第24話 青山晴④
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■青山晴視点
「あ、あの」
環奈さんがステラでアルバイトを始めてから三日目の、もうすぐ営業時間も終わりを迎える、その時。
私は意を決し、ショーケースの中を清掃している彼女に声をかけた。
「? どうしました?」
「え、ええと、その……今日のアルバイトが終わったら、少しお話したいなって……」
な、何とか言えました!
「……それって、なんの話ですか?」
環奈さんは私を訝し気に見つめながらそう尋ねる。
それは怪しいと思いますよね。
「あ、え、ええと……せっかく一緒に働くことになったので、その、環奈さんのことよく知りたいな、って思いまして……」
そうです。
先日の朝の出来事についても改めてお礼も言いたかったですし、何より……何より、正宗くんのことについて、お話ししたかったから。
「ああ、そうですねー。確かに、私もハルさんのこともっと知りたいかも」
「で、でしたら」
「はい、いいですよ」
「! あ、ありがとうございます!」
良かった……断られたらどうしようかと思いました……。
「それに」
彼女は床の清掃をしている正宗くんをチラリ、と見ると。
「まーくんのことで、ハルさんとちゃんと話がしたかったですから」
「っ!」
そう言うと、環奈さんは引き続きショーケースの清掃に戻った。
やっぱり、環奈さんも……。
私は無意識にキュ、と拳を握り、環奈さんと正宗くんを交互に見つめた。
◇
「「「お疲れ様でしたー」」」
「ハーイ。あなた達、気をつけて帰るのよ?」
「「「ハイ」」」
私達は店長と別れ、帰路につくんですが……。
「正宗くんすいません、今日はこの後別件がありますので、ここで失礼しますね」
「え? そうなんすか……」
私がそう言うと、正宗くんが少し寂しそうな表情を浮かべる。
そんな顔をされてしまうと、私の胸がチクリ、と痛む。
「あ、私もちょっと寄るところあるから」
「環奈も!?」
「何よー」
「あ、いや……」
環奈さんも一緒に帰らないことが分かると、正宗くんの表情がますます暗くなる。
正宗くんの気持ちは、どうなんでしょうか……。
聞きたい……だけど、聞けない。
「じゃ、じゃあ俺、帰るから」
「はい、お疲れ様でした」
「お疲れ様!」
一人寂しく帰る正宗くんの背中を見送り、そして、その姿が見えなくなる。
「……それじゃ、行きましょうか」
「うん。どこに行きます?」
「そうですね……手軽に、そこのハンバーガー屋さんにしましょうか」
「いいですよ、行きましょう」
私達はステラの道向かいにあるハンバーガー屋さんに入ると、私はドリンクだけ注文した。
「あれ? ハルさんは食べないんですか?」
環奈さんはハンバーガーのセットにしたらしく、トレイにはハンバーガー、ドリンク、ポテト、そして、あれはアップルパイですね。
「え、ええ。家に作り置きしてありますから」
「ふーん」
興味を失ったのか、環奈さんはキョロキョロと空いているテーブルを探す。
「あ、あそこ空いてますよ!」
そう言うと、私と環奈さんは少し早足で向かって席を取った。
「えへへー」
環奈さんは嬉しそうに早速ハンバーガーの包みを開けると、大きく口を開けてかぶりついた。
その仕草や表情を見ていると、ものすごく可愛い……。
わ、私もあんな風にしたら、環奈さんみたいに可愛く……って、ムリかな……。
「それでハルさん、お話し」
「あ、そ、そうでしたね」
つい環奈さんを魅入ってしまって、肝心の用件を忘れてしまっていた。
「その、あ、ありがとうございました!」
「へ? な、なにが!?」
「一昨日の朝、環奈さんが言ってくださったおかげで、あれから学生さん達からあからさまに見られることもなくなりまして……」
「あ、ああ……あれは私がムカついただけなので、お礼なんて別に……そ、それに、相変わらず一部はまだ残ってますし」
「それでも、私は嬉しかったです。本当に、ありがとうございました」
「も、もう! やめてくださいよ!」
私がもう一度お辞儀をすると、環奈さんは照れているのか、手をバタバタさせている。
か、可愛い……。
「もう……じゃ、じゃあ次は私の番!」
「は、はい」
「単刀直入に言いますね。ハルさんはまーくんのこと、好きですよね?」
環奈さんはまっすぐで、そして、揺るぎない瞳で私を見つめる。
私は……私の答えは決まっている。
「……はい、私は正宗くんが好きです」
「……そっか」
すると、環奈さんは椅子にもたれかかり、ふう、と息を吐いた。
だけどそれは一瞬で、すぐにその身体を前のめりにさせると。
「ハルさん」
「はい」
「私は絶対にまーくんは譲らない」
環奈さんはその瞳に強い意志をこめ、私に宣言した。
だから。
「私も、正宗くんは……正宗くんだけは譲りません」
私は環奈さんの瞳から目を逸らさず、ただ見つめ返す。
彼女の想いに負けないために、私の想いの強さを示すために
「……うん。じゃあ私達はライバルだね」
「ええ。負けませんよ?」
「私だって!」
「………ぷ」
「………ぷぷ」
「「あはははは!」」
私達は堪え切れず、店の中だというのに大声で笑ってしまった。
環奈さん、私、負けませんからね!
お読みいただき、ありがとうございました!
今回の話で一つ目の区切りとなります!
明日からは、次の章として文化祭編をお送りします!
次話は明日の朝投稿予定です!
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