第36話 青山晴⑥
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■青山晴視点
「しかし……ハルが好きだと言っていた高校生の男の子が、まさかうちの正宗だったなんて……」
私と羽弥は今、大学の構内にあるカフェテリアのテラス席で向かい合っている。
もちろん、正宗くんのことについて話し合うためだ。
「はい……正宗くんは、私のことをまっすぐに見てくれ、認めてくれ、救ってくれた、ただ一人の大切な男の子です……」
「う、うむ……」
私はあの時の出来事を思い出し、胸が熱くなる。
もちろんそれだけじゃない。
ステラでのアルバイト中の正宗くんも、いつも周りを気遣い、さり気なくフォローしてくれていたりする。
本当に優しくて、明るくて、素敵な男の子。
しかも、お弁当を渡した時に見せたあの無邪気に喜んでくれた表情……ああ、思い出しただけで、胸が締めつけられる。
私はもう、正宗くんのこと以外考えられない。
「あ、ああ、うむ……ハルの気持ちはよく分かった……」
羽弥は少し複雑そうな、悲しそうな表情をして俯いた。
やはり大切な弟だからこそ、寂しい気持ちがあるんだろうか……。
「……なあ、ハル」
「? 何ですか……?」
羽弥がこれまで見せたことのないような、神妙な面持ちで私をじっと見る。
「そ、その、た、例えばの話なんだが……ち、血の繋がっていない姉弟の恋愛って、どど、どう思う……?」
「ブフウッ!?」
「だ、大丈夫か!?」
お、思わず口に含んでいたカフェラテを吹き出してしまいました……。
「だ、大丈夫です……そ、それよりその話……」
「あ、ああ! 私も人伝いに聞いた噂でしかないのだが、そ、そんなこともあるのだなあと思ってな!?」
「そ、そうですか……」
ですが……そうか、正宗くんと羽弥は“血の繋がらない姉弟”、ですか……。
そして、羽弥は……。
「あ、ああ……うむ……わ、私も血が繋がらないとはいえ、姉弟として一〇年以上過ごしてきたのに、れ、恋愛感情を抱くなど、異常だと思う……」
そう言うと、羽弥はみるみる落ち込んだ表情になっていく。
「羽弥……」
私はこのたった一人の親友に、なんと答えたらいいんだろうか。
私が好きになった人が正宗くんでなければ、無責任に応援すると、軽々しく口にしていたかもしれない。
私が正宗くんのことを好きだと言ってなければ、羽弥は私にその想いを打ち明けなかったかもしれない。
だけど、これだけは言える。
「……私は……私の正直な気持ちは、姉弟で好きになってしまう……それを揶揄することも、否定することもできませんし、その権利も、その資格もありません……」
「…………………………」
「ですが、これだけは言えます」
縋るように私を見つめる羽弥の瞳を、私は真正面から受け止め、そして。
「私は、初めて心から大好きになった人を……正宗くんを、絶対にあきらめない。絶対に譲らない」
「っ!?」
私の全ての想いと決意を込めた言葉に、羽弥は息を飲んだ。
……いつも頼ってばかりの私が、羽弥にここまで想いをぶつけたのは初めてですね。
だけど、羽弥も……羽弥なら気づくはず。
簡単に諦められるような想いじゃないのなら……どう言われても、どう思われても前に進むしかないんだってことを。
「…………………………ふふ」
「羽弥……?」
「そうだ、な……ハルの言う通りだ。好きになったのなら、そんな些細なこと、取るに足らないな」
え、ええと、“取るに足らない”は言い過ぎなんじゃ……。
「そ、そうだとも! むしろその程度の障害も越えることができないで、それで本当に好きだと言えるのか? 否! 何人たりとも、この想いを止めることはできないのだ!」
あわわわわ……羽弥に変なスイッチが……!?
「全く、さすがは私の唯一無二の親友だ! こうも見事にわた……悩める姉弟に的確なアドバイスを出せるのだからな!」
ああ……まだ別の人の問題だと言い張るんですね……。
そして、羽弥自身の想いと私の想い、その両方を理解しながら、まだ私のことを“親友”と言ってくれるんですね……。
そんな思いやりがあって優しくて、そして温かいところ……正宗くんとそっくり。
羽弥がいたからこそ、正宗くんはあんなに素敵な男の子になったんだろうな。
「うむうむ……ならば早速、実践……したほうが良いと、その、アドバイスしてやろう」
もう……自分だって認めればいいのに。
「ま、まあ羽弥の悩みが解消したのならそれで……」
「いいいいや!? わ、私は何一つ悩んでいないからな!?」
「ハイハイ……」
私は少し呆れながら、スマホ画面の時刻表示を見る。
あ……もうこんな時間。
「それじゃ羽弥、時間だし私はアルバイトに行くから」
「ああ……うむ、今日は話を聞いてくれてありがとう」
「いえいえ」
お会計をテーブルに置いて私は席を立ち、その場を去ろうとして。
「ハル」
羽弥に呼び止められ、後ろを振り返る。
そして。
「私は負けない」
「ふふ……私もです」
私と羽弥は想いをぶつけ合った。
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