第7話
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——キーンコーン。
「よっし! 昼メシの時間だ!」
午前中のつらく退屈な授業を終え、俺はカバンから早速弁当を取り出す。
「ねえねえ、今日は一緒に食べようよ!」
お、珍しく環奈が俺を昼メシに誘ってきたぞ。
「なんだよ環奈、今日に限って」
「えー、たまにはいいじゃん! ホラホラ、こんな教室なんかで食べないで、中庭にでも行こうよ!」
そう言って環奈は、俺の腕を引っ張る。
「おーい堀口! 一緒にメシ……はまた今度な……」
佐々木が俺に声を掛けようとするが、環奈の奴にキッ、と睨まれると、踵を返してすごすごと退散していった。
かわいそうに……とは思わないけど。
「堀口氏ー! 一緒に……」
「消えて」
「……分かったでござる」
環奈のあまりの剣幕に、長岡も涙で頬を濡らしながら佐々木のところに行った。
「はあ……仕方ないなあ……」
俺はポリポリと頭を掻くと、弁当を持って席を立つ。
「よし! じゃあ行こ!」
「へいへい」
俺は環奈に腕をつかまれながら中庭へと向かうんだけど……。
「なあ環奈、一緒に昼メシ食うことにしたんだから、そろそろその、手を離してもいいんじゃないか?」
「えー、まーくんはこんな可愛い女の子に手を繋いでもらって嬉しくないの?」
「自分で言うな」
そう言って俺は手を離そうとするが……コイツ、強く握って全く離しやがらねえ。
仕方ないので、俺は反対の手を使って無理やり手を離した。
「ブーブー! まーくんひどい!」
「ハイハイ、ほら、行くぞ」
「あ、待ってよー!」
◇
「しかしお前、やたらと用意がいいな」
「へへ、でしょー!」
俺達は中庭に来ると、環奈があらかじめ用意していたレジャーシートを芝生に敷いてそこに座った。
俺達の他にも生徒達が中庭で昼メシを食べている姿をちらほらと見かけるが……周り、ほとんどカップルばっかじゃね?
「な、なあ環奈さんや、その、俺達場違いじゃね?」
「そんなことない」
環奈は真剣な表情で俺の言葉を否定した。
「ホラホラ、それより早く食べよ」
「お、おう……」
なんだか今日の環奈、妙なプレッシャーみたいなモンを感じるんだけど……。
ま、いいか。
俺は持って来た包みから自分の弁当を取り出し、蓋を開ける。
今日のラインナップはおにぎり、タコさんウインナー、玉子焼き、ほうれん草のお浸しだった。
「いただきます」
俺は今日も作ってくれた姉ちゃんに感謝しつつ、弁当に箸をつける。
「へえー……ねえねえ、その玉子焼きと私の、その……ハ、ハンバーグと交換、しようよ……?」
まじまじと俺の弁当を覗いていた環奈が、唐突にそんなことを提案してきた。
だけど、なんでそんなにモジモジしてるんだ?
「お、おう、いいけど」
そう言って俺は手に持つ弁当を環奈へと差し出すと、環奈はフォークで玉子焼きを刺し、口に運んだ。
「はむ……もぐもぐ……うん! さすが羽弥さんだね! 美味しい!」
フフフ、だろ?
姉ちゃんの作るメシは全て美味いのだ。
「え、えへへ、じゃあお返し!」
そう言って、今度は環奈が俺に弁当を差し出した。
「おう、じゃあ遠慮なくそのハンバーグもらうぞ」
俺はハンバーグを箸でつまむと、そのまま口へと放り込んだ。
「モグモグ……お、美味いなコレ」
「ホント?」
「おう。この少しスパイシーに仕上がっているのがたまらん」
「えへへ、やった」
環奈が小さくガッツポーズをしながらはにかんだ。
「環奈のおばさん、いつの間にこんなに腕を上げたんだ?」
俺の記憶の中じゃ、そんなに料理は得意じゃなかったと記憶しているんだが。
といっても、環奈のおばさんの料理を食べたの、小学校以来ではあるけれど。
「……それ、私」
「ん?」
「それ……私が作ったの」
「環奈が!?」
マジかよ……あの環奈が!?
「ほえー、変わるもんだなあ……」
「な、なによ……私だって……」
「や、違う違う、純粋に褒めてんだよ。俺だったら絶対ムリだしさ。それに」
「それに?」
「やっぱり環奈も女の子なんだなあ、って」
「あ、当たり前でしょ!」
すると、環奈は顔をプイ、と背けた。
だけど環奈よ、お前、口元が緩んでるぞ。
「そ、それより! せっかくだから他のおかずも交換しようよ!」
「おう。なんなら弁当まるごと交換してみるか? お前も姉ちゃんのメシ食うの久しぶりだろ?」
「あ、う、うん!」
てことで、俺は環奈と弁当を交換し、俺は環奈の、環奈は俺の弁当を食べた。
◇
「ふう……マジ美味かった。ご馳走さま!」
「え、えへへ……」
食べてる最中ずっと弁当を褒めたもんだから、環奈の顔が緩みっぱなしだった。
なんだ、このカワイイ生き物は。
その時。
——ブブブ。
「? どうしたの?」
「ん、あ、い、いや……」
そうだった、ハルさんが昼休みにRINEくれるって言ってたもんな。
「ええと、悪い、ちょっとトイレ」
「ええー……早く戻って来てよ?」
「おう」
俺はトイレに行くフリをして、校舎の陰でスマホを見る。
や、だって環奈の奴、どうもハルさんのこと嫌いみたいだし、多分俺がハルさんとRINEしてるの知ったら、無理やりスマホ奪われて叩き折られそう。
『正宗くん、こんにちは! 私の今日のお昼ご飯です』
そんなメッセージと一緒に、ハルさんが作ったであろうお弁当の写真があった。
「おお……これは美味そうな……」
お弁当の内容は、たまごとハム、レタス、トマトのサンドイッチ、ナゲット、ポテサラ、そしてデザートに梨とぶどうが入っていた。
「ええと、『すごく美味しそうですね! 俺も食べてみたいっす!』っと」
ハルさんに、メッセージとよだれを垂らしたクマのスタンプを返信する。
——ブブブ。
お、すぐに返事が返ってきた。
『もしよかったら、今度正宗くんに作ってあげますね』
「よっしゃああああ!」
ハルさんのメッセージに、俺は思わずガッツポーズをする。
はあ……ハルさんのお弁当かあ……。
「ねえねえ、なにが『よっしゃああああ!』なの?」
「そりゃ決まってるだろ! あのハルさんが……って、あ……」
恐る恐る振り返ると、そこには頬をパンパンにふくらませ、顔を真っ赤にしてプルプルしたまま仁王立ちした環奈がいた。
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次話は明日の夜投稿予定です!
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