第74話
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「………………………」
俺が先に風呂を出てみんなを待っていると、ちょうど風呂へと向かう優希に出くわした。
……できれば遭いたくないんだけどな。
などと考えながら、俺は目を合わさないようにするために外の景色を眺めていると。
「……久しぶりですね」
俺の心臓がドクン、と跳ね上がる。
まさか、優希のほうから声をかけてくるなんて。
俺はわざと今気づいたような態度で振り向くと。
「ん、あ、ああ……」
俺の脚がわずかに震え、胃の中が逆流しそうになる。
だけど。
『誰が何と言っても、世界中の誰もが否定しても、私は……私はその否定を否定する!』
『ああ……ああ……! 正宗だ……私の大好きな正宗だ……!』
『まーくん……おかえり!』
俺を救ってくれた三人の言葉が、俺の中を駆け巡る。
大丈夫だよと、私達がついているよと、励ますように。
「……何か用、かな?」
「……別に、用ってわけじゃ……」
俺の素っ気ない態度に拍子抜けしたのか、優希は少し視線を逸らした。
……俺が、優希に罵倒したりでもすると思ったのかな。
だけど、俺はそんなことしてやらない。
だって、まるで俺が優希に未練があるみたいに思われたくないから。
「そっか……今、環奈達が風呂に入ってるから、時間をずらしたほうがいいと思うけど」
「……ええ、そうするわ」
そう抑揚なく忠告すると、優希は踵を返して部屋へと戻ろうとして、もう一度クルリ、とこちらを向く。
「またね」
そう言い残し、今度こそ優希は戻っていった。
「は……何が『またね』、だよ……」
そんな風に悪態を吐いてみるけど、優希が最後に残した言葉が妙に頭から離れない。
「正宗くん……どうしました?」
「あ、ハルさん……」
気づくと、風呂から上がったハルさんが、浴衣姿で心配そうに俺を見ていた。
「はは、何もないっすよ」
「そうですか……?」
「はい!」
それよりも。
俺はハルさんの浴衣姿とその熱さで上気した顔、しっとりと濡れた髪、そして、風呂上がりの香り……その全てに、まるでのぼせたかのように俺の頭がクラクラしていた。
「本当に大丈夫……っ!?」
気がつくと、俺はハルさんを抱きしめていた。
「あ、す、すいません……俺……」
俺は自分のしでかしたことにとてつもない罪悪感を覚え、慌ててハルさんから離れようとして。
——フワリ。
今度はハルさんから俺のことを抱きしめてくれた。
「ふふ……なんだか恥ずかしい、ですね……ですが……」
頬を真っ赤に染めたハルさんが、俺の顔を覗き込む。
「私……幸せです、よ……?」
そう言って、はにかんだ。
「まーくーん、どこー?」
風呂から上がった環奈の。俺を探す声が聞こえる。
「ふふ……ここまで、ですね」
「ハ、ハル、さん……」
ハルさんは俺の身体からそっと離れると。
「環奈さーん、ここですよー!」
俺を探す環奈に声をかけ、手招きする。
「あ、いたいた!」
環奈が嬉しそうにジャージ姿でこちらへとやって来ると。
「えへへ、まーくん!」
「わ!?」
突然、環奈がギュ、と抱きついてきた!?
「お、おい、環奈!?」
俺は慌てて引き離そうとして……環奈の香りに、つい抗えなくなってしまった。
「むう! 環奈さん、離れてください!」
「あ……ふ、ふえええええええ!?」
と、突然どうしたんだ!?
「か、環奈さんどうしたんですか!?」
「つ、つい無意識でまーくんに抱きついちゃった……」
環奈は顔を真っ赤にして恥ずかしそうに俯く。
「はあ……何事かと思いましたよ……」
「あうう……まーくん、ゴメンね?」
「い、いや、その……ご、ごちそうさまです」
「ふえ!?」
って、何言ってんだ俺!?
「ああ、正宗。ここにいたのか」
すると今度は姉ちゃんがやって来て……!?
「はふう……正宗のいい匂いがする」
「ねねね、姉ちゃん!?」
突然姉ちゃんに抱きつかれ、俺の首筋をすんすん、と嗅ぐ。
や、ホント何やってんの!?
「羽弥! 何をしてるんですか!」
「む、姉弟としてのスキンシップだ!」
や、姉ちゃんドヤ顔で何言ってるの!?
「へえー、羽弥は“姉弟”がいいんですね?」
「むむむ……!」
ハルさんにジト目でそう言われると、姉ちゃんは渋々といった様子で俺から離れた。
全く……姉ちゃんの胸が身体に当たって、その……けしからん。
「ホラホラ、正宗くん達は部屋に戻らないと怒られてしまうんですから、邪魔してはダメですよ?」
「むむむむむ……し、仕方ない……」
「じゃあお二人とも、また後ほど」
「「あ、はい、また後で」」
そして、ハルさんと姉ちゃんは自分達の部屋へと戻っていった。
「……ねえ、ひょっとして明日の一日自由行動、一緒に来る気かな……」
「……そうじゃない?」
「だよね……」
そう言うと、環奈はあからさまに肩を落とした。
だから。
「っ! まーくん!?」
「ホ、ホラ、まだみんなは風呂から上がってないからさ……手をつなぐくらい、その、いいかなって……」
「う、うん……えへへ」
そうして俺達は、みんなが風呂から上がってくるまで、お互いの手の感触を堪能した。
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明日からの更新ですが、「戦隊ヒロインのこよみさん」の最終章の更新を再開したことに伴い、夜のみの更新とさせていただきます。
次話は明日の夜投稿予定です!
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