第37話
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文化祭本番の前日。
俺達は明日に向け、教室を『執事喫茶』とするべく、暗幕を張ったり仕切りをつけたりソファーを作ったりと、大忙しである。
「環奈ー、そろそろ生徒会に行ったほうがいいんじゃないのか?」
俺はみんなと一緒にソファーの布をかぶせている環奈に声をかける。
生徒会も生徒会で、段取りの最終確認など大変なのだ。
「う、うん、もう少しだけ……」
「ホラホラ、そんなこと言ってたらいつまで経っても抜けらんねーぞ? 佐山も首を長くして待ってるだろうし、早く行けって」
そう言って、俺は環奈の背中をポン、と叩く。
「うん、じゃあお言葉に甘えて行ってくる!」
「おう、がんばれ!」
「うん!」
よしよし、それじゃ俺も環奈の分までがんばらねーとな!
「つか、堀口も行ってこい!」
「んあ!? 佐々木!?」
突然佐々木の奴から背中を押され、思わずよろめく。
「コッチは今いる人数で充分だからさ。生徒会もあの生徒会長がいなくて結局二人だけなんだから、堀口が助けてやれよ」
「むむ……」
「そうでござるぞ堀口氏。ここは拙者達に任せるでござる」
「長岡……お前にそんな台詞は似合わねー」
「デュフフフ、辛辣でござるなあ……」
だけど。
「悪い二人とも。今度何か奢るわ」
「つーか俺達、まだ一度も奢ってもらってねーんだけど……」
「もうすぐ! もうすぐバイト代出るから!」
「デュフフ、拙者は奢りでなくても姉君のした……ゲボア!?」
バカヤロウ、環奈以上にダメに決まってんだろ。
ということで、俺は二人に甘え、環奈の後を追いかけると……いたいた。
「よっ」
「まーくん!?」
環奈は驚いた表情で俺を見る。
「おう、佐々木と長岡の奴が俺の分カバーしてくれることになったから」
「あ、じゃあ……」
「俺も手伝うよ」
「まーくん……ありがとう!」
……なんかこの前の一件以来、調子狂うな……。
何というか、その……環奈って、こんなに可愛い表情する奴だったっけ?
まあ、今はそれは置いといて。
「よし、じゃあ生徒会室に急ごうぜ」
「うん!」
てことで、俺達は生徒会室の扉を開けると。
「あ、環奈さん! それに、センパーイ!」
「なあ!?」
あの日以来、もはや小動物のように尻尾を振って愛想を振りまく佐山が、これでもかと接近する。
や、だけどコイツも大分変わったよなあ。
あれから生徒会の仕事も人一倍責任感を持って取り組むようになったし、何よりその態度が謙虚になった。
だが、佐山の俺へのその態度があからさま過ぎて、心の中で若干引いてるのはナイショだ。
「え、ええと、睦月ちゃん? さすがに近すぎじゃ……」
「今日はひょっとして、センパイも手伝いに来てくれたんですか!」
「あ、ああ……」
「やったー!」
何というか佐山の奴、瞳をウルウルキラキラさせて俺を見つめるんだけど……あ、あざとい……。
「睦月ちゃん!」
「はい、何でしょうか!」
「そんなに近づかなくても大丈夫だから!」
「えー、だってそうじゃないと、ちゃんとセンパイのお話が聞けませんから! ね、センパイ?」
「い、いや……そんなことはないんじゃ……なあ?」
うむう、今までの小憎たらしい態度よりはよっぽどいいんだけど、今度はやたらと懐いちまったんだよなあ……真ん中はないのか真ん中は。
「とにかく! 早く生徒会の仕事片づけるわよ! 睦月ちゃんは文化祭の費用収支をもう一度検算! まーくんは私と一緒に各クラスと文化部を回るわよ!」
「えー! それだったら私がセンパイと行きますよー!」
「ダメ! 睦月ちゃんは会計でしょ!」
「横暴だー!」
などと姦しいことこの上ないな……。
どうすんだコレ、収拾つかねーぞ?
