第5話
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ここから短編の続き、そして物語のスタートです!
——ジリリリリ。
「……………………んあ」
俺は枕の隣にあるスマホの画面をタップし、目覚ましのアラームを止める。
「ふあ……」
眠い目をこすりながらベッドから出た俺は、制服に着替えてリビングに向かうと。
「おはよう」
いつものように姉の羽弥が挨拶をする。
そしてテーブルからは、既に用意されている朝食の美味そうな匂いが漂っていた。
「……はよ」
「正宗、挨拶くらいちゃんとしろ。たるんでるぞ」
「へいへい」
と、ここまでが俺達姉弟の朝の挨拶だ。
しかし、我が姉ながら相変わらずの完璧超人ぶりだ。
まだ七時過ぎだってのに、朝食の用意ばかりかメイクと着替えも済ませている。
「全く……まあいい、早く食べてしまえ。私も今日は一コマ目から講義があるんでな」
「そうなの?」
「ああ」
仕方ない、なら急いで食うか……。
俺は慌てて朝食をかき込む。
「ごちそうさまでした」
「む、ちゃんと噛んで食べてるのか?」
「どっちだよ!?」
姉ちゃんが急げって言ったくせに……まあいいや。
俺は食器を軽く流してから食洗機に放り込むと、洗面所で歯磨きと顔を洗う。
すると。
——ピンポーン。
「ん? こんな朝早くに誰だ?」
俺はタオルで顔を拭きながらインターホンに出ると。
「環奈!?」
『まーくん、おはよ!』
なんで環奈がわざわざ家に!?
「どうしたんだよ!? まだ迎えに来てもらうほど遅くないぞ!?」
それにいつもは、待ち合わせ場所に遅れたら勝手に先に行くくせに……。
『えへへー、たまにはね?』
「…………………………」
コイツ、昨日からやっぱりオカシイ……。
昨日も、学校でのコイツの行動はずっと変だった。
休み時間のたびに俺のところに来ては、やれハルさんといつどこで知り合ったのか、どういう関係なのか、なんであんなにハルさんが馴れ馴れしいのかといったことを根掘り葉掘りと聞かれた。
そして休み時間の終わりには、決まって“バカ”呼ばわりしやがるし……。
『ねえねえ、早く開けてよ!』
「ハイハイ……」
俺は環奈がうるさいので渋々玄関のドアを開ける。
「えへへ、来ちゃった」
「はあ……とにかくすぐ支度するからちょっと待っててくれ」
「オッケー」
その時、リビングから姉ちゃんが出てきた。
「む、環奈じゃないか」
「あ! 羽弥さんおはようございます!」
「うん、おはよう。正宗を迎えに来てくれたのか?」
「ハイ!」
「そうか、それはすまないな。ここではなんだから、リビングでゆっくりしていくといい」
「ハーイ」
環奈は良い返事をしてリビングに向かった。
おっと、俺も早く準備しないと。
◇
「それで、なんで今日に限って迎えに来たんだ?」
俺は隣をのほほんと歩く環奈に尋ねる。
「さっきも言ったじゃん。たまたまだよ、たまたま」
怪しい……。
「嘘つけ、今までこんなことなかったじゃんかよ」
「そんな気分の時もあるの! まーくんだって、こんな可愛い幼馴染が家に迎えに来たら嬉しいでしょ?」
「は?」
何言ってんだコイツ。
可愛い幼馴染が迎えに来たら嬉しいか、だと?
嬉しいに決まってるだろコノヤロウ。
ただし。
「うーん、環奈はなあ……何というか、ちょっと違うんだよなあ……」
確かに環奈の容姿は学年でも一、二を争うほどだ。
クリっとした大きな目に整った鼻、ぷっくりとした桜色の唇、栗色の髪のロングをツーサイドアップにまとめている。
スタイルも抜群で、基本的にスレンダーながら、出るところは出ているし。
まさに“美少女”と呼ぶにふさわしい。
だけど、なあ。
「環奈は子どもの頃を知ってるからなあ……」
「何よ!」
そう言うと、隣で環奈が頬をふくらませてプリプリと怒っている。
だけどコイツ、小学校の時は髪も短くて、服装も半袖Tシャツに半ズボンの、どう見ても男みたいだったんだよなあ。
もちろん、やることなすこと男と一緒で、よくつるんでは一緒にイタズラしたりしてたよなあ。
だから、コイツのことを俺は同志だと思っているから、ラノベみたいないわゆる幼馴染とは、ちょっと感覚が違うというか……。
「はあ……せっかく今日も可愛くキメてきたのになあ……(ボソッ)」
「ん? 何か言ったか?」
「別に!」
全く、何だってんだ……。
「ね、ねえ、それよりさあ……今日はちょっと遠回りしない?」
「は?」
ホントどうしたんだコイツ!?
昨日もそうだけど、今日も朝から訳が分かんねーぞ!?
「オイオイ……お前、いつもあの道はハルさんが通るからって、絶対あの道を譲らなかったじゃねーか」
「そ、それはそうだけど……きょ、今日は遠回りしたい気分なの!」
どんな気分だよ……ま、そんなこと言っても、答えは決まってるけど。
「イヤだ。今日もいつも通り同じ道で行く」
だって、そうすればハルさんに会えるからな。
あの時……ハルさんに頬をキスされた時から、あの感触が、ハルさんのあの表情が俺の頭から離れない。
だから、今日もハルさんに会うためにいつもの道を通るのだ。
「……な、何よ……まーくんのバカ!」
「な!? バカとはなんだバカとは!」
コノヤロウ、本当に何だってんだよ!?
「とにかく! 今日もいつも通りに登校する! 以上!」
俺はそう言い切ると、そのままいつもの道を歩き続ける。
「ちょっ!? まーくん待ってよー!」
なんだかんだ言いながらも、結局は環奈も慌てて後をついてきた。
そして——いよいよいつもの路地に入ると。
「おーおー、今日も大勢いるなあ」
そこには多くの同じ学校の女子生徒達が待ち構えていた。
「しっかし、コイツ等も朝から何というか……なあ? 環奈……」
「知らない!」
おっと、どうやらまだ環奈はご立腹のようだ。
つい一昨日まではこの出待ちの女子生徒と同じだったのに、ハルさんが女性だと分かった途端これだもんなあ。
すると、急に女子生徒達が色めき立つ。
どうやら、ハルさんご登場のようだ。
「ねえねえ! 来たわよ!」
「ああ……今日もカッコイイ……」
「今日こそは……!」
女子生徒達の反応も様々で、興奮が抑えられない様子で隣にいる女子の肩を揺する奴、ハルさんを眺めながらウットリする奴、鼻息荒く意気込む奴等々……。
はあ……コイツ等にハルさんが実は女性なんだと教えてガッカリさせてやりたい。
「あ……あの……!」
今日も決意を込めた表情でハルさんにアタックしようとする勇者が現れる、が。
「あ……う……………………」
ハルさんが視線を送ると、その女子生徒はたちまち何も言えなくなって、そのまま引っ込んでしまう。
これも、平日の朝の見慣れた風景だ。
そして。
「正宗くん……おはようございます!」
ハルさんが俺達の前で立ち止まり、最高の笑顔で朝の挨拶をしてくれた。
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次話は明日の夜投稿予定です!
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