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第87話

ご覧いただき、ありがとうございます!

「うおー! デカいな!」


 俺達は奈良の東大寺にある大仏を下から見上げている。


 いやこれ、今から一三〇〇年くらい前に作ったんだろ?

 当然今みたいに機械もないし、全て人力でってなると、とんでもない労力だな……。


「ねー、すごいねー」


 同じく俺の隣で環奈が、ほへーという顔をしながら大仏を眺めている。


「おう、なんかロマンを感じるな」

「あー、そういえばまーくんって、歴史とか好きだよねー。学校の成績も、歴史だけやたらと成績いいし」


 う、うむ……まあ、俺が歴史好きなのって、完全にゲームの影響ではあるんだが……それは言わないでおこう。


「ねえねえ、まーくんはどんな大学に行こうと思ってるの?」

「俺? いや、うーん……まだ二年生だし特に考えてない」

「えー! ていうか“もう二年生”なんだよ!? そろそろ真面目に進路考えないとヤバイよ!」


 うーん……そんなものなのか?


「そういう環奈はどうなんだよ?」

「え!? わ、私!?」

「おう」


 ん? 俺が尋ねたら、なんでそんなしどろもどろになってるんだ?


「う、うん……い、一応私にも夢があって、その……」


 そう言うと、環奈はもじもじしながら俯いた。


 だけど俺は、その環奈の夢ってやつを覚えている。


 あれは小学校の卒業文集だったっけか。

 それに『将来の夢』ってのがあって、そこに環奈はハッキリと書いてたんだよなあ。


『私の夢は、学校の先生になることです』


 今でも、あの決意に満ちた文章は心に焼き付いている。

 俺はそれを見て、なぜだか分からないけど、環奈をカッコイイって、スゲエって思ったんだよな。


「環奈なら、絶対にいい先生になれるよ」

「っ! ま、まーくん私の夢……覚えてくれてたんだ……」

「うん、まあ……」


 え、ええと、そんな瞳で見つめられると……昨日のこと、思い出しちまう……。


「ね、ねえまーくん、その、もしよかったら……」

「おーい、先に進むから早くしろー!」


 環奈が何かを言おうとしたところで、先に進んでいた佐々木が俺達を呼んだ。


「おー、今行くー! 環奈、行こうぜ」

「う、うん……」


 すると、環奈は言いそびれてしまったことで、見るからにしょんぼりとしてしまった。


 だから。


「……俺も、できれば環奈と同じ大学に行きたいと思ってるよ」

「ま、まーくん……う、うん!」


 そう言うと、環奈の顔がパア、と明るくなった。


 俺はそんな環奈の顔が眩しくて、だけど、心のどこかで後ろめたさを感じで、あえてこれ以上環奈の顔を見ないようにしながら、佐々木達に合流した。


 ◇


「……なあ」

「……ああ」

「……デュ、デュフフ……」


 奈良の寺社仏閣の見学を終え、今日のホテルに着いたんだけど……。


 ホテルは明らかに寂れていて、もはや廃墟と呼んでもおかしくない有様だった。

 部屋に入っても、窓がひび割れていてセロテープで補強してあったり、座布団に座るとボフッっと埃が舞ったりしていた。


 ハッキリ言って、京都のホテルと比べて雲泥の差なんですけど!?


「つーか、誰がこのホテル選んだんだよ!」

「デュ、デュフフ……何でも“あの”松木が決めたとか……」

「「松木い!?」」


 俺と佐々木は、思わず声を上げた。


「な、何でアイツが俺達の修学旅行の宿を決めるんだよ!」

「デュ、デュフフ……松木は処分を受けるまでは、一応生徒会顧問をしていたわけで、それなりに地位があったでござるよ……そして、校内の修学旅行の選定委員を務めていたんでござる……」

「な、ん……だと……!?」


 お、俺達がこんな目に遭ったのは、全部あの松木のせいだってことかよ……!


「ちょ、ちょっと待てよ! だったらなんで京都はあんないいホテルなんだよ! 矛盾してるだろ!」

「デュフフフ、京都に関しては、教頭先生が三年目に決めて以降、続けて利用していますからな。松木もさすがに手を付けられなかった、ということでござろう」

「「お、おのれ……松木いいいいいっ!」」


 俺と佐々木は、松木への最大限のヘイトを込め、大声で叫んだ。


 ◇


『……うわあ……大変だったね……』


 俺はホテルのロビーで、別のホテルに宿泊している環奈とRINEで電話をしていた


 つーか、女子だけ違うホテルに泊まるってどうよ!?


 ……まあ、さすがに女の子にこんなホテルに宿泊させるわけにはいかないし、万が一宿泊することになったら、それを決めた奴は間違いなく学校に居場所がなくなるだろうけど。


「でさあ、せめて風呂だけでもって思ったんだけど……壊れてるのか熱湯しか出ないカランと冷水しか出ないカランの二種類しかねえんだよ……」

『ええと、それってたまにあるんじゃ……』

「環奈が言ってるのは、並んで熱いのと冷たいのがついてるカランのことだろ? そうじゃなくて、十人分のカウンターの左半分が冷水しか出なくて、右半分が熱湯しか出ないの!」

『ええ!? それじゃ、身体を洗ったりする時はどうしたの!?』

「……洗面器に熱湯入れてからカウンターを移動して冷水を足すんだよ」

『う、うわあ……』


 おかげで、身体と髪を洗うのに二十分以上かかったよ……。


「それで、ソッチは大丈夫だったんだろ?」

『う、うん……といっても、ビジネスホテルっぽいから二人一部屋でユニットバスだったけど……』

「そ、そうか……」


 女子がビジネスホテル……それもなんだかなあ……。


「修学旅行最後の夜だってのに、風情もへったくれもないな……」

『あはは……』


 電話の向こうで環奈が苦笑いする。


「な、なあ……」

『? なあに、まーくん?』

「あ、ああ、いや、なんでもない……それより、もう遅いからそろそろ寝るか」

『あ……うん、そうだね』

「それじゃ、おやすみ」

『おやすみなさい』


 俺はスマホの通話終了のボタンをタップする。


「ふう……」


 俺……危うく環奈に変なこと言いそうになっちまった……。


 だけど……。


「俺は……環奈が、好き……なのかな……」


 環奈のことを考えると、俺の胸が熱くなる。


 これは、坂口……優希のことを好きになったあの頃と、同じ気持ち。


 だけど。


「じゃあ何で、ハルさんや姉ちゃんでも同じような気持ちになるんだよ……」


 つまりこれは、好きって感情じゃないのか?


 分からない……だけど。


「……さすがにこんなの、三人に相談できねえ……」


 俺は頭を抱えて悶々としながら、昨日に引き続き眠れない夜を過ごした。

お読みいただき、ありがとうございました!


次話は明日の夜投稿予定です!


少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、ブクマ、評価、感想をよろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 大学はお姉ちゃんと一緒の所に行きたい…ってありませんでしたっけ? 1年間だけでも一緒に通学路歩こうね…的な。
[良い点] ほー、正宗、自覚したか。 [一言] 松木、すげーっ! そして長岡氏もすげーっ!なんでも知ってるw
[一言] よし!長岡と佐々木に相談してみよう! え?何?悪気なんてないっすけど?
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