第35話
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「ふむ……この部屋に入るのも久しぶりだな」
突然、生徒会室の扉が開かれ、一人の女性が入ってきた。
それは、黒髪をポニーテールにまとめ、身長はハルさんほどではないにしろ、俺とほぼ同じ身長、そして、男なら目を見張るほどの圧倒的なスタイル。
だがそれ以上に、その凛とした佇まいと顔立ちの整った圧倒的な美貌、そのつややかで薄い唇から紡がれる言葉は、男女問わず魅了する。
それが、俺の姉ちゃん——“堀口羽弥”だ。
「は、羽弥さん!?」
「羽弥!?」
姉ちゃんの姿を見た環奈と、ハルさ……え!? ハルさん!?
「む、おお環奈……と、ハル!? なんでハルがここにいるのだ!?」
「そ、それは私の台詞です!」
ひょ、ひょっとしてハルさんと姉ちゃんって、知り合いなの!?
「え、ええとハルさん、ど、どういうことなんですか?」
「え、わ、私が知りたいんですけど!?」
「ちょ、ちょっと!? それよりなんで羽弥さんがここに!?」
「センパーイ! この綺麗な方、誰なんですかー!?」
「おい正宗、これは一体どういうことなんだ!?」
あああああ! なんだこの状況は!?
みんな錯綜してて、完全にカオスじゃねえか!?
「ちょ、ちょっと落ち着いてみんな! ま、まず順を追って……!」
「まーくん! 何がどうなってるの!?」
「ま、正宗くんと羽弥はどういう関係なんですか!?」
「センパーイ! 部外者には出てってもらいましょうよー!」
「ハルがなんでここに!?」
「あー! みんな落ち着け!」
俺は四人に向かって大声で叫ぶと、とりあえずピタリ、と止まった。
「ええと、まず、こちらにおわす御方は俺の姉ちゃんの“堀口羽弥”。元々うちの学校のOGで、当時は生徒会長をしてたから、助っ人に来てもらったんだ」
「助っ人に!?」
そう、元生徒会長の姉ちゃんなら、文化祭の運営だってノウハウがあるし、絶対強力な助っ人になると思ってRINEを送っておいたんだ。
すると姉ちゃんからは、『任せろ』と、短いけど力強い返事をもらったってわけだ。
「で、ハルさんと姉ちゃんは、何で知り合いなの?」
「あ、ええと、羽弥と私は同じ大学の同級生で、しかも大切な友達なんです」
「ええ!? 姉ちゃん、ハルさんと同じ大学で、しかも友達同士だったの!?」
「う、うむ……」
ほえー、世間ってのは意外と狭いモンだなあ……。
「ま、まあ、そういうことなので、姉ちゃんも環奈と一緒に、みんなにアドバイスとかしてくれると助かるんだけど……」
「ああ、任せてくれ。伊達に三年間も生徒会をしていない」
姉ちゃんはその立派な胸をドンと叩いた。
うん、頼もしいのと目に毒なのと、その両方だな。
「ということで、みんな作業にもど……ハッ!?」
見ると、なぜかクラスメイトの一部が俺をジト目で睨んでいた。
な、なんで!?
すると、佐々木と長岡がチョイチョイ、と手招きをした。
「お、おお……なん……イテッ!」
な、なぜかペチンと頭を叩かれてしまった。
「コノヤロウ、お前はラブコメラノベの主人公か」
「ゆ、許せないでござる! 坂崎氏だけでも許容できないのに、その上美人のお姉様二人にあざとい後輩まで……!」
「待て!? ご、誤解だ!?」
「「問答無用!」」
その後、俺は一部のクラスメイトの男子の手によって、ただただ一方的に罵倒され続けた。
◇
「…………………………」
「ど、どうですか……?」
環奈が姉ちゃんの顔色を窺うように、おずおずと尋ねる。
「うむ、よくできている。これで文化祭の前準備は終了だ。あとは余程のことがない限り大丈夫だろう」
「あ、ありがとうございます!」
「「「「「やったー!」」」」」
姉ちゃんのお墨付きをもらい、生徒会としての文化祭の準備が全て終わった!
生徒会室がクラス全員の歓声に包まれ、ハイタッチをしたり抱きついたりして、みんなが思い思いに喜び合う。
しかし、やればできるもんだな!
つーか。
「環奈、やったな!」
俺は環奈の背中をポン、と叩いた。
「まーくん……うん……うん!」
「わ!?」
すると環奈は、感極まって俺に勢いよく抱きついてきた。
つーか勢いあり過ぎて、後ろに倒れるところだったぞ!?
「ホレホレ、それよりみんなに何か言ってやれよ。みんな、お前のために動いてくれたんだからさ」
俺は抱きつく環奈の背中をポンポン、と叩くと、環奈は瞳にたまった涙をグイ、と腕で拭い、みんなに向き直る。
「みんな! 本当にありがとう! おかげで……おかげで文化祭、無事にできるよ!」
「「「「「お――――――!」」」」」
環奈の言葉に、みんなが拳を突き上げた。
イヤ、ノリいいなみんな。
すると、俺の肩をポン、と叩かれたので振り向くと、そこには姉ちゃんとハルさんがいた。
「いい仲間たちじゃないか」
「うふふ、本当ですね……」
「姉ちゃん、ハルさん……二人とも、本当にありがとうございました!」
「おいおい堅苦しいな。いつも言っているじゃないか、『私はいつでも無条件に正宗の味方だ』って」
「うん……」
「も、もちろん私も正宗くんの味方ですから!」
なぜかハルさんは姉ちゃんに対抗するかのように、フンス! と小さくガッツポーズをした。
何これ、超可愛いんだけど。
その時。
「み、皆さん!」
佐山が大声で叫び、ガヤガヤと騒いでいた室内が一瞬シーン、となる。
「こ、このたびは、本当にすいませんでした! 申し訳ありませんでしたああっ!」
一生懸命に涙を堪えながら、深々と頭を下げる佐山。
すると。
——パチ、パチ。
少し戸惑うような感じで、クラスメイトの誰かが拍手をする。
そして。
——パチパチパチパチパチパチパチパチ!
どんどん拍手の輪が広がり、全員の大きな拍手が沸き起こった。
その光景に、生徒会室の真ん中で戸惑う佐山。
そして。
「う、うわあああああん! あ、あ、ありがとうございましたあああああ!」
とうとう堪え切れずに、佐山は大声で号泣した。
……クラスの何人かからは文句の一つや二つ出ると思ったんだけどなあ。
「つーかうちの……」
「『つーかうちのクラス、お人好しな奴多くね?』なんて思ってるんでしょ」
「んあ!? か、環奈!?」
いつの間にか環奈が俺の後ろに立っていて、してやったとばかりにニシシ、と含み笑いした。
チクショウ、俺の台詞を横取りしやがって!
「あはは、ホントにまーくんは……分かってるの? まーくんが一番お人好しだって」
「何言ってんだ、そりゃお前だろ。俺は自分に関わりのある奴しか手助けしねー主義なの」
「じゃあ……まーくんは私のためにがんばってくれた、ってことだよね……?」
環奈が潤んだ瞳で俺を見る。
な、何だよ……環奈って、こんな顔してたっけ……?
「ま、まあ想像に任せる」
「ふふ、じゃあ勝手に想像しとく……だから、アリガト」
「「なあ!?」」
環奈がそう言うと……俺の頬に柔らかい感触を感じた。
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次話は今日の夜投稿予定です!
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