第70話
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「着いたー!」
新幹線に乗ること二時間強。
俺達は今、京都の地に降り立った。
「さて、それじゃまずは今日の宿に向かい、荷物を置いたら後は各班で寺社見学だ。言っておくが、自主性に任せて各自自由にさせてはいるが、修学旅行から帰ったら、しっかりレポートを提出してもらうからな。サボるなよ」
俺達は桐山センセから釘を刺されると、今日の宿泊先のホテルへと移動した。
「これ……結構すごくない?」
「確かに……かなり立派なんだけど」
宿泊先のホテルについて、まず俺達はその豪華さに驚く。
場所も、祇園と呼ばれる場所からほんの少し離れたところで、中心街へのアクセスも抜群だ。
「ここによく俺達泊まれるな……」
「デュフフフ、教頭先生の伝手らしいでござるよ? 何でも三年前からここになったとか」
三年前……姉ちゃんの代、だな。
姉ちゃんが裏でなんかやってそうで怖い……。
「ま、まあまあ、それより荷物置いて早速行こうよ!」
「お、おう……」
環奈に促され、俺達は割り当てられた部屋へとそれぞれ向かう。
「まあ同じ班だから、俺達三人が同じ部屋になるのは当然として……」
俺達はチラリ、部屋の窓の傍にいるクラスメイト……杉山を見る。
「……何でアイツ、同じ班の奴と一緒の部屋にならなかったんだ?」
「「さあ……」」
俺達は揃って首を傾げると。
「よう三人とも、よろしくな!」
「「「お、おう……」」」
なんと言っていいのか分からず、俺達はあいまいに返事した。
「それより、お前達も寺社巡りするんだろ? だったら一緒に行かないか?」
俺は杉山の提案に、困惑した表情を浮かべる。
だって……杉山の班には、優希がいるから。
すると。
「悪い、俺達は寺を回りながらすることあるんでな」
そう言って、佐々木がやんわりと断る。
「だったらそれに俺達も付き合うよ」
「デュフフ……ですが、拙者達はかなりディープな場所に立ち寄りますぞ? それこそ女子は間違いなく引いて、受ける印象は最悪ですな」
なおも食い下がる杉山に、長岡が佐々木の口裏に合わせるように話を続ける。
だけど、女子に嫌われる場所って……ちょっと興味ある。
「うえー……だ、だけどそれだったらお前達も同じように坂崎さん達に……」
「デュフフフ、何を言っているでござるか。坂崎殿は堀口氏がいればどこでも行くでござるよ」
そんなことないぞ。
むしろそんなところに行こうとしたら、確実に刈られると思うが。
「……チッ、分かったよ……」
杉山はなぜか舌打ちすると、一瞥もくれずにそのまま出て行った。
「何だアレ、態度悪いな……」
佐々木が出て行く杉山の後ろ姿を見ながら、不機嫌そうな顔をする。
「ま、まあな……だけど二人とも、助かったよ……」
「なあに、いいってことよ」
「デュフフ、どうも堀口氏は杉山氏とあまり相性はよくなさそうですしな」
まあそれもあるが、やっぱり優希と一緒にいるのは嫌だからな。
この二人には感謝だ。
「それより、もう女子達もロビーで待ってるだろうし、早く行こうぜ」
「おう」
「デュフフフ、女子三人と我々三人でとは、なんだかリア充みたいでござるな」
「「確かに」」
などと軽口を叩きながら、俺達は環奈たちが待つロビーへと急いだ。
◇
「うええ……一緒にならなくて良かったね……」
『鈴虫寺』のある場所へと向かうバスに乗りながら、俺はさっきのやり取りを環奈に話すと、環奈は露骨に顔をしかめた。
「そこはホラ、あの二人が上手く躱してくれたからな」
そう言って、俺は前の席で山川、葉山と楽しそうに会話する二人を見やる。
「うん、二人には感謝だね。だけど……どうして杉山くんは私達と一緒に行動したがったんだろう……」
「そうなんだよな……」
環奈の言う通り、俺はそのことがずっと引っかかっていた。
思えば、寺社巡りについても杉山が俺達に尋ねてきたりしてたし、ちょっと行動が怪しいんだよなあ。
……まさか、環奈と優希の両方を狙ってるとか、そんなことはないよな……?
「ね、ねえまーくん、なんだか顔が怖いよ?」
「え? お、俺なんか変な顔してた!?」
「う、うん……やっぱり優希のことが気になったりする、の……?」
環奈が不安そうな表情で尋ねてくる。
「まさか。それはないよ」
俺は環奈に向かってキッパリと断言する。
俺が気になったのは優希のことじゃなくて、杉山が環奈にちょっかい出すんじゃないかって、そっちなんだけどな。
恥ずかしいから、環奈には言えないんだけど。
「う、うん! それならいいんだ!」
「おう。しかし、やけに素直に信じたな」
「え!? だ、だって、まーくんの顔に“絶対違う”って書いてあったから」
「プッ! なんだよ、それ!」
「あはは、だってそうなんだもん!」
そう言って、俺と環奈は笑い合った。
うん、やっぱり環奈とこうやって会話をするのは楽しい。
ただ、この楽しい気持ちは、子どもの頃からの楽しさとは少し違うけど……。
『次は終点、苔寺・すずむし寺です』
お、やっと到着か。意外と遠かったな。
——プシュー。
バスが停車し、前方ドアが開く。
「さあ、行こうか」
「うん!」
俺達はバスを降り、目的地の『鈴虫寺』へと向かった。
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次話は明日の朝投稿予定です!
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