04-05
「暇なときにちょいちょい調べてたんですけど、異型コンテナってシールドとかの亜次元関係の技術を使ってたんですよ。で、息抜きにいじくりまわしていたら、異型コンテナの再現に成功しました」
帝国では昔から確認されておりギフトとしてはかなりの数が存在している、外寸よりも明確に内寸の大きい不思議なコンテナ。通称異型コンテナ。アレ、再現できちゃったか。
むふーって感じにムチムチ美人さんが自慢気だ。ちょっと意地悪したい気分が芽を出したものの、自慢してる内容がすごいので言外の要求に従い頭を撫でる。ムチムチ美人さんは豚由来人種だけあって、髪の毛の根元の方は硬めだ。ある程度の長さからは別にそんな硬いって程でもない。
「今回は帝国の方の有人銀河と同じ技術水準での再現に成功しましたけど、あっちで数千年研究を続けても再現できてない異型コンテナとはいえ、私は≪金剛城≫の機材使って外乱要因を完全に排除してるので再現できて当然だったりしますよ。所謂、実験室での成功ですね。あとぶっちゃけ解説とか設計図とかデータベースにありますし、答えは手元にあるわけでして」
「でも、仕組みとかしっかり理解して自分で作れたんでしょ? すごいよ」
俺が本心から称賛してるので、謙遜して見せたムチムチ美人さんは再びむふーっとしてる。なでなで。ほっぺもむにむにしちゃうぞー。
「あれ、再現できるんですね……」
ムチムチ美人さんに連れまわされてることの多い帝国皇女リーダーさんの目がちょっと遠くを見ている。ムチムチ美人さんと一緒にいる時間が長いし、今俺に自慢するよりも前から知ってたんじゃないのかなと思ったら、自分の常識を蹴り飛ばすような現実を受け入れるのが難しく理解を拒んでいたそうだ。で、漸く見ないふりを諦めたと。
これまでの人生で培ってきた常識を更新しようにも上手くできず、処理落ちした機械みたいになってる帝国皇女リーダーさん。ムチムチ美人さんや先輩さんがちょっと優しいまなざしになってるのは仲間意識だろうか。昔はって言うほど昔の感じはしないものの、≪金剛城≫へ来てから暫くはムチムチ美人さんや先輩さんもよく虚無を覗き込んでたもんな。
≪金剛城≫で生活するようになってもう百年――帝国皇女リーダーさんはまだ百年も経ってないか……数十年とか経っているのに、帝国皇女リーダーさんは以前の常識と現在の常識の折り合いを付けられていない。それは単純に、ムチムチ美人さんや先輩さんといった虚無を覗き込む日々を過ごした先達が適度に刺激を和らげていたためなのだが、これはもう適応させてない方が可哀そうだ。
と、唐突にムチムチ美人さんが語り始め、先輩さんはその横でなにやらホロウィンドウをいじっていたと思ったら帝国皇女リーダーさんにあれこれ見せ始めた。どうやら一度完全に以前の価値観に縋る部分を叩きのめすことにしたっぽい。がんばえー。さっさと負けて新しい自分を作り上げるんだ帝国皇女リーダーさーん。
≪金剛城≫で過ごすこと数十年目にして漸く洗礼を受けている帝国皇女リーダーさんはさておき、昨今のじわじわと滲むような周囲からの圧力についてムチムチ美人さんに相談してみる。
「結局のところ、安定しているように見えてその実みんな不安を感じているので、誰にもわかるような形で納得させることが大事なのではないかと思いますよ」
「『なんであの人あれこれ融通してくれるんだろう』とか、『あの人の気分次第で自分たちの生活は破綻するんじゃないか』っていう不安が問題であると」
まあ、その辺は俺でも分かる。無私の善意ってなんだかんだ完全には信頼できないよねって話だろう。
「それを解消するために『あの人の国なんだし、巡り巡って自分の為になるならこれくらいはおかしくないか』って理由を皆にあげるわけですね」
それは分からない。気分次第でヒドイ目に合わされるのは、現在の俺のポジションでも皇帝とか王様とかでも変わらなくない?
「じゃ、こういう例えはどうですか? 治安維持をやってくれるなら、マフィアよりも警備隊が安心できる」
「それはそう」
でもそれだと今の俺はマフィアなのでは? ショバ代なんて取ってないよ俺。ショバ代を取るって言葉は知ってても、それが具体的に何なのかは知らないけど。
「この場合のマフィアっていうのは、正当な理由付けがされていない暴力集団って意味合いですね。警備隊とかも、そういう理由なら良いよねって体面を整えた暴力集団ですからね。本質は変わりません」
「さすがにそれは暴論でしょう」
子供に一足す一を教えるような優しい顔で何言ってんだこの人。
「でも、故郷の警備隊とか軍とか、貴族とか民衆議会の議員を思い出してください」
帝国皇女リーダーさんの常識や固定観念をメッタメタに均し終わったらしい先輩さんがこっちにやってきた。
「正直、なんであいつ等生きてるんだろうとか、なんで偉そうなんだろうって思ってましたよね?」
「無駄に偉そうだなとかは思ったかな」
なんで生きてるんだとまでは思ってなかったと思う。
俺を納得させる役目が先輩さんに移ったのか、ムチムチ美人さんが俺の胴体に抱き着いてむふーむふー言い始めた。
「ああいった寄生虫――寄生虫というのは、利益供与で癒着した警備隊や軍という武力を背景にして偉そうに振る舞って好き放題やっていたわけです。つまり暴力イズパワーが人間社会の真理の一つです」
寄生虫って表現を一回訂正しようとしたのに、結局寄生虫と言い切ったあたりに先輩さんの内心が窺えそう。
「真っ当じゃない貴族や議員が寄生虫も同然なのは分かった。あと暴力イズパワーは人種的な理性を投げ捨て過ぎだけど、まあ、真理だよね」
どれはそれとして、なんか話がずれてる気がする。
「迂遠な感じになりそうですし、スパッとまとめちゃうと――」
「どんな呼び方になったとしても今までと何も変わらないので、わかりやすい名札を付けてほしいっていう話ですよ」
ムチムチ美人さんが俺に抱き着いたまま話を〆ようとしたら、先輩さんがインターセプトして満足そうな顔をしてらっしゃる。ずいっと頭を寄せてきたので撫でる。ぬめっていうかするっていうか。この手触りはとても良いものだといつも思うのです。
「んー……じゃ、ちょっと建国でもしてみるかな。今までと何も変わらないんでしょ? 仰々しい式典とかそういうの絶対ヤだからね」
なんかもう面倒くさくなったので、いつもの様に流れに身を任せることにした。特にやらないといけないこととかないなら、俺は一回頷けばそれで終わりだし。聞いてた話と違ってあれこれ言われるなら≪金剛城≫クルーのみんなと逃げれば良いでしょ。その時のことはその時考えれば良いよ。




