第81話 坂口優希③
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■坂口優希視点
「そ、それで、君はどんなお昼がいい?」
新京極の商店街を歩きながら、杉山くんがしきりに絡んでくる。
そして私は、そんな彼に辟易としていた。
二日目の自由行動、私はどこにも外出せずに一人でホテルにいようと思っていたのに、班の女子二人に説得され、結局同じ班で行動することになってしまったのだ。
女子達曰く、「杉山くんからどうしてもと頼まれてしまった」とのことだ。
こんなことを言っては何だが、あの男は私目当てでしかないので、あの男に気があるなら私を加えないほうが良いと言ったんだけど、それでも一緒に、と懇願されてしまったのだ。
私なんか邪魔者でしかないんだから、適当に理由つけて置いて行けばいいのに……。
というより、彼女達もそうだけど、うちのクラスメイト達って妙にお人好しというか素直というか……。
これも……正宗くんの影響、なのかな……。
「ほ、ほら! あそこのカフェなんか良さそうじゃない?」
鬱陶しい。
大体、結局のところ班で行動してるんだから、他の四人にも意見を聞けばいいのに、彼等はそっちのけで私にしか話しかけてこない。
こんなの、誰一人楽しくなんかないじゃない。
それに、わざわざこんな人通りの多い場所を連れ回すだなんて……。
平日だから、多分アイツ等と出遭うことはないとは思うけど……それだって、万が一ってこともある。
はあ……早くホテルに帰って一人になりたい……。
◇
結局、杉山くんが選んだカフェで昼食を済ませた私達は今、鴨川のほとりを散策している。
そもそも、せっかく京都に来たんだから、京都らしいお店で昼食を過ごせばよかったのに、女子ウケするような店を選ぶなんて。
私は転校前は京都に住んでたから別に観光とかはどうでもいいけど、他の四人は京都は初めてなんだから、そういうところに行けばよかったのに……。
といっても、私もそれについてなんの口出しもしなかったんだから、杉山くんを責める資格はない、か。
「ね、ねえ坂口さん、カップルが等間隔に並んでるよ?」
そんなの、見たら分かる。
まあ、杉山くんの意図は、「並んでるカップルと同じように俺達も並ぼうよ」ってことなんでしょうけど。
そんなことするわけないのに。
「……そうね。それなら彼女達と一緒に座ったらいいんじゃないかしら?」
「え!? え、ええと……」
私の提案に、この男はしどろもどろしながら女子二人を見やる。
そして、あろうことかこの男はとんでもない行動に出た。
「な、なあなあ、チョット……」
私を外し、この男は他のクラスメイト四人を集め、コソコソと話を始める。
「(悪いけど……ここで別行動にしよう)」
「(ええっ!? どういうこと!?)」
「(あ、ち、違うんだ。三十分したら交替してペアを変えないかってことなんだけど……)」
「(え、ええと、それってつまり……)」
「(まず最初に俺が坂口さんと二人でここにいるから、三十分したらまたこの場所に集合してシャッフルってことで……)」
「「「「はあっ!?」」」」
四人が驚きの声を上げる。
……というか、それまでのヒソヒソ話、全部筒抜けなんだけど……。
「(シッ! 声が大きい! そ、それだったら全員公平にペアになるだろ?)」
「(ウ、ウーン……)」
「(な? そしたら、今度メシでも奢るから!)」
杉山くんが手を合わせて四人に拝んでいる。
……はあ。
結局四人は、渋々といった表情で、この場を離れて行った。
「……みんなは?」
私は、あえて皮肉を込めてこの男に尋ねる。
「あ、ああ、どうも用事があるみたいで、ちょっと別の場所に行くみたいだよ」
「……そう。それで?」
「俺達もみんなが戻ってくるまで、ここで座って待とうと思うんだけど、どう?」
「どう?」じゃないわよ。
なんで私がアンタと一緒に座らなきゃいけないの?
私はこの男の軽薄な態度に、かなりイライラを募らせていた。
その時。
「あれえ? ひょっとして、“坂口優希”?」
私が一番聞きたくない声を聞いてしまった。
振り返ると……ああ、やっぱり……。
そこには、私を見ながらニヤニヤしている女と、気まずそうにする男がカップルで立っていた。
この女の名前は“嵯峨野文”。
私をいじめていた張本人。
そして、その隣にいる男は“宮﨑豊”
転校してきてすぐの私に色目を遣い、そして、私に袖にされた腹いせにありもしない噂を流した男。
「なあなあ、アンタってこの街から逃げ出したんちゃうんかいな。なんでこんなところにおるんや?」
そう言いながら、嵯峨野は下品な笑みを浮かべて近づいてくる。
「あ、坂口さん、ひょっとして前の学校の友達?」
この男は、この状況でどうしてそんな発想に至るんだろうか。
明らかに嵯峨野は馬鹿にした態度を取っているというのに。
「なんや。アンタ、新しい学校で早速男に手え出してるんかいな。ホンマ、男癖の悪い女やなあ」
「…………………………」
私は嵯峨野を無視して顔を背けていると。
「なんや! なんとか言うたらどうなんや! 男見たら手当たり次第に手を出す“ビッチ”が!」
私の態度に気に入らない嵯峨野は、私の肩をつかむと、乱暴に私を嵯峨野達に向かせる。
「わ、私は、そんな……」
否定したいのに、唇が震えて思うように言葉が出ない。
「え? え? 坂口さんが“ビッチ”ってどういうこと!?」
杉山くんは訳が分からないといった様子で、私と嵯峨野達を交互に見る。
「なんやお兄さん、この女のこと知らへんようやさかい私が教えたるけど、コイツ、うちの学校で男に手え出しては取っ替え引っ替えしとった“ビッチ”で有名なんや。おかげで私の彼氏にまで手え出されて、ホンマ大変やったんや。なあ?」
「お、おお……」
嵯峨野の問い掛けに、宮崎は気まずそうに返事する。
それはそうだろう。
だって、そんな噂を流した張本人が、事実でもないことをこの私の目の前で肯定しなきゃいけないんだから。
「ま、そういうことやさかい、お兄さんも災難やったなあ? こんな女なんかとは、早よ縁切ったほうがええよ?」
「あ、う……」
嵯峨野にそんな風に忠告された杉山くんの私を見る目が、さっきまでとは違い、どこか侮蔑を含んだ色に変わる。
これは、私のよく知っている視線。
私が、前の学校で浴び続けていた、汚物でも見るような視線だ。
ああ……せっかく転校してやり直そうと思ったのに……今度こそ、前みたいな間違いはしないと、心に決めたのに……。
結局、私は元通り。
今すぐ逃げ出したいけど、私の脚は石のように固まって動けない。
そして、俯いて前を見れない私の瞳からは、恐怖と悔しさで涙が溢れる。
誰か……誰か……助けてよ……。
正宗くん……助けて……!
その時。
「キャッ!?」
「うおっ!?」
突然、嵯峨野と宮崎が変な声を出した。
私は思わず顔を上げる。
そこには。
「なんだよ、聞いてりゃクソみたいな会話してんな。京言葉って、もっと綺麗なモンじゃねーのかよ」
嵯峨野達を後ろから蹴り飛ばして、呆れた表情をしながら頭を掻く正宗くんがいた。
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次話は明日の夜投稿予定です!
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