第55話 坂崎環奈③
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■坂崎環奈視点
「か、環奈……もう家だから、その……」
学校を早退した私達は、まーくんの家まで目と鼻の先のところまで来た。
すると、遠慮しているのか、それとも、一人になりたいのか分からないけど、遠回しにここで解散しようとまーくんが提案する。
だけど。
「今日はまーくんと一緒にいる。少なくとも、羽弥さんが家に帰ってくるまでは」
私は絶対にまーくんの傍を離れるつもりはない。
だって……だって、まーくんはこれ以上ないほど傷ついているはずだから。
「だ、大丈夫だって……」
「大丈夫じゃない!」
なおもまーくんは私に心配かけまいと気丈に振る舞おうとするけど、そんな気遣い、私は絶対に受け入れはしない。
「私は! ……私は、まーくんの傍にいるから! まーくんの傍から絶対離れないから!」
「環奈……」
「わ、私は、アイツなんかとは違うんだから! 私は……私は……!」
私はアイツの……優希のしたことを思い出し、お腹の底から声を出して叫ぶ。
だけど、感情が高ぶり過ぎて、うまく言葉が続かない。
あんな奴、まーくんの中から消え去ればいい!
私なら、絶対にまーくんを突き放したりしない!
私なら……私なら、まーくんとずっと一緒にいるんだから!
そう言いたいのに、そう叫びたいのに……!
私はそう言えないもどかしさに、思わず自分の胸襟をギュ、と握る。
「環奈……ありが、とう……」
すると、まーくんは私に感謝の言葉を伝えながら、その瞳からまた涙がこぼれる。
「まーくん……おうちに帰ろ?」
「ん……」
私はまーくんの身体を支え、まーくんの家へと帰った。
◇
もうお昼が過ぎた頃だろうか。
家に帰ってからずっと、まーくんはリビングのソファーで俯いたまま座っている。
何とかしてまーくんを元気づけてあげたい。
何とかして、笑顔が素敵ないつものまーくんに戻って欲しい……。
……そうだ!
「まーくん、冷蔵庫借りるね!」
「え? ……あ、ああ……」
私の言葉にまーくんがキョトンとした表情を浮かべ、気の抜けた返事をした。
まーくんの了解も得た私は、早速冷蔵庫を開けると……ええと、ネギに卵に……あと、鶏肉かあ……。思ったより食材がなかった。
冷凍庫は……冷凍されたご飯が二つ……。
うーん、せっかくまーくんに元気になってもらおうと、美味しいお昼ご飯を作ろうと思ったんだけど……あ、でも、まーくんも気分がそれほどすぐれないだろうから、優しめのほうがいいか。
ピン、ときた私は、食材を冷蔵庫から取り出す、
ええと……まず電子レンジでごはんをチンして解凍する。
鶏肉は一口大に切って、ネギはみじん切りに。
お水を入れた土鍋に火をかけ、そこに鶏肉と顆粒だし、そして、鶏がらスープの素を投入。
鶏肉にしっかり火が通ったら、チンしたごはんとネギを入れて、塩で味を整えて、と。
「……あれ? いい匂い……」
リビングからまーくんの声が聞こえる。
どうやら私の作るお昼ご飯の匂いに反応してくれたみたい。やった。
土鍋を軽く一煮立ちさせたら溶いた卵を流し入れて、箸でグルグルとかき混ぜる。
うん! 玉子と鶏の雑炊の完成!
「まーくん、ご飯だよ!」
私はそう叫び、土鍋をリビングへと持っていく。
「環奈、これ……」
「えへへ……簡単だけど、玉子と鶏の雑炊を作ってみました」
嬉しい。
まーくんが反応してくれた。
心なしか、まーくんの顔色も少しだけ戻ったみたい。
「はい、まーくん」
私は土鍋の雑炊を器によそい、箸と一緒にまーくんへと差し出すと、まーくんは少し戸惑いながらもおずおずと手を伸ばし、器と箸を受け取る。
「じゃあ食べよ? いただきます!」
私は努めて明るい声で食事の挨拶をすると、息を吹きかけて冷ましながら、雑炊を口に含む。
うん、味は悪くない。
まーくんの反応は……?
「あ……美味い……」
良かった!
ポツリ、と呟いたまーくんの言葉に、私は心の中でガッツポーズした。
それからまーくんは無言ながらも、ゆっくりと雑炊を口に放り込んでいく。
……うん、これならもう大丈夫、かな。
私はそんなまーくんの様子を眺めながら、ホッと安堵した。
「……ごちそうさま」
「ごちそうさまでした」
私とまーくんは雑炊を完食した。
ご飯を食べた直後というのもあるが、まーくんの頬はほんのり赤くなっていて、顔色も大分良くなった。
「じゃあ、片づけるね」
私はまーくんの器を回収し、土鍋と一緒にキッチンへ運ぼうとすると。
「……環奈」
「……ん?」
「その……ありがとう……環奈がいてくれて、良かった……」
「ん……」
私は振り返ることなく、食器類を運ぶ。
だけど、そんなまーくんの言葉を聞いて、思わず涙がこぼれたのは内緒だ。
まーくん……私はずっと、まーくんの傍にいるよ?
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次話は今日の夜投稿予定です!
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