第68話 青山晴⑦
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■青山晴視点
「ええと……それで話というのは?」
四コマ目の講義が終わり、私は学食で羽弥と向かい合わせに座っている。
「うむ……話と言うのは他でもない、正宗のことについて、だ」
「正宗くんの……」
羽弥の言葉を聞いた瞬間、嫌な予感が走る。
まさか……正宗くんがまた、トラウマにさいなまれたりしているんじゃ……!?
そう思ったけど、私はゆっくりかぶりを振る。
今朝の様子でも、正宗くんにそんな兆候は見られなかった。
何より、羽弥に慌てているような様子がない。
じゃあ一体……。
「それで、正宗くんに一体何が……」
「うむ。ハルも知っているが、正宗は来週、京都へ修学旅行に向かう」
「え、ええ……」
それは先日の打ち上げの際にも話題になっていたので、私も知っていますが……。
「正宗くん達には楽しんできてもらいたいですね……それが何か?」
「ハル……君は何とも思わないのか?」
「はい?」
羽弥が真剣な表情で私の顔を見つめる。
だけど、私には羽弥が何を気にしているのかが分からない。
一体、修学旅行と正宗くんに何の関係が……ま、まさか!?
「正宗くん、電車にトラウマがあるとかですか!?」
「いや、それはない」
「あ、そ、そうですか……」
じゃあ何なの!?
羽弥のもったいぶった態度に、私は自然といらいらを募らせる。
「……羽弥、いい加減説明してもらえませんか?」
「うむ……ハルはいまいち分かっていないようだから、はっきり言おう」
「は、はい……」
「修学旅行は三泊四日、場所は京都だ」
「はい」
「その間……正宗は、環奈と常に行動を共にすることになる」
「は、はあ……それは同じクラスですから……」
「しかも、同じ屋根の下、共に寝食を共にするのだぞ!」
「ええ、同じホテルにとまるでしょうから……」
ダ、ダメ……羽弥が一体何を言いたいのか分からない。
「君はそれを許せるのか! 正宗が……私の正宗が、環奈に取られてしまうかもしれないんだぞ!」
「っ!?」
拳を握り締め、羽弥がわなわなと震える。
だけど。
「え、ええと……さすがに修学旅行くらいで……」
「ハルは何を言っているんだ! 私が正宗と同じ高校二年の時は、修学旅行から帰って、カップルとなった者が何組もいたのだぞ!」
「な、なんですって!?」
そ、そんな……修学旅行なんて、やたらと他のクラスメイト達から変な目で見られるか、ただ史跡見学や美味しいものを食べるくらいしか……しかも、それでカップルになることなんて……!
「は、羽弥! どうしてそんなことになるんですか!? だ、だって修学旅行ですよ!? カップルになるなんて、それこそ出会いでもない限り……はっ!?」
そう言って、私は気づいた。気づいてしまった。
私……女子高でした。
「あわわわわわわわ!? ま、まずいじゃないですか! そ、そんなの正宗くんと環奈さんがくっついちゃったら!?」
「だ、だからさっきからそう言っているじゃないかあ!」
どどど、どうしよう……!?
正宗くんが……正宗くんが……!?
「そ、そんなの嫌です! 正宗くんが、環奈さんの……他の誰かだけのものになるなんて!」
「あ、ああ、と、とにかく落ち着け! だからその対策を……」
「対策!? そ、そうです! だったら修学旅行を中止させてください! 羽弥は元生徒会長なんですから、それくらいのこと……!」
「できる訳ないだろう!」
「じゃあどうすれば!」
ダメだ! 羽弥は危機感がなさすぎます!
あの環奈さんが、私達がいない状況の中で本気を出してしまったら……いえ、環奈さんは間違いなく本気を出してくる! そうなったら正宗くんは……!
——ドン!
突然、羽弥が数冊の本を勢いよくテーブルに置いた。
それは……旅行ガイド!
「羽弥……!」
「そうだ……正宗達が修学旅行に行くというならば、私達も旅行に行けばいいのだ。行先はもちろん……」
「「京都!」」
私と羽弥は、見事に声が重なる。
「で、ですが、正宗くん達の行動が……!」
そう、せっかく私達が京都に行ったとしても、正宗くんに出逢えなければ、ただ指をくわえるだけ。
だけど。
「……心配するな、ハル。お前が懸念していることも対策済みだ」
すると、羽弥はトートバッグから手作りでできた一冊の冊子を取り出した。
「それは……?」
「ふ、これか? これは正宗達の修学旅行における、『旅のしおり』だ!」
「なんですって!?」
私は羽弥からその『旅のしおり』をひったくると、パラパラとめくる。
そこには……四日間の全行程スケジュールと、宿泊先のホテルが明記されていた。
「羽弥……これをどうやって……?」
「ふ、ふふ……私は“元”生徒会長だぞ? 知り合いの先生に頼めば、すぐにくれるというものだ!」
「羽弥……!」
ああ……私はなんて頼もしい親友を得たのでしょうか!
これほど彼女を心強いと思ったことはありません!
「それでハル……君の意志を聞きたい。君は、どうする……?」
羽弥が私に向かって煽るように微笑む。
だけど。
「羽弥、私の答えは決まっていますよ?」
「ふふ……さすがは私の親友だ!」
「なら!」
「ああ、行こう!」
「「京都へ!」」
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次話は明日の朝投稿予定です!
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