04-11
小型人工銀河に関してはクルーのみんなすら当面は勉強しなくちゃならないことが多そうだとのことで、計画凍結というか、その前にみんなでたくさん勉強しましょうのタスクが追加されたらしい。
俺はそもそもそういった方面ではクルーの皆と比べて何段も下に居るのでその辺りを皆に教わることになった。知識レベルや知能指数で言えばギフト化幼馴染殿はこっち側ではないのかと思わなくもないが、いつぞやのペナルティでお勉強と言いつつ本題は皆とのスキンシップみたいなアレと同じお勉強会なので受講者は俺一人である。
俺もあのお勉強期間は結構楽しかったので否やはない。ただ、明らかにいくつも年下の帝国皇女さんにすら基礎学問的なものを教わるのは何かに目覚めそう。
ああ、でも、俺も相手も外見はともかく実年齢は百歳近くとかになってるし、それを考慮すると数歳年下の先生とか別に何もおかしくないな。自分の今の年齢すら分からないと自覚したのはちょっと凹んだ。
いやいや、そもそも≪金剛城≫のクルーはそれぞれ好みで肉体の老化度合を設定できてるはずだ。外見的に明らかに年下とか意味のない尺度だった。
それに、帝国皇女さんとか外見上はプライマリーヒューマンっぽいものの種族的には混血が進んでて外見からは人種としての判別はできないとか前に聞いた気もする。
つまり、≪金剛城≫において大事なのは成人してるかしてないかだけだということでヨシ。
「今回はー、こんなものを用意してみましたー」
じゃじゃーんと言いつつ見せられたのは見覚えがあるような無いような、空洞の球体の端っこを切り落としたモノを土台にその曲面の内側の真ん中に棒を突き立てたような何か。
お勉強会のハズが、初回の初っ端から自分の最近の成果を紹介してくるゆるくてふわふわさん。せめてなんかこう、体裁くらいは繕ったりしないの?
「あ、私は講師側ではなくてお世話係なのでそちらにはノータッチです」
満面の笑みでゆるくてふわふわさんの暴挙とは無関係を主張する、悪そうな顔でフォークぺろぺろしてた子。
「はぁ……えー、今回は、いつも便利に使っている≪金剛城≫由来技術の採集器に関して少し深掘りしてみようという内容で行きましょう」
頭が頭痛で痛い顔を手で覆って溜息を吐いたリーダーさんが雑に体裁を繕ってくれた。
「あ、これ採集器か。見覚えがあると思ったらない方がおかしかった。パラボラとかいうヤツのデザインを流用してるとかなんとかだったっけ」
「デザインはどうでも良くてー」
「はい」
これくらいは知ってるよとこちらの知識レベルを伝えたら一刀両断された。
「言い方はともかく、今回大事なのは機能の方なので、見た目に関しては一回脇に置いておきましょう」
リーダーさんが苦笑しながらフォローしてくれなかったら泣いてたぞ。
ちょっと泣きそうな俺をニッコニコの笑顔で見つめて何か飲み物をくれた悪そうな顔でフォークぺろぺろしてた子は、この場においては本当に単なるお世話係に徹するっぽい。いつものことか。
「これー、実はかなりすごいギフトなんですよー」
「俺が初めて拾ったギフトは≪海老介≫で、そのオプションパーツセットに入ってたんだけど、これ単品のギフトでもすごいんだ?」
「≪海老介≫セットはギフトとしても例外的な存在なので一度脇に置きましょう」
リーダーさんはさっきから本題にとって邪魔なものをどんどん脇に置いていく。進行役は大変そうだ。
採集器は大雑把に説明すると、あらゆるものを分子とか原子とか素粒子とか更にもっとこまかく分解して、分解した物だけを対象に吸引する力場を発生させる装置。
あらゆるものを分解し再利用可能にするのがそもそもすごい。
更にそれよりも、分解した対象だけを吸引するという選択性能がすごい。
そんな内容をゆるくてふわふわさんがハイテンションに説明してくれた。ハイテンション相応に脱線しそうになるのはリーダーさんが全力でインターセプトしてくれた。
「つまり採集器はすごい」
かんぜんにりかいした。
「そうでーす。採集器はすごいんでーす」
「はい……ええ。採集器はすごいんです」
リーダーさんがものすごい疲れていらっしゃるがこの組み合わせだと大体こんな感じか。
悪そうな顔でフォークぺろぺろしてた子がくれた飲み物、美味しいけどなんだろう。さっぱりすっきりな味と、クリームっぽいねろっと感のコントラストが新鮮。
「これを利用して、特定人物だけを吸引するビームを作ろうと思ったんですけどー」
最後に挙げてた選択性がすごいってやつね。
「吸引する機能だけを取り出すことができなくてー、何回やっても対象を一度分解しちゃうので諦めましたー」
「諦めるまでさんざん私が説得しました」
「英断」
人は分解しちゃいけない。分解吸引したモノで同一人物を再構築しようとしても、別人になるか、そもそも生命活動を行わないかのオチが見える。それはさすがにマッド。
悪そうな顔でフォークぺろぺろしてた子が野菜のペーストっぽいディップで食べる肉スティックをくれたのは、これブラックジョークを感じる。これ本当はディップとスティックの材料が逆だったんじゃないのかって疑ってしまう。
「最終的に出来上がったのはー、ドッグファイトなゲーム用の単座艇でーす」
疲れ切った様子のリーダーさんはもう講義? の進行に関与する気はないのか野菜スティックをポリポリしてる。そっちも何本か下さい。
「攻撃用の砲弾に工夫があってー、防御用にも一工夫なにか欲しいなって思ってたんですよー。それでちょうどいいなってー」
砲弾は専用の液体が充填されたもので、着弾時に炸裂して急速に固化する。これはシールド表面で固まればシールドに負荷をかけ続ける上にセンサー類を阻害するし、砲弾が途中で迎撃されても飛散した液体がそのまま固まってチャフになる。
防御用に採集器を改造したものは、進行方向の一定範囲に一定時間のみ分解と吸引の力場を放射できるダウングレード品。採集した分は元々の機能通り吸引されるためウェイトになるので使い放題ではない。採集器用タンクが埋まるほど単座艇の速度は落ちるし、採集器用タンクが満タンになったら推進器がダウンする仕様。
「単座艇は他のゲーム用のものを流用してるのでー、一部部品を積み替えるだけですねー。テストプレイいってみましょー」
そういうことになった。ゆるくてふわふわさん、リーダーさん、悪そうな顔でフォークぺろぺろしてた子、俺の四人で試しにとやってみたら結構楽しかった。でも既存のドッグファイト系ゲームとの差別化が難しいとのことで凍結するそうだ。本音では、採集器を弄りまわして満足したんだと思う。
特筆すべき点を挙げるなら一点。
単座艇は遠隔操作する予定だからって、ダウングレード品の採集器に単座艇を分解できないようなセーフティをかけていないのはロックだなって思いました。




