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第44話

ご覧いただき、ありがとうございます!

「や、やっと交替だ……」


 姉ちゃんと佐山に拘束され続け、本当だったらもっと早くに交替できたはずなのに、結局十四時まで休憩なしだった……。


「あ……お疲れ様でした」

「ハルさん!」


 バックヤードに戻ると、ハルさんがスッと水の入ったコップを差し出してくれた。


「あ、ありがとうございます!」


 俺はコップを受け取ると、一気に飲み干す。


「ぷはっ! くうー、美味い!」


 しかもハルさんがくれた水だから、美味さもひとしおだ!

 できればおかわりを所望したい。


「ハルさんも交替ですか?」

「あ、は、はい、私は一時間前に交替しまして……」

「あ、そうなんすね」


 すると、もうお昼は食べちゃったよなあ。

 せっかくだから、学校の中を案内しつつ、出店で買い食いしながらお昼一緒にしたかったけど……おのれ姉ちゃん、おのれ佐山。


「あ、そ、それで」

「はい?」

「その……正宗くんが学校を案内してくれるって……」


 ハルさんが両手を合わせて口元を隠しながら、上目遣いで俺を見る。

 なにこの仕草、超可愛いんだけど。


「あ、はい! もちろんです! それで、ついでに俺、出店で昼メシ買っても……」

「あ、実は私もお昼、まだでして……」

「ええ!? まだお昼食べてないんですか!?」


 じゃ、じゃあ一時間もの間、ここにいたってこと!?

 まさか俺を待って……って、さすがにそれは自惚れ過ぎか。


「はい……ま、待ってましたから……」

「ひょ、ひょっとして俺、ですか……?」


 俺は自分を指差すと、ハルさんが少し恥ずかしそうにコクリ、と頷いた。


 そ、そうか、俺のこと待っててくれたんだ……。


「あ、ありがとうございます」

「あ、その、わ、私も正宗くんと一緒にお昼ご飯、食べたかったですから……」


 …………………………グハッ!


 なんだよコレ! 最高かよ!

 もう俺は全財産をはたいてでも、ハルさんにご馳走しちゃうぞ!


「じゃ、じゃあ早速行きましょうか」

「は、はい!」


 ということで、俺とハルさんはバックヤードを出て、出店エリアへと足を運ぶんだけど……。


「……ハルさん」

「も、もう慣れてます……」


 執事服はそのままで出てきているので、女子生徒達のハルさんへの視線が半端ない。


 こ、これ……俺がちゃんと気を回さなかったから、だな……。


「い、今から引き返して、着替えてからもう一度……!」


 俺がハルさんにそう告げて教室に引き返そうとすると、ハルさんが俺の手をつかむ。


「わ、私は大丈夫です! ……私は、正宗くんが……正宗くんだけが私のことを分かってさえくれれば……」


 ハルさんがニコリ、と微笑む。


 だけど、その瞳はやっぱりどこかつらそうで、苦しそうで。


 ……本当に、俺はバカだ。


「お、俺……」

「正宗くん……そんな顔、しないでください。私は今、君と一緒に文化祭を楽しみにここに来たんです。ですから……ね?」

「ハルさん……」

「謝ったりするのもなし、ですよ?」


 そう言って、ハルさんは俺の唇に人差し指をピタ、とつけた。


「それより、私はもうお腹がペコペコです! 早く色々買い食いしましょう!」

「あ……ハ、ハイ!」


 そうだ。


 俺とハルさんは今、この文化祭を楽しもうとここにいるんだ。

 だから、俺はハルさんに目一杯楽しんでもらうために頑張ろう。


 そして、今日の失敗を繰り返さないよう、ハルさんの笑顔とその瞳を心に刻んでおこう。


 ……以前の俺みたいに、勘違いしてしまわないようにするために。


 ◇


「正宗くん! この焼きそば美味しいです!」

「ハルさん、このたこ焼きもかなりいいですよ」


 俺達は出店を見て回りながら、買ったものを歩きながら食べている。


「あ、美味しそうですね! ですが……」

「あー……」


 ハルさんの両手は焼きそばのパックとお箸で塞がっており、たこ焼きに刺さったつまようじを持てない。


「でしたらその焼きそばとたこ焼きを取り替えて……」

「そそそ、その!」


 ん? ハルさん顔を真っ赤にして、しかもどもったりなんかしてどうしたんだ?


「ええと……?」

「そ、そのたこ焼き……正宗くんが、その、食べさせて……くれませんか……?」


 そ、それは、いわゆる“あーん”というやつでは!?


「え、ええと……い、いいんですか?」

「は、はい! お願いしましゅ!?」


 あ、ハルさんが舌噛んだ。


 だ、だけど、ハルさんがいいって言うんだし、そ、それなら……。


「で、では……」


 俺はたこ焼きにつまようじを刺し、それをハルさんの口元へ……。


「ど、どうぞ……!」

「は、はい……はむ……ん……」


 ハルさんが、その可愛らしい口でたこ焼きを頬張ろうとするけど、全部入りきらず、半分だけかじる。


「ん……美味しい……えと、はむ……」


 そう言って、残り半分も口に含み、咀嚼する。


「ごく……ん……はあ……」


 ヤベ、俺の理性が……!


 と、とにかく、ここに長岡の奴がいなくて良かった。


「うふふ、すごく美味しかったです!」

「そそ、そうですか!」

「?」


 俺はハルさんの顔がまともに見れなくて、つい顔を背けてしまう。


 や、ハルさん……それ、反則っすよ……。


「あ」

「は、はい!?」

「正宗くん、お口の端に青のりが……」


 そう言うと、ハルさんは俺の口元に手を伸ばして、青のりを取ってくれた。


 そして。


「はむ」


 その青のりを口に含み、食べてしまった!?


 あああああ! こんなの俺が持たねええええ!


「あ、正宗くん!」


 こ、今度は何だ!?


「あそこにチョコバナナがありますよ!」

「ブッ!?」


 ア、アカン……それはアカンぞ!?


「ハ、ハルさん、ち、違うのにしましょう!」

「そ、そうですか……?」


 そんな感じで、俺は本能と理性のせめぎ合いの中、交替までの時間一杯までハルさんとの文化祭の出店巡りを楽しんだ。

お読みいただき、ありがとうございました!


次話は明日の朝投稿予定です!


少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、ブクマ、評価、感想をよろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 尊すぎるよハルさん
[良い点] とても微笑ましい。 [一言] が、傍から見た感じだと執事服のイケメンとフツメン(?)がイチャコラしているように映っているんですよねぇ……。 腐臭漂う方々が大歓喜していそうです。 前回の感…
[一言] ちっ、イチャイチャしやがって…w ハルさん、あーんのおねだりって…めっちゃかわいいわぁ^^
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