——ガララ。
その時、生徒会室の扉が開くと……松木のクソ野郎が入ってきた。
「うむうむ、順調なようだな」
ウンウン、と満足げに頷く松木。
聞いた話によると、今回の文化祭の対応が持ち直し、むしろ上手くいったことで松木の株が一部の教師の間で上がったという、なんとも言えないことになってるらしい……。
まあ、俺の見立てでは松木の奴が、職員室内ででっち上げのステマ働いたんじゃねえかって睨んでるけど。
そして、相変わらず生徒達の好感度ランキングはぶっちぎりで最下位だけど。
「……何しに来たんですかあー?」
佐山が松木の奴をこれでもかというほど嫌悪感を見せる。
「ん? それはもちろん生徒会顧問として君達の様子を確認しにだな」
「チッ!」
うわあ……本人の目の前で思いっきり舌打ちしたよ!
や、その気持ちは海より深く分かるけど。
「何だその態度は! それでも生徒会役員としての自覚が……!」
——ガララ。
アレ? また誰か来たぞ?
「やあ、久しぶりだな」
現れたのは、まさかの生徒会長……船田だった。
つーかコイツ、引きこもってたんじゃないのかよ!?
「船田あ! お前は今まで何をしていたんだ!」
すると突然、松木の奴が船田を怒鳴り出した。
「何って、病気療養をしていたんですが」
「生徒会がこんなに大変な時期に、何をたるんだことを!」
オイオイ!? 本当かどうかは知らないけど、引きこもってた奴に教師がそんなこと言っちゃダメだろ!?
「今まで満足に生徒会に顔も出したことがない顧問が言ったところで、説得力がないですよ。なあ佐山くん?」
「は?」
船田は佐山に合いの手を求めるが、当の佐山はこれまた思いきり顔をしかめて船田を睨みつける。
「私からすれば、大事な時にいなくてクソの役にも立たない二人は、目障りでしかねーですよ!」
……あーあ、佐山が本気でキレちまった。
「な、何だと! 君だって生徒会の仕事をサボってばかり……!」
「二人にはそんなこと言う資格はないですよ?」
環奈が二人に向かってピシャリと言い放つ。
「会長がいなくなってから、この生徒会で一番がんばってきたのは他ならぬ睦月ちゃんです。実際、あなたがいなくなってからこれまでの間、彼女の行った仕事は私ですら目を見張るほどです」
うん、あざといところは変わらないけど、そこだけは大きく変わった。
あの日から遅れを取り戻すかのように毎日遅くまで生徒会の仕事をして、今では立派に環奈の右腕と言っていいほど成長した。
環奈も俺も、そこはちゃんと認めないとな。
「フ、フン! 君は生徒会を辞めて今は部外者だろう! 君に生徒会のことで口出しをする資格は……「いや、復帰したから」……はあ!?」
俺がツッコミを入れると、船田は驚いた表情でこちらへと振り向く。
「や、当然でしょ? 佐山も言った通り、生徒会長は引きこもり、顧問は文化祭については教師不介入だと言ってフェードアウトして、クソの役にも立たなかったじゃないっすか」
「「な!?」」
「事実言われたからって、いちいち驚くのやめてくださいよ。とにかく、今さら二人の居場所はないんで、さっさと出て行ったらどうっすか?」
全く……これ以上環奈の足を引っ張るような真似、やめて欲しいんだよね。
「フ、フン! 後悔するなよ!」
お前がな。
「こ、これは生徒会解体も視野に入れないとな!」
お前が困るだけだぞ?
とまあそんな捨て台詞を吐いて、二人はやっと出て行った。
「「「はあ……」」」
そして俺達は、盛大に溜息を吐いたのだった。
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次話は今日の夜投稿予定です!
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