第23話
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「さあさ、それじゃあなた達、今日はもう終わりにしましょ!」
「「「はい」」」
店長の号令に、俺達は元気よく返事する
さて、それじゃ後片づけを……って、誰かが俺の袖を引っ張ってる?
振り向くと、引っ張っていたのはハルさんだった。
「そ、その、正宗くん……」
なぜかハルさんは恥ずかしそうに、上目遣いで俺を見る。
「な、なんですか……?」
「その……さっきの……」
さっきの……って、なんだっけ?
「ええと?」
「あ、頭……」
「頭? ……ああ、さっき環奈に撫でてやったやつですか?」
そう言うと、ハルさんは恥ずかしそうに無言で頷いた。
「それがどうかしました?」
「わ、私もその……がんばったので、な、撫でてほしい……です」
……………………グハ!
何このカワイイ女性は!
「ハ、ハルさんさえよければ、その、もちろん」
「! じゃ、じゃあお願いします!」
ハルさんはパアア、と満面の笑みを浮かべて身体を乗り出すと、両手組みしながら俺の傍にきた。
うう、は、恥ずかしいな……。
俺はハルさんが求めるまま、彼女の頭を撫でた。
「はう……ん……」
ハルさん、そういう声出すの、理性が保てないのでやめてくれませんか?
すると。
「…………………………」
環奈が殺気の篭った目で俺達を眺めていた。
こ、怖えよ……。
すると、環奈はふう、と溜息を吐いた。
「……私だけじゃ、フェアじゃないもんね……」
そう呟いて、環奈はくるり、と顔を背けた。
◇
俺とハルさんは交互に更衣室を利用して着替えると、店の通用口から出る。
「さあさあみんな、それじゃ、今日もお疲れ様! カンナちゃんは明日からよろしくね!」
「「お疲れ様でした」」
「よろしくお願いします!」
そして俺達は帰路につくんだけど。
「じゃあ先に環奈を送ってから、ハルさんを送ってくってことでいいで……「ダメ!」」
俺の提案に、環奈がすかさず反対する。
「そ、そうか? じゃ、先にハルさんを……「ダメです」」
こ、今度はハルさんが反対か……。
「ええと、やはりお家が近い環奈さんを先にお送りするべきじゃないでしょうか」
「えー、私の家とまーくんの家は近所だから、先にハルさんをお送りしますよ」
「うふふ、それだと環奈さんは余計に歩くことになりますから悪いですよ」
「大丈夫です! 一番家が遠いハルさんこそ先に帰ったほうが」
「いえいえ」
「いやいや」
……何このやり取り。
完全に俺は蚊帳の外だし、二人はニコニコしながら妙なプレッシャーを出してるし。
「よし、ここは俺が……「「まーくん(正宗くん)は黙ってて(ください)」」……はい」
や、早く決めてくれないと、姉ちゃんが心配するんだけど!?
……けど、俺に言う勇気はない。
結局、ハルさんを送ってから環奈を送り届けることになるんだけど、決まるまでに二十分近くかかった……。
◇
「まーくん、おはよ!」
「おう。じゃ、行くか」
「うん!」
今日も家まで迎えに来た環奈と一緒に学校へと向かうと。
……おうおう、今日も知らない奴等が出待ちしてやがる。
その見慣れた光景に、ついイラっとするのは仕方ない……って言っちゃいけないな。
俺だって、ハルさんのこと男だって勘違いして睨んでたんだから。
そしたらハルさんに勘違いされたけど。
すると、周りから黄色い歓声が上がる。
見ると、向こうからハルさんが歩いて来てるのが見えた。
ああもう、コイツ等……!
耳障りな声を聞いてイライラしている、その時。
「うっさいなあ!」
環奈が突然大声で叫び、それまで騒いでいた連中がシーン、となる。
「アンタ達が勝手に想像して楽しんでるところ悪いけど、ハルさんは女だからね!」
大声でそう言うと、環奈はフン、と鼻息荒く出待ちの女子生徒達を睨みつけた。
すると、さすがは生徒会副会長で学年でも一、二を争う美人の環奈だ。
女子生徒達は一瞬環奈を睨んだが、相手が悪いと思ったのか、バツが悪そうにぞろぞろと退散していった。
「ス、スゲエ……」
「ホラ、行こ?」
その光景を目の当たりにして改めて環奈の影響力に戦慄していると、その環奈は覗き込むように俺を見ながら腕を引っ張った。
「正宗くん、環奈さん、おはようございます!」
「ハルさん、おはようございます!」
「おはようございます」
お、今日はいつもみたいにハルさんと環奈のバトルはなさそうだ。
「その……環奈さんの声、聞こえてました……ありがとうございます」
「ち、違いますから! ただ、あの女の子達が通学の邪魔で、その、副会長として私は!」
環奈さんや、君はいつからツンデレさんになったのですかな?
「うふふ……それでも、ありがとうございます」
「あうう……」
ホレ見ろ。慣れないことするからだ。
「あ、そうでした」
ハルさんは思い出したかの余に、ヒューズボックスの中から何かを取り出す。
「はい、どうぞ」
「え、これって……」
「はい、一昨日RINEで言ってましたお弁当です。その、正宗くんのお口に合うかどうか……」
「あ、ありがとうございます!」
うおおおおおおおお!
ハルさんが俺のためにお弁当を! ヤバイ! 嬉しい!
「ちょ、ちょっと! まーくんのお弁当は私が……!」
「え? それは環奈の弁当だろ?」
「え、あ、あうう……」
? 環奈の奴、何なんだ一体……ま、いいか。
「それじゃ二人とも、行ってらっしゃい」
「ハルさんも、行ってらっしゃい」
「……行ってらっしゃい」
だから、素直じゃないなあ。
でも。
環奈のためにバイトを受け入れてくれたハルさんと、ハルさんのために女子生徒達に啖呵を切った環奈、そんな二人の気持ちが、優しさが嬉しくて、俺は胸のすくような心地になっていた。
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次話は今日の夜投稿予定です!
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