第62話
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「ふあ……はよー……」
俺は目をこすりながら、リビングへと降りて朝の挨拶をする。
「ああ、おはよう。昨日はよく眠れたか?」
「あ、う、うん」
朝ご飯の支度をしながら笑顔で出迎えてくれた姉ちゃんに、俺は思わずしどろもどろになる。
ね、姉ちゃんって、こんなに綺麗……なんだな……。
「ふふ、だがまだ完全に目が覚めていないようだから、先に顔を洗ってこい」
「う、うん……」
姉ちゃんに促され、俺は洗面所へと向かう。
「だけど……昨日は本当に色々あり過ぎた……」
あの優希がうちのクラスに転校してきて、耐えられなかった俺を環奈が教室から連れ出してくれて、そのまま学校を早退して、ずっと俺を心配してくれて、支えてくれて、世話してくれて。
その後も、俺が部屋に閉じこもっている間、遅くまで下で姉ちゃんと一緒に心配してくれて……って、うわあ……俺、環奈に超迷惑かけてんじゃん……。
会ったら、絶対にちゃんとお礼言わないと……。
そんなことを考えながら、俺は冷たい水を思いきり顔に浴びせる。
「ふう……全く俺ってヤツは……」
だけど、ここまでしてくれる幼馴染なんて、普通いないよなあ。
そんなの、ラブコメラノベぐらいなモンだろ……。
でも……環奈はそれをしてくれた。
それって……。
——ピンポーン。
あ、環奈だ。
だけど、今日はいつもより来るのが早いな。
まあ……俺のこと心配して来てくれたんだろうけど。
俺は急いで玄関に向かい、そのドアを開けると。
「っ!」
「お、おう、おはよう……」
って、そうじゃねーだろ俺!
ちゃんと環奈に昨日のお礼を言わないと……って。
「まーくん!」
「おわ!?」
環奈に勢いよく抱きつかれ、俺は思わず玄関で尻もちをついた。
「か、環奈……?」
「まーくんだ……! まーくんだあ……!」
そう言って、環奈は俺を強く抱きしめる。
「あ、あの……」
「まーくんが……まーくんが帰ってきた……二年前のあの時から、まーくんが帰ってきれくれたあ……!」
「あ……」
環奈……。
「……うん、今まで心配かけてごめん。俺、やっと自分を認めてやることができたよ……」
「うん……うん……」
環奈がなおも俺の身体にしがみつく。
そして、俺の胸の中から環奈のすすり泣く声が聞こえた。
「環奈……」
「グス……ん……まーくんの顔、よく見せて……?」
そう言うと、環奈は両手で俺の顔を挟む。
「まーくんだ……私の世界一大好きな、まーくんだ……!」
「か、環奈……」
そ、それって……。
「まーくん……」
「環奈……」
環奈は俺の顔にそっと自分の顔を近づけ、そして……俺の頬にキスをした。
「ん……今はここまで……」
「か、環奈……?」
「まーくん……おかえり!」
そして、環奈はぽろぽろと泣きながら、最高の笑顔を見せてくれた。
その表情が眩しくて、可愛くて、綺麗で……。
「っ! ま、まーくん……」
「環奈……環奈……!」
俺は思わず環奈を……この可愛くて素敵な幼馴染を抱きしめた。
その時。
「ウオッホン!」
「うわあ!?」
「ふええ!?」
仁王立ちする姉ちゃんの咳払いに、俺と環奈は勢いよく離れた。
「全く……なかなかリビングに来ないから呼びに来てみれば……」
姉ちゃんが額に手のひらを当てながらかぶりを振る。
「ふう……正宗、朝ご飯の用意はできてるぞ」
「あ、う、うん……」
「それと環奈」
「へ? わ、私?」
「それ、私も昨日正宗としたからな」
「「はああああああ!?」」
ね、姉ちゃん何を余計なことを……ハッ!?
「ねえねえまーくん、私、詳しく話を聞きたいなあ……?」
「ヒイイ」
環奈の背中越しにゴゴゴ、という擬音が聞こえそうなほどの圧倒的な威圧を向けられ、俺はただ小さくなって朝食を済ませた。
◇
「ふふふ……私は昨日、正宗に頭を撫でてもらったのだぞ?」
「な!? ちょっとまーくん! 私、頭撫でてもらってないんだけど!?」
朝の通学路、姉ちゃんの訳が分からない自慢を聞かされた環奈が憤慨し、俺へと詰め寄って来る。
や、つーか姉ちゃん、環奈に余計なこと言うなよおおおおお!
おかげで俺の胃袋がさっきからキリキリ痛むんだけど!?
昨日よりよっぽど精神的にダメージが大きいのは気のせいなのか!?
すると。
「あ……」
「む!」
「来たわね……!」
向こう側から向かってくるハルさんの姿が見え、俺の胸が大きく高鳴る。
ハルさん……!
「あ!」
「ま、まーくん!?」
気がついたら、俺は夢中で駆けだしていた。
ハルさんの元へと。
「ハアハア……ハ、ハルさん、おはようございます!」
「正宗くん……はい、おはようございます!」
息を切らしながら朝の挨拶をする俺に、ハルさんは俺の背中をさすりながら笑顔で返してくれた。
「正宗ー!」
「ま、待ってよー!」
姉ちゃんと環奈も、俺の後を追いかけ走ってきた。
「ハア……ハア……もう、先に行かないでよ!」
「うむ、そうだぞ正宗。行くなら私と手つなぎで……」
大きく息を切らす環奈とは対照的に、姉ちゃんは澄ました様子でおかしなことを言い出した!?
や、手をつないでって……ま、まあ、家の中とかならそれも……。
「はいはい、羽弥は変なこと言わないでください」
「む、変なこととは何だ。私は正宗とスキンシップを図ろうと……」
「それは姉弟として、ですか?」
「む……そ、その聞き方は反則だぞ……」
そして、今日も姉ちゃんはハルさんの前に沈黙した。
ハルさん、完全に姉ちゃんを掌握してる……。
「さあ羽弥、これ以上二人の邪魔をして学校に遅れたら本末転倒ですから、私達も行きますよ?」
「む、もう少しくらい……「ダメです」……むう」
ハルさんにぴしゃりと言われてしまい、姉ちゃんがガックリと肩を落とした。
「じゃあ正宗くん、環奈さん、ここで……」
「「はい!」」
そして、ハルさんと姉ちゃんが遠ざかっていく。
「ハルさん!」
そんなハルさんの背中を見ていたら居ても立っても居られなくなり、俺はハルさんの名前を大声で叫んだ。
すると、ハルさんが笑顔でこちらへと振り返ると手を振ってくれた。
「また放課後! ステラで!」
俺はもう一度叫ぶ。
ハルさんと離れていても、つながっていたいから。
そして。
「はい!」
ハルさんから最高の笑顔とともに返事が返って来た。
俺はそれに満足すると、踵を返して環奈の頭を撫でながら声をかける。
「さあ、行こうぜ」
「も、もう……えへへ」
はにかむ環奈の顔に満たされた気分になりながら、俺達は学校へと向かう。
——優希のいる、学校に。
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次話は明日の朝投稿予定です!
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