04-02
「なんだかんだみんな結構楽しんでるのでー、そろそろゲームフィールドを拡張したいでーす」
何回目かは忘れたデスゲーム風サバイバルゲームが俺を残してどうしようもない感じにみんな共倒れした後、今回のゲームを振り返ってあれこれ喋ってたらゆるくてふわふわさんがちょっと直ぐには答えられない要望を上げてきた。びよんと伸ばされた腕がぐねぐねしている。
「場所自体はいくらでもありますが……」
リーダーさんも前向きっぽい雰囲気を見せつつ即断できていない。
「増やすのは良いとしても、それ以前に今でも広さは十分じゃない?」
今使ってるのは≪金剛城≫の特型艦船用ドックのいつぞやパージしたヤツだ。戻す前に新しい特型艦船用ドックを≪金剛城≫内に新規建造したので使い道に困り、銀河間宙域の資源集積宙域に放置してたのを再利用している。
特型艦船用ドックは内寸が一辺60キロメートルの立方体で、重力に対して垂直方向60キロメートルは明らかに無駄なので30層に分けてそれぞれのコンセプトを決めてフィールドをデザインしてあるし、今までゲーム中に狭いと感じたことはない。平面に換算すると60かける60が30面で……いちまんはっぴゃく平方キロメートル……? ……とにかく現状でも広い。300キロメートルかける360キロメートルだとまだ想像できそう。実際にはまるで想像できない。
あ、≪金剛城≫が全長400キロメートルで全幅300キロメートルだから――そもそも≪金剛城≫の外寸がどんなもんかなんて感覚的に把握してないわ。
「ぶっちゃけー、惑星を一つ専用にしてみたいなーってだけでーす」
「素直なのはいいことだ」
「やったー」
ゆるくてふわふわさんが両腕を上に伸ばして全身で前後左右にゆらゆらしているのは喜びを表現しているのかな。でもゆるくてふわふわさんは海月由来人種だ。海月はそっちに足を伸ばさなかったような気がする。見てて和むならなんでもいっか。
「万事における長所とは言い難いですね」
惑星一個欲しいって内容に対してノータイムで良いよって頷きそうになり、とっさに話をずらしたらリーダーさんに苦笑されてしまった。でもゆるくてふわふわさんが喜んでるのでヨシ。
「異次元で分解したのをこっちで再生した星とか、新しく作った星とか、もういくつあるか俺には分かんないくらいになってるよね。使ってない惑星の一つくらいあるでしょ。なんだったら新しく作れば良いけど……」
ゆるくてふわふわさんと視線が合い、二人そろってチラッとリーダーさんに視線を向けると首を横に振られた。
「管理を任された人種の担当者が一時期発狂しかけていたのを考えると軽々には扱えません」
帝国皇女リーダーさんね。厳密には機械的知性のコミュニティに管理を投げて帝国皇女チームにお手伝いを頼んでみたら、帝国皇女チームをまとめてる帝国皇女リーダーさんが新参なのにこんな重要な役目をって気負い過ぎてヤバいことになってたりもしましたね。 Foooooo!!!!!! って叫びながら連続バク転で通路を移動してるの見たらさすがに反省しました。
んん? でもあれって心労で気が滅入ってるから気分をぶち上げようと完全に安全なドリンクを飲んだら、体質との相性を事前にチェックを忘れてた所為で完全に安全に体質と合致し過ぎて、完全に安全にテンション上がりすぎただけじゃなかったっけ。
「細かいことはさておき、ルールを決めた以上はそれに従うべきでしょう」
俺の表情の変化から深く突っ込まれる気配を察したのか、やや強引に正論先制パンチで話をまとめるリーダーさん。
リーダーさんもあの時のドリンクに一枚かんでるとか? 俺に実害はなかったので何も言いませんよ。帝国皇女リーダーさんも直後のメディカルチェックで超絶健康体って結果が出てたので完全に安全でありなにも問題はなかった。
「機械的知性の立場から意見を述べさせていただきますと、用途未定の惑星を管理するというタスクを担うコミュニティの平均ストレス値が、他コミュニティよりも数ポイント高いのは無視できません」
「あー……そっか。ウチに居る機械的知性達って同じような作業を命じられたまま危ない感じに煮詰まった経験を共有してるんだっけ」
唐突に現れた無機質美人のホログラムは機械的知性じゃないって点には言及しないでおこう。これは正しくないか。無機質美人のホログラムは機械的知性じゃないくても、中の人が実家? に帰ってる間は機械的知性が中に入ってるんだっけ。今、中の人が実家に帰ってるなら、今は機械的知性の立場で正しいわ。
「アバターを動かしている意識体は現在本体と接続しているので、機械的知性を自称するのは正確ではなかったことを訂正してお詫び申し上げます」
「はい」
あれこれ無駄に考え込んでいたら謝られてしまった。俺が勝手に深く考えてただけで、別に謝るほどのことじゃないのに謝らせてしまってむしろこっちこそなんかごめんなさ――笑ってる? 今絶対、無機質美人のホログラム笑ってたよね。人が珍しく真面目に悩んだり罪悪感を抱いたのに弄んでやがったなちくしょうめ。
「むきー」
「それはそれとして、機械的知性達のストレスが高くなっているのは無視できません。改善すべきでしょう」
手のひらで転がされたことに遺憾の意を表明したのにリーダーさんに雑に流されてしまった。確かにそっちの方がはるかに重要だ。そんな怒るようなことでもないじゃれ合いは横に置いておこう。
「改善案としては、各惑星に確りと役目を与えればよいと思われます」
「自然発生した惑星じゃなくてー、人工の惑星なんだからー、本来用途がないっていうのがおかしいですよねー」
「ぐふっ」
無機質美人のホログラムとゆるくてふわふわさんの、本来なら明言化する必要もない正論に打ちのめされた気分。
気分とノリに任せて必要もないものをたくさん作って管理を機械的知性達に任せた私が諸悪の根源です。
「真面目に何か考えます」




