04-04
≪金剛城≫クルーも皆の複製身体を含めれば結構な人数となった。≪金剛城≫建造当初の食堂のままでも余裕はあったが、食堂を拡張……というか食堂の壁際に沿って徐々に構築されていったリラクゼーションスペースを拡張し、パーテーションとかはないもののいくつかのグループに分かれてそれぞれの趣味に合わせて模様替えを行ったのが数か月前。いや、数年前だったかもしれない。
「ようこそおいで下さいました。我ら眷属一同で持成す故、ごゆるりとして参られよ」
なんとなくで大雑把に区画分けされた一つ、デビごっこさんが中心となったというか、デビごっこさんに巻き込まれた数人でデザインした黒や赤でおどろおどろしくもフリフリな絶妙空間にてくつろぐべくふらふらやってきたら、何人かで座れそうなもっふもふの大きな椅子で寛ぎつつ足の長いグラスを揺らすデビごっこさんに歓迎された。相変わらず足がほっそい。
「参られよ、です」
「まいられよ」
もっふもふの大きな椅子の後ろからにょきっと顔を出したのは、帝国皇女末妹ちゃんと掴み所がない四女エルフさん。
掴み所がない四女エルフさんはどこで誰と何しててももう驚かないくらいには色んな所で遭遇してるから、何も問題はない。
いや、嘘だわ。いつだったか、≪金剛城≫の外装で飾りでしかない要塞っぽい部分の一室でお茶会しようって誘われたのはものすごい驚いたのを覚えてる。
≪金剛城≫として見れば、外側の要塞っぽい部分はあくまで飾りでしかなく船の外になる。空気なんかない宇宙空間だ。そんなわけで、船外でのお茶会は宇宙服着たまま椅子に座ってテーブルを囲む異様な絵面だった。デビごっこさんと小さい方のダブルで一番さんが宇宙の彼方へ流されかけるハプニングはあったが、お茶会自体は楽しかった。誰もお茶飲めなかったけど、楽しいお茶会だった。お茶会のためにわざわざ用意した宇宙服なんだし、宇宙服内部で飲食できる機能を付けておけばお茶飲めたんじゃないのかなとはいまだに思ってる。
お茶会の件はまあ、対策も立てたのでもういいか。一件何もない宇宙空間に見えてその実人種が生存できる空間を確保できる特殊なシールドジェネレーターを、あのお茶会の後に≪金剛城≫のデータベースから見つけてある。次回があるかはともかく、次は宇宙服は要らないしちゃんとお茶を飲める予定だ。
今見過ごせないのは帝国皇女末妹ちゃんだ。なんか、気づいたら≪金剛城≫にすごい馴染んでるよね君。帝国皇女末妹ちゃんっていうか帝国皇女さん達はすっかり≪金剛城≫に馴染んでる。
帝国皇女さん達を受け入れた当初は、どこかの惑星の居住可能人工衛星に外交用の部署か何かを設置してどうこうって考えてたはずなんだよなあ。それが今や帝国皇女リーダーさんはムチムチ美人さんの実務面での片腕のようなものだし、他の帝国皇女さん達も元レディアマゾネスSPさん達の下部組織っぽい感じでこまごましたことを任されてる……らしい。
当の帝国皇女さん達が楽しそうだし充実してるみたいだし、ならそれでいいかって俺が納得したため、≪金剛城≫での帝国皇女さん達の扱いが決まってしまった。
一番大きい理由は、意識して探さないとそこに居ると感じさせない高いステルス性を帝国皇女さん達みんなが発揮して、彼女たちがいても俺があんまり気にせず済むからという誰かに知られればちょと叱られそうな理由だったりする。なぜか≪金剛城≫クルーの皆に知られててやんわりと確り叱られた。
帝国皇女さん達は現状のままで良いのかなと考えていたら、ふと疑問が浮かんできた。帝国皇女さん達って今も帝国の皇女なのかな。俺の出身国である帝国って今はもうない――まだあるのか? 本質的には帝国じゃないだけで帝国を名乗る国はあるんだったかな? 面倒くさくなってきたしどうでもいいか。
「どうしました?」
ぼうっとしてた所為で、帝国皇女末妹ちゃんを見つめていた。唇突き出してちゅってリップ音ならされても可愛いなとしか。あれ? でも帝国皇女末妹ちゃんももうウンじゅっさいとかでは?
