第54話 坂崎環奈②
ご覧いただき、ありがとうございます!
■坂崎環奈視点
「そんな……優希……」
私は教室に彼女が入ってきた瞬間、息が止まりそうになった。
なんで!? なんで彼女が!?
「えー、彼女は“坂口優希”。今まで京都で過ごしていたが、ご両親のお仕事の関係で、こちらへと転校してきた。じゃあ坂口」
「はい」
先生がそう紹介すると、彼女は返事をして一歩前に出る。
「坂口優希です。よろしくお願いします」
「うん。じゃあ坂口の席は……窓際の列の一番後ろが空いているから、そこに座るように」
「はい」
先生の指示に従い、彼女が指定された席へと歩いて行く。
って、そ、そうだ! まーくんは!?
私はハッと我に返り、慌ててまーくんを見る。
すると……まーくんは、そんな彼女をただ目で追っていた。
その表情は苦しそうで、悲しそうで、切なそうで、だけど、やっぱり少し嬉しそうで……。
そしてまーくんは、苦しそうに胸襟を握りしめ……ただ、耐えていた。
「先生!」
私は手を挙げ、大声で先生に声を掛ける。
「ん? どうした坂崎?」
「はい、その、ま……堀口くんの具合が悪そうなので、保健室に連れて行ってもいいですか?」
「か、環奈! お、俺は別に……」
私の申し出に、まーくんは顔をしかめながら断ろうとする。
「ああ……確かに坂崎の言う通り具合が悪そうだな。よし、坂崎は堀口を保健室に連れて行ってやってくれ」
「はい」
「か、環奈……」
そんな泣きそうな表情をしながら目で訴えても、私は絶対にこの教室から……彼女の傍から連れ出すんだからね!
私はまーくんの席まで行くと。
「まーくん、行こ?」
「…………………………」
まーくんは渋々といった様子で席を立つと、私を置いて先に教室を出ようとする。
私もまーくんの後を追って教室を出ようとして、チラリ、と彼女を見やる。
……彼女は私達に一瞥もくれず、ただ席に座って前を向いていた。
まるで興味がないかのように、まるで私達が空気でしかないかのように。
——トン。
静かに扉を閉めると、まーくんは俯いたままその場で立ちすくむ。
「はは……優希の奴、二年振りだったけど、相変わらず変わってねえ、な……」
「まーくん……」
まーくんは手で額を抑え、顔を歪める。
「見たかよ、まるで俺達なんて……俺なんて、まるっきりアイツの瞳に映ってもいないんだぜ……? はは、あはは……」
「まーくん!」
私は思わずまーくんに飛びつき、そして、まーくんの顔を私の胸にうずめた。
私はこれ以上見ていられなかった。
まーくんの顔を……まーくんの、壊れてしまいそうな顔を。
「か、環奈……」
「まーくん……泣いて、いいんだよ……?」
「で、でも……」
「私が……私が、まーくんのつらさ、悲しさ、悔しさ……全部、受け止めるから」
そう言って、私はまーくんをギュ、と、より強く抱きしめる。
「環奈、俺……俺え……!」
「まーくん……!」
「う、ううう……うあああああああああ…………!」
まーくんは私の胸の中で、力なくむせび泣いた。
◇
「う……うう……」
あれからどれくらい経っただろう。
まだ授業が終わっていないから、一時間は経っていないはずだけど、それでもかなりの時間が経過しているはず。
まーくんは少し落ち着いてきたけど、それでも涙は止まらず、私の胸の中で震えている。
「……まーくん、そろそろ授業終わっちゃうから、別の場所に移動しよ?」
私はまーくんの悲しむ姿を誰にも見せたくなくて、背中を優しく撫でながらそうささやくと、まーくんは小さく頷いた。
「とりあえず、体育館の裏にでも行こっか」
そう言うと、顔は俯いたまま、まーくんはゆっくりと私の身体から離れる。
私は足元がおぼつかないまーくんの身体を横から支え、体育館の裏へと一緒に移動した。
「ん……ここなら誰も来ないから……」
私はさっきと同じように、またまーくんを抱きしめる。
「…………………………環奈」
「なあに、まーくん」
「……もう、少し……このまま、で……ごめん……」
「いいよ……」
そして、しばらくの間まーくんを抱きしめていると、まーくんが私の背中をポンポン、と叩いた。
「悪い……そ、その……ありがとう……」
「ん……」
まーくんが私からそっと離れる。
だけどまーくんはまだ俯いたままで、その表情は暗いままで。
すると。
——キーンコーン。
一時間目終了のチャイムが、ここ体育館裏にも響き渡った。
「……まーくん、今日はもう帰ろうよ」
「……え?」
まーくんは俯いたまま、意外だというような声で聞き返す。
「だって今日は色んなことがありすぎたし、心を整理する時間が必要だよ。だから今日のところは一旦家に帰って、少し落ち着こうよ、ね?」
「環奈……」
まーくんは顔を上げ、泣きはらしたまぶたの隙間から覗くその瞳で私を見つめる。
「そうと決まれば、まーくんと私のカバン、取って来るね」
「え、あ、その……環奈まで帰らなくても……」
「私もまーくんと一緒に帰るから……まーくんはここで待ってて」
そう言って私はその場を離れ、急いで教室へと戻ると、窓際の席の一角に人だかりができていた。
「ね、ねえねえ、その金髪ってナチュラルなの?」
「はい。母が日本人とフランス人のハーフなんです」
「文化祭の直後に転校って、なんだかドラマみたいじゃない?」
「ふふ、文化祭があるということなので、学校に通うのを文化祭終了後ということで調整していたんです」
「「「「「へえー!」」」」」
そしてその人だかりの中心には、にこやかに微笑みながら話をする優希の姿があった。
「な、なあ坂崎さん、アイツ……大丈夫なの?」
私の姿を見つけた佐々木くんと長岡くんが、心配そうにまーくんの様子を尋ねてくる。
「あ、うん……ちょっと今日は、まーくんと一緒に家に帰るね」
「あー……そっか。アイツに無理すんなって言っといて」
「堀口氏によろしくでござる……」
「うん、二人ともありがとう。まーくんに伝えとくね」
そう言うと、私はまーくんの机に掛けてあるカバンを取り、もう一度人だかりの中心にいる彼女を見ると。
——バアンッ!
私は自分の掌を机に思いきり叩きつけた。
教室内が騒然とし、みんなが一斉に私を見る中、私はただ一点、彼女……優希を睨みつける。
坂口優希……私は絶対に、あなたを許さない。
お読みいただき、ありがとうございました!
次話は明日の朝投稿予定です!
少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、ブクマ、評価、感想をよろしくお願いします!




