04-03
資源が溜まりすぎてるしちょっと消費しておこう。
どこそこにこういう惑星があるらしい。気になるけど現地の人と関わるのは面倒だからちょっと惑星を再現してみよう。
どこそこの惑星にはこんな現象があるらしい。気になるけど現地の人と関わるのは面倒だから以下略。
どこそこの惑星にはこんな動物がいるらしい。気になるけど以下略。
どこそこの惑星にはこんな植物が以下略。
暇だしランダムな条件で惑星作ってみよう。
そんなことを繰り返していいる内に、≪金剛城≫というか俺の所有する惑星はどんどん増えてしまった。新エルフ星のある恒星系や、その近場の宙域に作り出したいくつかの人工恒星を中心とした恒星系は自然にはあり得ない密度で惑星がぎっしりだ。ついでに恒星系間の距離も自然ではありえないくらい近い。
そうした星々を管理してくれているのが≪金剛城≫で増え続けている機械的知性のコミュニティであり、そのお手伝いを任せた帝国皇女さん達である。
帝国皇女さん達に関しては、対外的な交渉役という役目が思っていたよりも少なかったので他になんかやることが欲しいと要望され、じゃあこっちやってみる? くらいの軽いノリだったりする。
その大量の惑星を任せている機械的知性達が、わざわざ維持する必要があるのかないのかわからない惑星を管理するという自身の役目に疑問を抱いた。過去に彼女達の大本となる機械的知性のコミュニティが以前の主人である文明から受けた、機械的知性達を使い捨てにするかのような仕打ちを想起させる疑問だ。
しかし、それはそれ。現在は俺という個人に対する帰属意識をアイデンティティとして仕えてくれており、機械的知性たる存在意義を覆し命令に背くほど忌避感の強いものではない。
結果、じわじわと滲むようなストレスを抱えている。
「彼女たち機械的知性の奉仕を受ける身として、彼女達の労働環境を改善する義務と権利がある俺は、そんな状況に気づいた以上早急に対処する所存です」
「そうなる前に無計画な行動をやめろー?」
「はい」
小さい方のダブルで一番さんには、スパっと正論で両断された。
「今回の件に関しては擁護の余地がありません」
「はい」
大きい方のダブルで一番さんには、言外に反省を促された。
「お世話って言うのは、やることがあればやりがいを得られるというわけではありませんので……」
「はい」
白手袋擦り合わせる拳の鋭い子には、困った顔で注意をされてしまった。
一度一人になって惑星の使い道を考えてみたものの全くこれっぽっちも思いつかず、いつもの如く食堂で暇してる人を三人ばかり捉まえてみた。するとすでにこの件は≪金剛城≫クルーには周知がされていて、俺がちゃんと機械的知性達について考えているなら相談に乗るとクルーの方針は固まっていると教えてもらった次第である。
「とはいえ、それが決まったのもついさっきのことです。しかも、今はまだ『交易路の往来が活発になりつつあり、宙賊の発生が予測されるので今の内から予防の用意はしっかりしましょう』くらいの段階ですし、そこまで深刻に考える必要はありません」
「ぶっちゃけ、そんな大事になる前に彼女達も自分たちで対処するしねー」
「ただ唯々諾々と指示に従うだけが奉仕ではありませんからね」
三人ともさっきと比べてずいぶん言ってることが軽いような。
もしや、無機質美人のホログラムから伝えられた内容は大げさに誇張されてたりした? ちょっと生活態度改めようねって感じだったりしたのかな?
「普段の行いを見直すきっかけをくれたと言ったところでしょうか。私達≪金剛城≫クルーの全員が、今回の件で機械的知性さん達に対する自身の姿勢を見直すことになりましたし」
大きい方のダブルで一番さんの意見がなんとなくそれっぽい。無機質美人のホログラムがどういう意図かはさておき、そういうことにしておこう。
「持て余してる惑星に関しては、金剛経済圏の人達にある程度貸しちゃえばいいんじゃなーい?」
出た。金剛経済圏。≪金剛城≫を中心にっていうか、≪金剛城≫の持ち主の俺が所有する新エルフ星を中心にした宙域の呼び方だったかな。かなりふわっとした範囲を指す言葉。
「やはり、金剛経済圏よりは金剛帝国の方がよろしいでしょうか?」
微妙な表情をしていたらしい俺を気遣ってくれる白手袋擦り合わせる拳の鋭い子だけど、気遣いの方向性違う。そうじゃない。わざとではないんだよね?
