第95話 坂崎環奈⑥
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■坂崎環奈視点
「あ、正宗くん! 環奈さん!」
ステラに着くと、既にホールに出ていたハルさんが笑顔で私達を迎えてくれた。
ハルさん……。
「さあさ、今日は忙しいですよ! 正宗くんと環奈さんはお客様のオーダーをお願いします!」
「「は、はい!」」
ほんの少し面を食らった私とまーくんは、ハルさんのテンションに若干戸惑いながらも、お客様の注文を受けにいく。
その後は、いつものように忙しい中で順調に仕事をこなしていって……。
「やあ、みんな頑張ってるか?」
羽弥さんが笑顔で店を訪れた。
そして、そのままイートインの席に座る。
「ええと、羽弥さんご注文は?」
「むむ、そうだな……うん、今日はホットコーヒーと和栗のモンブランにするよ」
「はい」
羽弥さんからオーダーを受けると、私はショーケースの裏でモンブランをトレイに乗せ、マグカップにコーヒーを注ぐ。
「はい、お待たせしました」
「うん、ありがとう」
そう言って羽弥さんは微笑むと、そっと私に一枚の紙きれを渡した。
なんだろう……?
私はそれを受け取ると首を傾げながらショーケースに戻り、その紙きれを開いてみる。
『今日のバイト終了後、駅前のファミレスで私とハル、環奈の三人で話がしたい』
私は羽弥さんを見る。
彼女は、にこやかな微笑みを浮かべながら、コーヒーを口に含んでいた。
……三人で、かあ。
私はお客様のレジ対応を終えたばかりのハルさんに近づいて耳打ちする。
「(……羽弥さんから、今日のバイト終了後、三人で話がしたいって……)」
「(……そうですか)」
ハルさんは目を瞑ると、静かに頷いた。
「さて、そろそろ帰るかな。あ、そうそう、正宗」
羽弥さんが席を立つと、テーブルの片付けをしていたまーくんに声を掛ける。
「今日は用事で遅くなるから、晩ご飯とお風呂は先に済ませておいてくれ」
「あ、うん、分かった」
それだけ言い残すと、羽弥さんは店を出て行った。
……さて、仕事仕事。
◇
「「「お疲れ様でしたー!」」」
「三人共お疲れ様! 明日もよろしくね!」
閉店時間を迎え、店内の清掃を済ませた私達は店長に挨拶すると、帰り支度を始める。
「あ、そうだ。まーくん、今日は私、寄る所があるから先に帰って」
「お、おう、そうなの?」
既に支度を終え、更衣室の前で私達を待っていたまーくんにそう告げると、まーくんは少しだけ寂しそうな表情を浮かべた。
「じゃあ、今日はハルさんと二人だけ「すいません、私も別件がありまして……」」
更衣室から出てきたハルさんが、申し訳なさそうにまーくんに告げる。
「あ、は、はい……じゃあ俺、帰りますね……」
まーくんは背中に哀愁を漂わせ、とぼとぼと一人帰って行った。
「さて……行きましょうか」
「ええ……」
私とハルさんは頷き合うと、駅前のファミレスへと向かった。
店内に入ると、既に来ていた羽弥さんが、一人コーヒーを飲んでいた。
「羽弥さん」
「羽弥」
「……来たか」
私達も席に着いてドリンクバーを注文すると、私はアイスレモンティーを、ハルさんはジャスミンティーを選んで席に戻る。
「さて……二人に集まってもらったのは他でもない。正宗のことだ」
「「…………………………」」
私達三人がこうやって集まる理由なんて、まーくんのことしかない。
私達は静かに頷き合うと、羽弥さんが話を続けた。
「……ここにいる三人は、みんな正宗を愛していて、どのような形であれ正宗に想いを告げた」
「「…………………………」」
「そこで提案なんだが、私達は正宗が結論を出すまで、変にアプローチしたりせずに、普段通りに接しながら見守りたいと思うんだが、どうだろうか……?」
そう言うと、羽弥さんは私とハルさんを交互に見つめた。
私は……。
「……私は、羽弥さんの意見に賛成です」
だって、まーくんがすごく苦しんでいること、知ってるから。
私達三人の全員が誰よりも大切で、誰よりも傷つけたくないことを、知ってるから……。
「……私も、それでいいと思います」
唇を噛みながら、ハルさんもそう答える。
ただ、私の目に映るハルさんは……すごく苦しそうだった。
「そうか……ありがとう……」
羽弥さんが私達に向かって深々と頭を下げる。
「や、やめてください……みんな、まーくんが大切なのは一緒じゃないですか……」
「ええ……そうです、ね……」
「二人とも……」
その後、私達は細かなルールを決めた。
絶対に、抜け駆けしないこと。
まーくんから求められない限り、まーくんには触れないこと。
まーくんと接する時は、決して好きだって感情を見せすぎないこと。
そして……まーくんが三人のうち誰を選んでも、ちゃんと祝福すること。
私達は頷き合うと、ファミレスを出て解散した。
まーくん……私達は、いつまでも待ってる。
だから……だから、いっぱい考えて、いっぱい悩んで、そして、まーくんが幸せになれる答え、見つけてね?
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