第93話 青山晴⑧
ご覧いただき、ありがとうございます!
お待たせしてしまい、申し訳ありません!
「はあ……」
部屋のベッドで寝転びながら、思わず溜息を吐く。
やって……しまいました……。
ですが、これは正宗くんがいけないんです。
正宗くんが、環奈さんと……。
修学旅行から帰ってきた時から気づいていた。
正宗くんと環奈さんが京都で別れた時はよそよそしかったのに、駅に迎えに行ったらなぜかその距離が縮まっていたことを。
胸にモヤモヤしたものを抱えたまま今日を迎えて大学に行ったら、今度は羽弥の様子がおかしかった。
問い詰めても、羽弥は顔を逸らして。
『すまない』
その一言だけ。
見れば、羽弥は今にも泣きだしそうな表情だった。
羽弥がこんな顔をするのは、正宗くんのことだけ。
そして、ステラで正宗くんに問い質したら……答えは案の定、でした。
だから……だから私は……。
「正宗くんに、キス、を……」
そう呟くと、私はそっと自分の唇を指でなぞる。
その感触を思い出すように。
だけど……だけど、初めてのキスの味は、小説や映画などで表現されるような、そんな甘酸っぱいものじゃなくて。
……ただ、苦かった。
「嬉しいはずなのに……大好きな人とキスができて、嬉しいはずなのに……!」
私はポスン、と力なくクッションを叩く。
そして……私の目から、涙が溢れてきた。
「正宗くん……正宗くうん……!」
私は正宗くんが好き。
誰よりも……羽弥よりも、環奈さんよりも。
でも。
「グス……正宗くんは……違うんですよね……?」
私はあの時の正宗くんの顔を思い浮かべながら、ポツリ、とそんな言葉が零れた。
イヤだ!
正宗くんを誰にも渡したくない!
そう考えると、私の中でどす黒い感情が渦巻く。
正宗くんを誰もいない場所まで攫ってしまえれば……そんなことを考えてしまう。
「……そんなことしたら、本当に正宗くんに嫌われてしまうのに、ね……」
私、は……。
ベッドの上に放り投げたスマホを手に持ち、RINEを開く。
そこに映るのは、正宗くんのアイコン。
電話……ううん、やっぱり……。
その時。
——ピリリリリ。
「っ!?」
突然の電話に驚いてしまい私は息を飲む。
だって……発信者は、正宗くん……。
どうしよう……出る? 出ない?
私は自問自答を繰り返し、そして。
「……もしもし」
……私は、通話ボタンをタップした。
『あ……ハルさん……今、いいですか……?』
「は、はい……」
電話の向こう側で、正宗くんがたどたどしく話す。
ああ……正宗くんの声だ……。
それだけで、私の心は踊ってしまう。
嬉しくて、でも、苦しくて……。
あ……それよりも。
「それで……」
『あ、あっと……その……』
正宗くんが口ごもる。
でも、用件は今日のこと、ですよね……?
「正宗くん……もう一度、言いますね……? 私は、負けませんから……諦めませんから……」
『…………………………』
正宗くんはただ静かに聞いている。
私の言葉を……私の決意を……。
そして、私は自分の想いを告げる。
「私は……正宗くんが、好きです……」
『っ!?』
電話越しに正宗くんが息を飲む音が聞こえる。
言った。
言ってしまった。
正宗くん……あなたが、好きだと……。
『お、俺……は……』
「……返事は、急ぎませんから……」
そう告げると。
「失礼します」
『あ……』
正宗くんが何か話そうとしていたけど、私はそれを遮るように、拒否するように通話終了のボタンをタップした。
「はあ……」
正宗くん。
正宗くん、正宗くん、正宗くん。
私は怖かった。
正宗くんに断られることが、私を否定されることが。
「私……」
明日から、正宗くんとどう向き合おう。
もう……今までのようにはいかない。
正宗くんだって……私だって、これから正宗くんとどう接していいのか分からない。
もちろん、羽弥や環奈さんとも。
でも。
「私は……私は……!」
——ピリリリリ。
まさか!?
私は慌ててスマホを取る。
だけど。
「……大学?」
ディスプレイに映るのは、大学の電話番号。
「……はい」
『ああ……青山さん、夜分すいません。里山ですが』
「先生!?」
電話を掛けてきたのは、ゼミの先生……里山教授だった。
『いや、ちょうど“向こう”の教授とオンラインで話をしていましてね。それで、君のことを紹介したら、是非にと言ってくれたんです。どうです? “あの話”、かなりチャンスだと思うんですが……』
「すいません……少し、考えさせてください……」
『あ、ああ……そうですね。ゆっくり……とはいきませんが、青山さんが納得できるように、よく考えてみてください』
「はい……ありがとう、ございます……」
『それでは、失礼します』
「失礼、します……」
通話を終え、私はクッションに顔をうずめる。
私、は……。
正宗くんへの告白と、里山先生の言葉が頭の中でごちゃ混ぜになりながら、私は眠れない夜を過ごした。
お読みいただき、ありがとうございました!
とりあえず、ハルさん視点、投稿です!
次回更新の際は、Twitterにて報告します!
また、本日新作を投稿しました!
「陰キャなクラスメイトが実は人気の若手俳優なんだけど、なぜか俺はソイツの幼馴染にウザ絡みされてますが!?」
下のタグから行けますので、ぜひぜひご一緒にお読みください!
少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、ブクマ、評価、感想をよろしくお願いします!