なぜか帝国皇女末妹ちゃんの視線が鋭くなったので、掴み所がない四女エルフさんを引っ張って抱え込む。俺と帝国皇女末妹ちゃんの間を隔てる壁となって下さい。意味は分からないが掴み所がない四女エルフさんに膝をくすぐられるくらいは我慢する。
「ん、あー。一応帝国の皇女として扱ってる――扱ってる? けど、実際のところは皇女なのかなって考えてた」
ちょっとの間コイツ何言ってるんだみたいな顔をされたが、パっと何かに気づいた表情に変わる帝国皇女末妹ちゃん。
「あ、そうですね。金剛帝国なのに、私達がいつまでも『皇女』じゃ誤解を招きますよね」
「そうじゃない」
「うむ。今はまだ金剛経済圏であるな。帝国の名を冠するのは今ではないのだ若人よ」
「若人よ」
「それも違う」
デビごっこさんの言い分も正しくないし、掴み所がない四女エルフさんも話聞いてないのに雑な相槌入れないで。
どうしたらこの人たちは分かってくれるのか。というか、最近やけに皆が金剛経済圏のことを話題に挙げるのは、超絶不健全な資源とかに関してをどうにかしろって意味なのかな。え、俺が考えるの? いやいや、現在の金剛経済圏を作り上げた主要素が俺だったから、現状を改善する案を一つくらい俺にも考えさせようというだけでしょ。たぶん。
「私は正直なところ≪金剛城≫クルーというよりも金剛樹派ですよ?」
自分の考えに没頭してたらデビごっこさんと帝国皇女末妹ちゃんの話が進んで、聞き覚えのない単語が出てきた。なんかの派閥?
掴み所がない四女エルフさんは話に加わっているのかいないのか、色とりどりの宝石みたいな何かを食べていた。一つ貰うとガツンとくる甘さのなにか。もう一つ貰うとジュワっと果汁が溢れる果物的なにか。更に一つ貰うとピリッと来るほど好い辛さのなにか。美味し。特別大きな外れ味はない様子。心安し。
「だって、≪金剛城≫クルーってあれですよね。お手付きになった人たちですよね。私はどういう対象として見られていないようなので」
「違うよ?」
≪金剛城≫の管理なんかをしてくれてる機械的知性のコミュニティも≪金剛城≫クルーだから。結局セクサロイドは作ってないので機械的知性達は俺のお手付きじゃない。
なにより、お手付きって表現は良くない。俺ととても親しい関係性の皆は、恋人であったり伴侶であったり生きていく上でのパートナーであったり、呼び方はともかく対等な関係性だから。
「ホントですか? じゃあ、私にも望みはあるんですね」
「そうじゃなくて」
否定すべき内容を頭の中でまとめてたら帝国皇女末妹ちゃんが早とちりを――ってデビごっこさんがにまにましてるから、裏で入れ知恵してるでしょ。抱えていたはずなのにいつの間にか居なくなってる掴み所がない四女エルフさんもグルなのかと視線で探してみれば、手が届きそうで届かないところに居て七輪でお餅を焼いていた。しかも火を使う七輪だ。さっきまでそんなのなかったのにいつの間に。
俺をからかうのは一端脇に置いてもらって、初耳の派閥がどうのこうのについて教えてもらった。
金剛純派。
一番古い派閥ということになっている。機械的知性が主導しており、各種人種による奉仕家系が成立しつつある。≪金剛城≫の住人の意志や行動には能動的に関与せず、あるがままの≪金剛城≫の住人を受け入れる。あとめっちゃお世話する。
金剛樹派。
エルフさん達が主体となっている、現在の主流。≪金剛城≫のあの人は感謝を忘れようもない恩人ではあるけど、当人が望んでいることだしできる限り一個の人間として接しよう。できる範囲で、できる限りな。
金剛甲殻派。
奉仕過激派機械的知性と、甲殻類を由来とする人種の極一部が中心。いと高き座たる≪金剛城≫にましますかのお方こそ救世主。敬え、崇め、奉れ。
頭が頭痛で痛い。とりあえず金剛甲殻派にはそれとなく自重してもらう方向で。




