活サポートは無機質美人のホログラムが受け持つつもり満々だったが、機械的知性の全コミュニティと≪金剛城≫クルーの二勢力から反発を受けたため、俺の生活も機械的知性達がローテーションでサポートしてくれることになった。
うん。ちゃんと覚えてる。ちょっと思い出すのに時間がかかっただけだ。
会議に使ってた部屋を出ようとドアの前で立ち往生してる人達が不思議そうに首をかしげてるのは、機械的知性達にそんなサポートしてもらわなくても大丈夫って言ってた人達かな。さっきの俺と同じように、普段意識せずインプラントデバイスであれこれ操作してるのを忘れてるらしい。
普段から機械的知性の侍女アンドロイドを連れている帝国皇女シスターズの一人になにか教えられてものすっごいびっくりしてるし、他のクルーも機械的知性の侍女アンドロイドを頼ることになりそう。
気づけば帝国皇女リーダーさんが体を起こし、そんなドア付近のやりとりを微妙そうな顔で見つめている。
「私、ああいう風に傍に人が居てあれこれ任せるの苦手なんですよね……」
「そうなんだ?」
こてっと首を傾げる掴み所がない四女エルフさん。
帝国の皇女ってくらいだし、お世話されるの慣れてそうだよね。
「帝国の――もう滅んだんでしたっけ? ともかくあの国の皇族で大事なのは継承順位の高い男子だけでしたから、継承順位の低いそれも女子となると、お世話されるどころか近くに人が居ない方が心休まる日々でしたよ」
帝国皇女リーダーさんの目がどよーんと不健全な感じに濁った。
俺の出身ハビタットが所属していた帝国は、初代皇帝の子供が多すぎて継承権持ちを雑に減らそうと男子のみ継承権アリって建国すぐにやったって聞いたのを思い出した。あとそれに関連して皇帝が傀儡になってからは貴族関係で皇族はなんか大変だったとかいうのも思い出した。
「大変だったのねぇ」
おっとり長女エルフさんが、機械的知性のアンドロイドに用意してもらった旧エルフ星のお茶を飲んだり茶菓子を摘まみながらおおらかな感想をこぼした。
エルフさん達はそもそも奉仕家系の人達にお世話される生活に慣れてるもんな。≪金剛城≫でも人のお世話したい機械的知性達と上手くやってる筆頭かもしれない。
「接待レベル三十くらいの接待プレイでよろしく」
掴み所がない四女エルフさんとか、今のようにかなりの無茶振りでよくゲームの相手してもらってる。
「じゃ、俺は接待レベル五十くらいで超次元囲碁の相手お願いします」
どこに話しかけたらわからなかったのでテーブルに話しかけて、接待役の機械的知性に来てもらう。
俺も接待プレイはよくしてもらってるし、お世話されるのには慣れてる方だ。




