第9話
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「え!? 正宗くん!?」
店に入り俺を出迎えてくれたのは、なぜかウェイター姿のハルさんだった。
「ど、どうしたんですか!? こんなところで!?」
「あ、その、私、先月からここでバイトしてまして……」
「そ、そうだったんですか……」
そういやここ最近、ステラに来てなかったもんなあ……知らないのも当然か。
「だ、だけど、どうしてウェイターの格好を?」
「あ、こ、これは……」
俺が尋ねると、ハルさんは目を伏せた。
……そういえば。
俺はキョロキョロと店内を見渡す。
すると、思った通り女性客達はハルさんを見ながらキャーキャー騒いでいた。
……なんだよ、なんなんだよコレ。
「ねえハルさん、こんな店で働くの、もう辞めちゃおうよ」
「え……?」
つい俺はハルさんにそんなことを告げた。
だってそうだろ!
こんな素敵な女性のハルさんが、なんで男の格好をさせられなきゃいけないんだよ!
「あ、ち、違うんです!」
「違うって、なにがですか?」
なにも違わないよ。
こんなの……こんなの、ハルさんを見世物にして、客集めしてるんじゃないか!
「そ、その、これは……」
ハルさんは、少し申し訳なさそうな表情をしながらも、なおもこの店を弁護するようなそぶりを見せる。
すると。
「んー! やっぱりハルちゃんがいると、店が華やぐわね!」
出たな、ステラの妖怪店長。
ステラのケーキは他のケーキ屋と比べても一段上の美味さなんだけど、この店長がその……独特というか、個性的というか……ねえ。
「ん? あらあ! カワイイ男の子じゃない!」
「げ」
どうやら俺は店長にロックオンされたようだ。
だけど……これは好都合かもしれない。
「いらっしゃい! 今日は……」
「すいません店長、少し話があるんすけど」
「話? あらあ、何かしら?」
そう言うと、店長が訝し気な表情を浮かべ……いや、なんだか値踏みをするような、そんな感じだ。
「その……なんでハルさんが、ウェイターの恰好なんかさせられてるんですか?」
「へ?」
俺の言葉を受け、店長はキョトンとした。
「なんで……なんでウェイトレスの衣装じゃないんですか! ハルさんは女性ですよ! なのに!」
俺は客が大勢いる中、つい大声で叫んでしまった。
だって、こんなの理不尽で、許せなくて。
あの可愛い服を憧れるような視線で眺めていたハルさんに、こんな無理を強いるようなことを!
すると。
「ププ……! アハハハハハ!」
突然、店長は腹を抱えて笑い出した。
「何がおかしいんですか!」
「だってそりゃそうよ! うちの制服、男も女も一緒ですもの!」
……………………へ?
「だ、だけど、今まで女の人はこんな……!」
「というか、女の子を雇ったの、ハルちゃんが初めてなんだけどね」
……………………アレ?
「そ、そうでしたっけ……?」
「そうよー! だから、別にワタシはハルちゃんを無理やり男装させたりなんてしてないわ。それこそ、ワタシのポリシーに反するもの」
む、むう……店長が言うと、妙に説得力がある。
「それに、お客さんだって、ハルちゃんが女の子だって知ってるわよ?」
「そ、そうなんですか?」
「ええ。ま、ハルちゃん目当てで来てることは間違いないけど。ホラ、女の子だけの有名な歌劇団あるでしょ? アレのファン心理と同じようなものよ」
ああ……確かにアレは、みんな女性ファンだよなあ……。
……てことは。
「す、すいませんでした!」
俺は慌てて店長に深々と頭を下げた。
ヤベエ……やっちまった……。
こ、これでハルさんに迷惑かかったりしたら、どうしよう……。
「あらあら、別に謝らなくてもいいわよ。だって、ハルちゃんのためを思ってのことでしょ? ねえ、ハルちゃん?」
「あ、は、はい……その、正宗くんが私のためにそんな風に言ってくれたこと、すごく……嬉しいです……」
そう言いながら、ハルさんは顔を赤らめ、もじもじしながらはにかんだ。
うわあ……すごく可愛い……。
「だけどそうねえ、せっかくお客さんが楽しんでくれてたのに、チョット水を差すようなことになっちゃったから、ヤッパリ何か責任を取ってもらおうかしら?」
店長は俺を見ながら、ニヤニヤと笑みを浮かべる。
「うーん……あ、そうだ! アナタ、今日は一日うちのお店の手伝いをなさい! それくらいはしてもらわないとね!」
「は、はあ……」
ま、まあそれくらいなら……。
「じゃ、そういうことだから。ハルちゃん、彼にイロイロ教えてあげてね」
そう言い残し、店長は厨房へと入って行った。
「うふふ……正宗くん、今日はよろしくお願いします」
「あ、こ、こちらこそ」
「じゃあまず、制服に着替えていただきますので、私のあとについてきてくださいね」
「は、はい」
俺はハルさんについて行き、更衣室を案内される。
「このロッカーが空いてますから、ここを利用してください。ええと、正宗くんの身体に合う制服は……」
ハルさんはロッカーの上にある段ボール箱をガサゴソと漁る。
「あ、これですね。じゃあ正宗くんはこれに着替えて、また店内に戻ってきてください」
「あ、はい」
「私は先に店内に戻っていますから」
そう言うと、ハルさんは更衣室を出た。
「な、何だかおかしなことに……や、それも俺の自業自得ではあるんだけど……」
俺はハルさんが用意してくれた制服に着替えながら、つい呟いていた。
「だけど……ハルさんと一緒に働くのは、ちょっと楽しみだな」
気がつけば、俺は自然と口元を緩めていた。
お読みいただき、ありがとうございました!
ちょっと多めにストックができましたので、明日は朝と夜の2話投稿します!
ということで、次話は明日の朝投稿予定です!
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