04-08
「ふえーん。亜次元をどこまで潜れるか限界深度に挑戦してたらなんかすごいエネルギーが噴き出してきちゃったよう」
俺と駐在エルフさんではどうしようもなくなり、疑似恒星光のサンルームに通りがかった先輩さんと無機質美人のホログラムに泣きついてみた。
もちろん安全面に配慮して、中継点をいくつも噛ませた遠隔操作による無人船を使ってのお遊びだったが、狭くはない範囲で宙域への立ち入りを禁止しないといけないくらい大事になっている。
今回の亜次元限界深度チャレンジにおける事前の一番ヒドイ想定では、過去の超先史文明が残した恒星系一つ分を破壊できる兵器があるかなくらいでしかなかったため、想定外も想定外の事態に陥っている。
「なにをどうしたらそんなことになるんですか?」
先輩さんが、一足す一と恒星をイコールで結んだ式を見せられたような顔をしている。あ、でも核融合の種類次第じゃ一足す一イコール恒星になるかもしれない。ならないか。単発の核融合は別に恒星そのものではなく、さらに言えば恒星のエネルギーは核融合を基にしている例が多いってだけだった。
「亜次元をどこまで潜れるか限界深度に挑戦してたらなんかすごいエネルギーが噴き出してきてしまいました」
俺と一緒に亜次元限界深度チャレンジを行っていた駐在エルフさんがもう一度、分かっていることを大体全部、しっかり説明してくれた。
俺達もこれ以上の説明ができないのよね。何か見つけたとか、無人船の操作ができなくなったとか、そういうこともなく唐突に噴き出してきたなんらかのエネルギーに亜次元に潜航していた無人船と、ついでに亜次元に潜航したポイント周辺の宙域に等間隔で展開していたいくつかの中継器が吹っ飛ばされちゃったっぽいとしか分からない。
現状は、これが分からないから教えてほしいとか以前に、分かっていることを並べるしかできない。
今は反応の無くなった中継器を置いていた位置をもとに、この辺りまでは安全かなという距離をざっくり算出して、その倍くらいの直径の宙域で、原因は分からないけど危ないため進入禁止な感じに指定してある。通達対象は≪金剛城≫と関わりのある人たち全般。あんな何もない宙域に足を延ばす人も居ないとは思うが、万が一にも近づくと更に万が一にも危ないかもしれないから一応。
もしかして先輩さんも無機質美人のホログラムも、通達に目を通したから来てくれたのかな。
宇宙塵までこそぎ取るように採集しつくした銀河間宙域という、本当に何もないところで亜次元限界深度チャレンジをやって本当に良かった。新エルフ星のそばでやってたら丸ごと巻き添えにしてた。マジ笑えない。あくまで基準次元から離れる方向の亜次元に潜航し続けるだけで、こんな危険があるような遊びじゃなかったんだよ。
「あの程度の深度でこんな現象が起こるはずはないんですが……」
無機質美人のホログラムは現象に心当たりがある模様。でも言ってる内容からして似てるだけかもしれない。
「どうしたらいいかわかる?」
「ええと……うん? あ、これ自然現象じゃないですね」
実はAIじゃないってカミングアウトしてから無機質美人のホログラムは随分人っぽい言動もするようになったなとか考えてたら、聞き逃したらいけないことを言われた気がする。
「えぇ……原因不明の自然現象ってことで保留しませんか……? ああ、でもそうすると無視できないリスクを詳細不明なまま抱え続けることに……」
先輩さんが見ない振りしようとして自分で自分に論破されそうになっている。面白いから放置しておこう。
「つまり、意図的なものかはさておき、私達にとって未知の人類による攻撃だと?」
駐在エルフさんはちょっと飛躍し過ぎじゃないかな。まだ、攻撃と断言しなくても良い段階だと俺は思うなー。
「紫色の梱包材、あれの元がギフトだったらしいというのは覚えていますか?」
「そんな話もあったね」
すでに話の落ちが見えてきた。
「アレと同系統のギフトと思われます。私の取得した権限内でかろうじて処理が可能です。少し待っていてください」
目を閉じて、いかにも裏で何かやってる雰囲気で沈黙した無機質美人のホログラム。人っぽい言動もそうだけど、そういうギフター的アプローチも隠さずやるようになってきたなぁ。前はこっちの次元を離れたりするときに自動応答用システムみたいなのを使ってたらしいが、最近はすぐ戻るなら別に中身入ってなくて良いよねって空気を感じる。
普段無機質美人のホログラムが管理してくれてる≪金剛城≫とかも、無機質美人のホログラムの中身が入っていない状態で問題は起こらないようになってると断言されたので継続してその辺りは任せてある。人種には無理なことでも上位次元のヒトらしい無機質美人のホログラムならダイジョブダイジョブ。
無機質美人のホログラムが何かやってるのを待つことになり、進入禁止宙域に指定した件に関して詳しいことが分からないなりに経緯や現状を≪金剛城≫クルーへ通知しておく。計画段階で特に危険があったわけでもないし、叱られることはなさそうな反応だった。同時に、何かやる場合は些細なことでもとりあえず有人恒星系から離れた何もない宙域で行うことが≪金剛城≫ルールに追加された。
亜次元限界深度チャレンジで下手したら恒星系一つ吹っ飛びかねない事態になるとは想像も……ううん……いつぞや亜次元で遺跡なりをサルベージしたことを考えればありえなくはないかもしれない。
宇宙は広く、さらにその宇宙と隣接した亜次元が広大無辺とはいえ、人種の活動圏という前提ならそんなに広くは……広いか。広いわ。どんな天文学的確率だ。でも可能性が皆無じゃないなら考慮しておかないとダメって教訓を得た事実は揺るがない。今後は新しいことやるなら今まで以上に気を付けよう。
先輩さんのぬめっていうかするっていうかな髪を撫でさせてもらっていたら、無機質美人のホログラムが無言無音のまま動き出して俺の肩を頭でぐりぐりし始めた。
わざわざトラブル解決に協力してくれているお二人に差をつけてはならぬ。無機質美人のホログラムの髪も撫でさせてもらう。毎回手触りが微妙に違うのはそういうファッションなんだろうか。
こういうときに出遅れがちな駐在エルフさんは暫く悩んだ後に、俺の背中をおでこでやんわりぐりぐりし始めた。残念ながら今回の貴女は俺と一緒にやっちゃった側なので、先輩さんと無機質美人のホログラムが優先されます。
「私の方の手続きも、現物の掌握も完了しました。これで貴方の所有物ですね。気が向いたときにでもレクリエーションがてら回収しましょう」
それはそれとして今はスキンシップを優先するということですね。なんか危ないモノ拾ったっぽいのはいったん棚上げして、先輩さんもなんか気づいたら寝ちゃってるし、四人でお昼寝でもしよう。




