第26話
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「へえ、正宗くん達のクラスは執事喫茶をするんですか」
夕方六時を過ぎてお客も少なくなった頃、俺とハルさんはショーケースの傍で今日決まった文化祭の出し物について話をしていた。
「そうなんすよ……しかも女子全員で組織票しやがって……」
そりゃあウチのクラスには、サッカー部のエースの杉山がいるし、佐々木も黙っていればかなりのイケメンに分類されるから、それなりに人気でそうではあるけど……。
俺や長岡をはじめ、大多数の男子の気持ちも少しは配慮してほしい。
ヤベ、思い出しただけで頭が痛くなってきた。
「あ、あの! そ、それで正宗くんも、執事……するんですよね?」
「え、ええ……とりあえず男子も女子も全員執事になる予定ですから……」
「そ、そうですか……」
すると、ハルさんは急に口元に指を当てて考え込むと、真剣な表情で俺を見つめた。
「正宗くん」
「は、はい」
「その……正宗くんの学校の文化祭は、外部の人は参加できないんですか?」
「い、いや、うちの文化祭は生徒の家族や近隣住民にも開放してますから、基本的に参加券さえあれば誰でも……」
「そ、そうですか……」
そう説明すると、ハルさんはまたもや考え込んだ。
ひょ、ひょっとして興味持ってくれてる!?
…………………………よ、よし!
「あ、あの、ハルさん!」
「……え? あ、はい、なんでしょう?」
「その、俺達の学校の文化祭、よ、よかったら、来てくれませんか?」
俺がそうお願いすると、ハルさんの顔がパアア、と明るくなった。
「い、いいんですか?」
「いいもなにも、ハ、ハルさんにぜひとも来てほしいなあ……って」
ヤベ、超恥ずかしい。
「ぜ、ぜひ! ぜひお伺いします!」
ハルさんは喜びのあまり身を乗り出して、俺の目と鼻の先まで顔を近づけた!?
あ……ハルさんの息が……。
ヤバイ……心臓がドキドキする……。
「ウオッホン」
「は!?」
「あわわ!?」
俺達の様子を見ていた店長が、ニヤニヤしながら咳払いをした。
「あなた達、まだ仕事中よ? イチャイチャするのは仕事が終わってからになさい?」
「え、あ、や、別にイチャイチャしてたわけじゃ……」
「あ、あわわわわわわわ! わ、私、テーブル拭いてきます!」
ハルさんは真っ赤な顔を両手で押さえ、慌ててテーブルまで走っていった。
だけど、あ、あれはヤバかった……。
店長が止めてくれなかったら俺、思わずハルさんに抱きついちゃってたかも……。
◇
■坂崎環奈視点
「はあ……まだ終わらないなあ……」
私は生徒会室で一人溜息を吐き、チラリ、と時計を見ると、針は夜八時を過ぎていた。
「うーん、やっぱり睦月ちゃんを帰しちゃったのは……って、何言ってんの。私がするって言ったんだから、最後までがんばらないと」
私はよし! と気合を入れ直し、目の前のパソコンに向かう。
何とか今日中に文化祭のプログラムとシナリオの素案、出店の区画の割り当て表だけでも作っちゃわないと。
……そういえば、うちのクラス、出し物が執事喫茶になって良かった。
そうじゃないと、女子全員に根回しした意味がなくなっちゃうもん。
まあ、女子達は杉山くんをダシにしたら全員乗ってくれたけど。
だけど、なんでうちのクラスの女子は、杉山くんなんかがいいんだろう?
ま、いいか。
私はまーくんの執事姿が拝めれば、それでいいのだ。
「そして文化祭の自由時間をまーくんと一緒に回って、そしてそしてあわよくば……えへへ」
そう! 私はこの文化祭で、まーくんとの距離を一気に縮めるのだ!
ハルさんよりも……あの子よりも……!
そのためにもこの文化祭を成功させないと!
ようし! やる気が出てきた!
さあ、もう少し……!
——ガララ。
突然、生徒会室の扉が開き、私は慌てて振り返る。
「はあ……やっぱり……」
「まーくん!?」
入って来たのは、頭を掻きながらコンビニ袋を持つまーくんだった。
「ど、どうしてここに!?」
「どうしてって……バカヤロウ」
「あいた!」
私はまーくんにチョップされ、思わず頭を押さえる。
「バイト始めるときに言っただろ。絶対に無理はするな、俺を頼れって」
「あ、う、うん……」
「全く……で、残ってる仕事はなんだ?」
「は、え?」
「お前が今日する予定の仕事だよ」
「あ、え、ええと……プログラムとシナリオの素案と、あと出店の区画の割り当て表を……」
「バカヤロウ」
「あいた! ま、また!」
またチョップされてしまった……。
「ああもう、何でお前はいつも一人でがんばろうとするんだよ。プログラムってこの前佐山が泣きついてたやつじゃねえか」
「あう……」
「いいからそれよこせ」
「……へ?」
「だから、俺がやるって言ってんの」
そう言うと、まーくんは机にある別のパソコンを立ち上げる。
「ほれほれ」
「あ、う、うん……」
私は手で催促するまーくんに、プログラムの資料を渡した。
「よっし、やるか!」
まーくんは気合を入れると、パソコンに向かって軽快にキーを打ち込んでいく。
まーくんはいつもそうだ。
私が困っているといつもひょっこり現れて、いつも私を助けてくれる、私のヒーロー。
私のことを一番分かってくれて、理解してくれて……。
私は思わず涙が出そうになるけど、ぐっと堪える。
だって、たとえうれし涙でも、私が泣いちゃったらまーくんは絶対心配しちゃうから。
だから、私はまーくんにバレないように、パソコンのモニターの裏に隠れながら作業を続けた。
◇
「いやー、すっかり遅くなっちまったな」
まーくんがウーン、と言いながら伸びをした。
既に時刻は夜九時を過ぎている。
もし私一人だったら、絶対に今日中に終わらせることができなかったはずだ。
「んじゃ、とっとと帰ろうぜ」
「うん!」
私とまーくんは帰り支度をすると、生徒会室を出て鍵を掛けた。
「じゃあ私は用務員室に鍵を返しに……」
「じゃ、一緒に行こうぜ」
「え、悪いしいいよ」
「何言ってんだ。一人で待ってても退屈なんだよ」
そんなことを言って、少しおどけながらついて来るまーくん。
「……………………まーくん大好き(ボソッ)」
「ん? 何か言ったか?」
「えへへー、別に!」
「?」
今はまだ言えないけど、いつかまーくんが前を向けるようになったら、その時は今の言葉をまーくんに伝えるんだ。
私はそう心に誓って、大好きなまーくんとの帰り道を楽しんだ。
お読みいただき、ありがとうございました!
次話は明日の朝投稿予定です!
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