第72話
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「やあ正宗、みんな、奇遇だな!」
「うふふ、こんにちは」
俺達が『本能寺』に着くと、そこにはまるで俺達を待っていたかのように、二人が待ち構えていた。
姉ちゃんは腕組みしながら、ハルさんは頬に手を添えながら満面の笑みを浮かべている。
「ちょ!? ちょっとちょっと待って!? なんでここに二人がいるのよ!?」
環奈が思わず上ずった声で二人に詰め寄る。
うん、俺には環奈の気持ち、よく分かるぞ。
「いやあ、たまたま大学のフィールドワークで、寺社について研究したいと思っていてな。偶然偶然」
「本当ですね。まさか京都に来てみたら、正宗くん達にお逢いできるだなんて」
姉ちゃんはともかく、どうしてハルさんまで……。
「嘘だ! 絶対まーくんのしおりを盗み見したんでしょ!」
「はて? 私は正宗からしおりを見せてもらったことなどないのだが?」
「ええ、羽弥からそう聞いてますが」
環奈がビシッと二人に指差しながら指摘するけど、二人はよく分からないといった様子で首を傾げる。
「何言ってんのよ! そんなの、まーくんに内緒で勝手に見たに決まってるじゃない!」
「あー、環奈さんや」
俺は勢いよく問い詰める環奈に、割り込むように声をかける。
「何、まーくん」
「や、二人を庇う気はこれっぽっちもないんだけど、姉ちゃんが俺の旅のしおりを見たっていうのはあり得ないぞ」
「何でよ!?」
俺の言葉に、環奈はジト目で睨む。
まあ、信じられない気持ちも分かるし、庇ってると思われても仕方ないけど。
だけど、本当なんだよなあ。
だって。
「俺、しおりは学校の俺の机の中に入れっぱなしだったりする」
「はああああ!?」
環奈は信じられないといった表情をしながら目を見開いた。
まあそうなるわな。
「いやさあ、家に持ち帰ったら失くしそうな気がしたし、そのまま置きっぱなしにしてたんだけど」
「じゃ、じゃあ、そのしおりはどうしたの!?」
「それが……学校に忘れました……」
「何考えてるの!?」
「や、最悪環奈に任せればいいかなー、なんて……」
修学旅行中は環奈と一緒に行動するわけだから、環奈が色々とやってくれるんじゃないかという甘え全開でいてたからなあ。
「まーくん……」
おおう、思いのほか環奈から白い目で見られてしまった。
「というわけだから、私は正宗のしおりを見て、ということではないのだ!」
「や、だからといって二人の言葉を信用した訳じゃないからね?」
「むむむむむ!?」
や、当然でしょ。
修学旅行の行程知らなきゃ、絶対に分からないはずだし。
なのにピンポイントで『本能寺』で待ってるだなんて、ねえ。
「ま、まあそれより、みんなは『本能寺』に来たんだし、何なら私がレクチャーしても……」
「それはちゃんと俺達でやるから別にいいよ」
「そ、そうか……」
そう言って断ると、姉ちゃんはあからさまにシュン、としてしまった。
「でも、姉ちゃん達も『本能寺』を見に来たわけだよね。大学の勉強のために」
「っ! う、うむ!」
「だったらさ、俺達と『本能寺』、一緒に見ようよ。みんなはそれでもいいか?」
俺は振り返ってみんなを見ると、同意を求めた。
「はあ……そうじゃないと余計に面倒なことになりそうだし……仕方ない」
やれやれといった表情をしながら肩を竦め、まずは環奈が折れた。
「おう、別にいいんじゃね? つか、それよりも堀口追っかけて京都まで来たってのがオドロキだわ……」
佐々木もやや呆れながらも、快く同意してくれた。
「私達も全然オッケーだよ、ね?」
「う、うん、お二人なら……」
山川と葉山も快諾、と。
やっぱり文化祭だったりその打ち上げだったりで面識があるのも大きいな。
で、残すは長岡なんだけど……。
「デュフフ、ならば拙者は地面に寝転がるゆえ、拙者を踏んでくれるならばご一緒しても……グハア!?」
「こ、この! それだったら私が踏んづけてやる!」
「あ、ああ!? 山川殿!? ……きょ、今日はクマさん……良き」
「な!? キャアアアアア!?」
踏まれ続けた長岡の最後の言葉に、山川は慌ててスカートを押さえた。
長岡……今日一番いい顔してるぞ。
「と、とりあえずみんなの了解も得られたし、一緒に見よう」
「う、うむ! みんなありがとう!」
「ありがとうございます!」
二人がみんなに感謝の言葉を伝えると、俺達は本能寺を見学……といっても、敷地がそんなに大きい訳じゃないから、すぐに見終わるんだけどね。
その時。
「お、いたいた!」
さっき無視して置いてったはずの杉山達の班が、なぜか『本能寺』まで追っかけてやってきた。
「何だよお前達、さっき呼んだのに気づかずに行っちまうんだもんなあ!」
などと笑顔で話しかけてくるが、うちのメンバーが全員露骨に顔をしかめた。
「杉山くん達はこれから『本能寺』を見学するの?」
「え? あ、ああ、そうしようかと……」
「あ、そ。じゃあ私達はもう行くから。みんな、行こ?」
そう言うと、環奈は俺達を促して別の場所に移動しようとする。
「だ、だったら俺達も……」
「え? 今言ったじゃん。『本能寺』、見学するんでしょ?」
「う……」
うん、確かに言った。
杉山の奴も、まさかこうやって墓穴掘る羽目になるとは思ってなかったみたいだけど。
「はは、悪いな」
俺は杉山に皮肉交じりにそう答えると、俺達は環奈の後を追いかけた。
杉山の傍にいた優希には、一瞥もくれずに。
「ふう……結局あまり『本能寺』、見学できなかったね……」
「ま、仕方ないんじゃない? レポートに関してはホラ、姉ちゃん達に教えてもらって……」
「ああ、任せてくれ」
「ふふ、そうですよ」
頼られたことが嬉しいのか、姉ちゃんとハルさんが微笑んだ。
「さあて……そういうことで、一日目の寺社巡りは終わったけど、宿に……って、そういや姉ちゃん達はどこに宿取ったの?」
「ん? 私達か?」
「ふふ、それはですね……」
二人が含み笑いをした瞬間、もう分かっちゃった……。
「「「「「「はあ……」」」」」」
「む、みんなどうして溜息を吐く!?」
「だって……俺達の宿と一緒なんでしょ?」
「むむむむむむむ!? なぜそれを!?」
「はあ、やっぱりあからさま過ぎましたね……」
まあ、本当は二人も一緒の宿だから、すごく嬉しいんだけどね。
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次話は明日の朝投稿予定です!
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