03B-02(01-01~01-12)
01-01
ええ……どうしようこれ……。完全に予定にないところにギフト放り出しちゃった。
斜陽の帝国なんてあんまり良い環境じゃないよねえ。下り坂って聞くだけで余裕がないように感じるし、そうなると荒っぽい人が多そうに思える。この次元の住人には無理な手段で統計を取ってみれば、実際に宙賊の犯罪は増えて検挙率は下がってる。
うーん……すれ過ぎてるような人はあんまり趣味じゃないんだよなあ。
急いであれこれ調べた結果、【自律汎用巡洋艦プラウン】は一度回収することを決めた。
しかしその時になってようやく有人惑星の衛星圏内だなんて人口密集宙域にコンテナが放り出されていると気づき、対応が遅れたために現地の人に見つけられてしまったところだった。
コンテナを見つけてしまった人の頭の中をちょっと覗かせてもらったところ悪人ではない。でも善人と呼べるほどではない小市民な印象を受ける人だった。
【自律汎用巡洋艦プラウン】などというこの次元において大変危険な兵器が悪人の手に渡るならともかく、拾ったのが毒にも薬にもならないような人だと強引な手段でなかったことにするのは躊躇われる。
さらに重要なのが、少なくとも善意から【自律汎用巡洋艦プラウン】の入ったコンテナを拾った点。違法な労働環境の被害者が輸送途中で放置された可能性を考え、不審なコンテナを牽引して近くのハビタットまで輸送しようという行動は、完全な善意でなくとも善行と表するべきだろう。
あげちゃっても良いかなって思ってしまった。
01-02
この人、ギフトに関して全く知らなかったのかあ。
自分の精神安定のためって言っても人命に配慮して落とし物拾って公的機関に届けたらそのまま軟禁されたら気分悪いよね。なんかごめん。
ま、でも担当者もまともみたいだし、特に問題は起こりそうにないからこのままで良いかな。暫く経過観察して余程ひどいことにならないなら私が直接見守る必要もないでしょ。
斜陽の帝国ってだけで住人に対しても先入観持ったのはこれから気を付けないとだね。
01-04~01-07
ギフトのコンテナが初期設定のままだった所為で意味のないパスワード認証とかさせちゃったり。
各種コンテナ式プラントをいくつもおまけにつけた盛り盛りギフトセットにしちゃってたり。
ちょいちょいギフトを拾った青年に誤解されたりしているものの、狙い通り贈り主の私に対する印象は悪くないようだ。呪詛吐いてる様子もないし多分好印象。いや、別にまだこの青年と特別仲良くなるつもりではないので、好印象だからなんだって話ではあるけど。
ギフトの巡洋艦を使って運送業を再開したときには、人がゲームのチュートリアルやってるの眺めてる気分になった。船のスペックはちゃんと確認しようよツマラナイ人だなーと、控えめに表現して我ながら失礼な感想を抱いたりした。
でも宙賊に襲われてハラハラしたり、その撃退に慣れていって一端の宇宙船乗りに成長していく様子を眺めていると、こう……こいつは私が育てたみたいな誇らしい気持ちが芽生えているのを自覚する。長期密着ドキュメンタリーを見てるみたい。
運送業をやめて採掘業に移ったときは、先々を見据えていてエライなこやつだなんて最初とは真逆に応援したほどだ。
01-08~01-09
え、待って待って待って。もう|I.M.S.I.《人種絶対殺すAIの集団》が支配する領域に飛び込むの?
宇宙船を操縦するチュートリアル終わったと思ったらもうそんな危険宙域行くの?
確かに君が≪海老介≫と名付けた【自律汎用巡洋艦プラウン】のスペックなら何の危険もないけどね、まともな感じの対宇宙船戦闘のチュートリアルとか先に済ませる方が今までの方針には沿ってるんじゃないの?
宙賊とか近場にいっぱい居るよ?
ギフトで結構すごい宇宙船を手に入れたくせに堅実にしっかり歩んでると思ったら、頭の中を覗く限りだとそこまでおかしくはない……のかなあ……?
いや、おかしいわ。秘密基地を作るにしてもそんな危ないところにする必要はないでしょう。
それはそれとして、ギフテッドに対処する機関から派遣された女性職員とほどほどに仲良くしようとして上手くいってないのは応援したくなる。
見た目が良い所為でまともな恋愛経験のない相手だし、毒にも薬にもならない青年がちょっと押せば結果的にはどっちにとっても上手いこと行きそうなのが見ていて笑えてくる。
青年が頭の中でムチムチ美人さんって呼んでるこの人も気に入ってきちゃったかも。
彼女にも何かあげて手助けできたらなって思うんだけど、ギフトを送り込むのにワームホールを経由させて出所を偽装しないといけないルールがある以上、宇宙に出てくれないとピンポイントで物をあげたりできないんだよね。
もどかしいわー。
あれ? 秘密基地って【生産研究型防衛拠点テストゥーディニダエ】を建造するための施設のことなの? もう防衛拠点の建造なんて展開が早すぎる。
危険な宇宙怪獣の群れをずばーっと薙ぎ払ったりしちゃうし、運送業でちまちまやってた最初期のスローライフ感はどこやったのよー。
01-10~01-12
【生産研究型防衛拠点テストゥーディニダエ】も完成して、深宇宙の探索か。長かった……わけもなく早すぎる。チュートリアル終わったらエンドコンテンツって短縮し過ぎでしょ。
でも、【自律汎用巡洋艦プラウン】をギフトにしたのがそんな巻き進行の原因だから、青年は悪くないんだよねえ。せめてコンテナ式工廠プラントさえつけてなければもっと段階を踏んで強化イベントとか起こせたんだけど。
ま、今更気にしても意味ないか。考えるならこれからどうやって青年の一行に接触して私もあの防衛拠点、≪金剛城≫に潜り込むかでしょ。切り替えていこ、切り替えて。
いくつもの案を練っては破棄していたら、大して待つこともなく絶好の機会がやってきた。
≪金剛城≫の進行方向に天然ワームホールが発生するとなれば、この絶好の機会を逃してはならない。
この次元における私の意識体を受け止める器となるギフトを用意し、送り込むための接続口をワームホールに繋げて放出。あとは拾ってくれるよう祈るだけ。
贈ったギフトを拾ってくれたなら、あとは簡単。私の意識体を基に構築したアバターで上手いこと機械的知性を装って、≪金剛城≫の管理を預かり私無しではいられないようにしてやる。
……はずだったのに、ギフトを拾ってくれたもののそれを解析し始めてしまった。≪金剛城≫の設備ではある程度の結果が出るまで時間がかかるよー。




