第22話
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「お、もうこんな時間か」
俺は店の時計をチラリ、と見ると、十九時を少し過ぎたところだった。
ハルさんもあれからすぐに戻って来て、昨日と同じようにテキパキと仕事をこなしていたんだけど……ハルさんの様子がいつもどおり過ぎて、それはそれで何だか寂しいものを感じた。
ええと、とりあえず残ってるお客さんは……うん、見事に環奈だけだな。
「あらあ、お客さんカンナちゃんだけなの?」
「うおっ!? て、店長、驚かさないでくださいよ……」
俺の背後からヌッと現れ、ジョリジョリした顎をさする。
「ウーン、せっかく来てくれたんだし……ネエネエ、カンナちゃん!」
店長は環奈を大声で呼ぶと、環奈はビクッとなってキョロキョロと周りを確認した後、キョトンとした表情で自分を指差す。
「ちょっとコッチいらっしゃい!」
環奈は訳が分からないといった様子で、おずおずとショーケース前にやって来た。
「ウフフ、今日は来てくれてアリガト! お礼に、今ショーケースに残ってるケーキ、好きなのアゲルわよ!」
「え! ホントですか!」
店長の言葉を聞いた途端、環奈は瞳をキラキラさせて店長を見つめた。
「ええ、モチロン! じゃあどれが……」
「あ、そ、その前に店長さん……店長さんにお願いしたいことがあるんです」
「ワタシに?」
「は、はい!」
ん? 環奈の奴、店長にお願いってなんだ?
俺は何となくハルさんのほうを見る。
すると、ハルさんはなぜか、不安というか、焦ってるというか、ハラハラしてるというか、そんな表情を浮かべていた。ナンデ?
「ええと、何かしら?」
「はい……その、わ、私をこのお店で働かせてくださいっ!」
「ハ、ハアアアアア!?」
お、おい!? 環奈の奴、今、ステラで働かせてくれって言ったよな!?
「あらあ? それはどうして?」
「あ、はい……も、元々バイトしたいな、とは前々から思っていて、できれば働いてて楽しくなれるようなところがいいなって……」
そう言うと、環奈はチラリ、と俺を見た。ナンデ?
「ウーン、そうねえ……」
相変わらず店長はジョリジョリした顎をさすりながら考えるんだけど……一瞬チラッとこっち見たの、ナンデ?
「お願いします! 一生懸命働きますから!」
環奈は勢いよく頭を下げる。
「うん! そうね! じゃあ……「ちょっと待って下さい」」
俺は店長が結論を言おうとしたのを遮る。
「おい環奈、お前、生徒会はどうするんだよ」
「え、そ、それは……ホ、ホラ! 基本的に生徒会は本当に必要な時だけ集まればいいし、生徒会の仕事だってバイトが終わってから……」
「駄目だ」
俺は環奈にピシャリ、と言った。
「ど、どうして!? どうしてまーくんがそういうこと……!」
「どうしてって? 決まってるだろ、無茶だからだよ」
そりゃそうだろ。
副会長の環奈が、生徒会の仕事量が少ないはずがない。
しかも、秋は文化祭と生徒会長選も控えていて、学校イベは目白押し。
オマケにサボリ魔の佐山のせいで、今でもかなりキツイはずだ。
それだけじゃない。
いつも学年トップの成績をキープしてるのだって、単純に頭が良いってだけじゃない。
夜中にコンビニに行った時、アイツの家の前を通ったらアイツの部屋は明かりがついていた。
それも一度や二度じゃない。
「……そんないつも全力でがんばってるお前が、これ以上バイトまでしちまったら、本当に身体が壊れちまう。だから、今回は諦めろ」
「まーくん……だ、だけど……だけどお……!」
すると、環奈はぽろぽろと泣き出してしまった。
くそ……!
「ウーン、正宗クンがこう言っちゃってるし、今回は……「待ってください」」
すると、今まで黙って見ていたハルさんが、ここで店長の言葉を止めた。
「アルバイト、採用してみてもいいんじゃないでしょうか」
「ハ、ハルさん!?」
ハルさんがそんなことを提案するだなんて、予想外だった。
や、だって、ハルさんと環奈ってお互い仲悪そうだし、むしろ俺と一緒で断る側だと思ってたのに……。
「あらハルちゃん、それはどうして?」
「はい。アルバイトに関しては、生徒会の仕事が忙しい時は休んでもらうようにして、不定期のシフトでもいいのではないかと。アルバイト自体も、私と正宗くんがいますから、環奈さんをフォローできると思いますし。それに」
すると、ハルさんは環奈をチラリ、と見た。
「……それに、条件はフェアでありたいと思いますから」
「っ!」
ハルさんのその言葉に、環奈が息を飲んだ。
「アラアラ……ハルちゃんたら、お人好しというか何というか」
そして店長は相変わらずジョリジョリと顎をさすりながら、ニコニコしながらハルさんと環奈を交互に眺めていた。
「そ、それで正宗くん……私はそう思いますが、君は……」
何だよ……ここで俺だけ反対し続けたら、それこそ悪者じゃんね。
「ハア……分かったよ。環奈、一つだけ約束しろ。絶対に無理、無茶はしない。いいな」
「っ! う、うん!」
「それと……生徒会の仕事、今度から俺も手伝う」
「え、そんな! いいよ!」
「駄目だ。約束一つって言ったけど、やっぱり追加な。これで受けなきゃバイトは無しだ」
「う、うん……ゴメン……」
環奈が泣きはらした顔で申し訳なさそうに俯く。
「ハア……ホントにしょうがねえ……」
「わ!?」
「全く……ここはゴメンじゃなくて“ありがとう”、だろ?」
俺は環奈の頭を少し手荒に撫でながらそう言ってやると、環奈が突然のことに驚くが、すぐに元の表情に……いや、なんで口元が緩んでんだ?
「う、うん……その、ありがとうございます!」
そう言って、今度こそ環奈は笑顔でみんなに頭を下げた。
「あらあ、それじゃ明日からよろしくね?」
「よろしくお願いしますね」
ふう……とりあえず、環奈は明日からバイトに入ることになったものの、ひょっとして俺、自分の首絞めてない?
……ま、いいか。
だって。
「はい! よろしくお願いします!」
環奈の奴、あんなに嬉しそうなんだから。
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次話は明日の朝投稿予定です!
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