第31話
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「正宗、今日は本当にお弁当はいいのか?」
「うん、今日は別で食べるから」
味噌汁をすすりながら、姉ちゃんに改めて断りを入れる。
なんといっても、昨日の夜RINEでハルさんが『明日はお弁当、作りますね』なんてメッセージくれたもんだから、朝から俺のテンションは超高いのだ。
だから姉ちゃん、今日はスマン。
「そうか……なあ正宗、その、ひょっとして……」
「モグモグ……ん? なに、姉ちゃん?」
「あ、ああいやその、な、何でもない……」
? 変な姉ちゃんだな。
——ピンポーン。
お、環奈のヤツが来たな。
「ホイホイっと」
俺は慌ててご飯をかき込んで食事を済ませ、食洗器に食器を放り込むと、玄関へと向かう。
「まーくんおはよ!」
「おう、おはよう。今から支度すっからリビングでちょっと待ってて」
「うん! お邪魔しまーす!」
勝手知ったる何とやらで、環奈は流れるような動きでリビングへと入って行く。
さて、俺もさっさと歯を磨いて準備するか。
◇
「なあ環奈、リビングで姉ちゃんと何話してたんだ?」
「え、ええと……何が?」
俺が尋ねると、環奈が目を泳がせながらとぼけた表情で聞き返す。
つか、分かりやす過ぎだろ。
「や、だから姉ちゃんと何を話してたんだって聞いてんの。家を出るとき、姉ちゃんの様子があからさまにおかしかったからな」
「え、そ、そうかなー」
「そうだよ」
ああもう、埒が明かねーな。
「環奈」
「! は、はい!」
俺が真剣な表情で環奈の名前を呼ぶと、環奈はビクッ、となって少し緊張した顔になる。
「お前も知ってると思うけど、姉ちゃんは俺にとって一番大切な家族だ。だから、姉ちゃんに何かあるんだったら、ちゃんと教えてくれ」
「う、うん……べ、別に大したことじゃないよ? その……まーくんの様子について聞かれただけで……」
「俺の?」
はて? 俺、姉ちゃんに心配されるような行動なんかしてるだろうか……?
バイトから帰る時はちゃんとRINEで連絡入れてるし、学校の成績も良くはないが悪くもないし、特にケガや病気もしてないし……うーん、思い当たらん。
「ま、まあ、特に気にする必要はないんじゃないかな。た、多分、戸惑ってるだけだと思うし」
「戸惑う? 一体何に戸惑うってんだ?」
ますます分からなくなってきた……。
「と、とにかく! これ以上は羽弥さんとのこともあるから、これ以上は言えないから! まーくんは別に心配するようなことじゃないの!」
「む、むう……」
そう言われてしまうと、これ以上は聞けん。
すると。
「おはようございます!」
ハルさんが今日も笑顔で挨拶をしてくれた。
はあ……俺の一日の癒しはここから始まるのだ。
「「ハルさん、おはようございます!」」
「うふふ……そうだ、正宗くんこれ」
そう言うと、ハルさんは手に持っている保冷バッグを渡してくれた。
「あ、ありがとうございます!」
「そ、その、一つ作るのも二つ作るのも、お、同じですから……な、何なら毎日でも……(ゴニョゴニョ)」
うっひょい! ハルさんの手作り弁当だ! 今日の昼は超楽しみ……って、コラコラ環奈さんや、そんなジト目でこっちを見るな。
「ムフフ」
「何よデレデレしちゃって……まーくんのバカ!」
フフフ……いつものように癇癪を起こしても、ハルさんの弁当を手に入れた俺の心は海よりも深いのだ。
「まあまあ環奈さんや、気を静めたまへ」
「フ、フン!」
環奈は頬を膨らませ、プイ、と顔を背ける。
「ふふ、それでは私も行きますね」
「あ、はい! ハルさんありがとうございました!」
「ええ、行ってらっしゃい」
ハルさんがにこやかな笑顔で手を振ると、駅へ向かって歩いて行った。
……相変わらず環奈はムッとしたまんまだけど。
◇
「ふーん、へーえ、ほーお、それがハルさんのお弁当ですかー。美味しそうですねー」
教室で向かい合わせに座る環奈が、ハルさんの弁当を覗き込んで皮肉たっぷりの台詞を吐く。
環奈さんや、それ、完全に負けフラグ……おっと、環奈が思いっきり睨んでるぞ。
さてはまた俺の心を覗いたな。
だが、そんな皮肉や環奈の視線も気にならないくらい、俺はハルさんの弁当に夢中だ。
因みに今日のラインナップは、珍しい俵型のおにぎりにだし巻き卵、焼き鮭、野菜の煮物と純和風となっていた。
うむ、俺は和食は好きだぞ。もちろん洋食も中華も好きだけど。
「チョット……その煮物、一口食べさせなさいよ」
環奈が鋭い目でハルさんの弁当を凝視しながら箸を伸ばす。
「ひ、一口だけだからな!」
「分かってるわよ」
本当は一口たりとも差し出したくはないが、ここで拒否すると間違いなく俺は環奈に制裁という名の理不尽な暴力を受けることになるからな。
なので、ここは寛大な心で提供してやろう。
「……モグ……クッ! 悔しいけど美味しいわね……」
環奈が、ハルさんが作った野菜の煮物の美味さにガックリとうなだれる。
フフフ、どれ……むお! 確かに美味いぞ!
これは姉ちゃんに匹敵するかも……!
「さて……じゃあ環奈の弁当に入ってる煮物をよこせ」
「へ?」
「へ? じゃないだろう、俺も泣く泣くやったんだ。俺もお前の煮物をもらう権利がある」
当然だろう。世の中は常にギブアンドテイクなのだ。
「う、うん……」
環奈がおずおずと弁当を差し出す。
環奈は不安そうな、だけど少しだけ期待するような、そんな表情をしていた。
「ふむ、どれどれ……」
環奈の弁当からカボチャの煮物を箸でつまむと、ヒョイと口の中へ放り込む。
「モグモグ……むむ!」
「へ、変な味だった!?」
「何だよ環奈! このカボチャの煮物、超美味いじゃん!」
オイオイ環奈さんよ、このカボチャの味付け、醤油とみりん、そしてカボチャ本来の甘さが見事にマッチしているぞ!
これは……姉ちゃんとハルさんにも匹敵するかも……!
「ホ、ホントにその、お、美味しい……?」
「あん? 嘘言ってどうすんだよ。この煮物、ハルさんのにだって負けてねーぞ」
「あ、う、うん……えへへ……」
全く……環奈はもっと自信を持てばいいのに。
そんなことを思いながら、今日も環奈と昼メシを楽しんだ。
お読みいただき、ありがとうございました!
次話は今日の夜投稿予定です!
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