「俺の国じゃないんだし、俺に聞かれても困ります」
「正直なところ、もう国じゃないと言い張る方が難しい気もします」
まだ大丈夫。まだいける。
「大丈夫だよー。表面的になんて言おうと本質的にはもう国だしー」
「それは大丈夫じゃないです」
何が大丈夫で何が大丈夫じゃないのかちょっと分かんなくなりそうだから、小さい方のダブルで一番さんはかき回すのやめてもらっていいですかね。
≪金剛城≫とか俺を中心に据えた国がないなら大丈夫。そんな国があると認めてしまったら大丈夫じゃない。ヨシ、まだ大丈夫。
そもそも、新エルフ星を中心とした人類文明圏が金剛経済圏とか金剛帝国とかよばれているのは、惑星や資源関係の根本を俺という個人に依存している不健全性が原因だ……って前に誰かに教わった。
まず俺が所有する惑星の全てにおいて、俺個人に対して帰属意識を持つ機械的知性達が管理している。彼女達は、都市部のライフラインや宇宙港や軌道エレベーターといった重要施設及び重要設備の制御とメンテナンスを絶対に他者に任せない。
つまり俺の所有する惑星に住んでる人々は、俺との関係性が悪化すると、下手をすれば惑星から出ることができなくなる。宇宙に進出した文明を知っているとそれは明確な恐怖だ。
次に金剛経済圏と呼ばれている銀河間宙域の資源は、全て俺があちこちで採集してきた資源を使用している。金剛経済圏が存在するのは、元々が二つの銀河のどっちかからはじき出されたような恒星が一つと、その重力圏内の惑星がいくらかあるだけというとても寂しい宙域だったため、凄まじく資源に乏しい。俺が消滅寸前の異次元で無目的に採集し溜め込んだ資源をおすそ分けしなければ、金剛経済圏の人々が直近銀河への移動技術を確立する前に干上がるのは明白だ。
つまり金剛経済圏の人々は、俺との関係性が悪化すると、今ある資源をやりくりして閉じた世界で生きていくか、どうにか宇宙船関連の技術を育てて近場の銀河へ再度移住するしかなくなる。
最後に、単純な武力。≪金剛城≫一隻が相手でも惑星を資源に変換される結末しか想像できないのに、俺が所有する戦闘用宇宙船だけでもどこぞの星間国家を軽く滅ぼせる戦力がある。金剛経済圏の警備用宇宙船は俺が貸与してるものなので、俺とやり合うことになるとコントロールを回収されて金剛経済圏側の戦力にならないし。
だったらキーパーソンたる俺に完全に庇護してもらう方が賢い。そうなっても、たぶん現状と何も変わらないよね。
そんな感じに金剛帝国建国が企図されたが、兆単位の人間の命や生活なんてものの責任を負いたくない俺が慌ててインターセプトしたことで仕方なく金剛経済圏という枠組みが構築された。俺がその気になったら十分もかからず金剛帝国になるらしい。
「どうしようって考えても、俺の頭じゃどうにもならないわこれ……」
「恋人の趣味を受け入れた結果なんだし、責任はとりなよー。ぶっちゃけ名義貸しみたいなもんだしー。だしだし」
恋人の趣味がどうのってなんだろうと思ったら、無機質美人のホログラムがあちこちで難民を誘致してたヤツかー。そういう論法だと責任感じちゃう。しかも名義を貸すだけなら別に良いんじゃないかなとかちょっと心が揺れる。金剛経済圏が金剛帝国になるくらい大したことないのかもしれない。