第2話
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※第1話~第4話は短編とほぼ同じです。既に読まれている場合は第5話からどうぞ!
あの朝の出来事が頭から離れず、今週の俺は魂が抜けたようにずっとボーッとしていた。
休日になって、とりあえず少し気合を入れるために街に繰り出すことにした俺は、行きつけのゲーセンでリズムゲーをするんだけど……。
「ダメだ……いつもだったらパーフェクトなのに、こんなにミスるなんて……」
俺は、アイドルの女の子達の歌や踊りに合わせてボタンを押すリズムゲーの筐体の前で、がっくりとうなだれた。
「くそう……これじゃ、プロデューサーとして失格だ……今日はもう帰ろう……」
肩を落としながらゲーセンを出た俺は、駅に向かってトボトボと歩いていると。
「あれ……?」
そこには、ショップのウインドウを眺めているあの大学生の姿があった。
だけど、大学生が眺めているウインドウって……。
そっと大学生の後ろから覗くと、そのウインドウには、カワイイ系の服が飾ってあった。
「……………………って、ええっ!?」
「わわっ!?」
俺が後ろにいたことに気づいた大学生は、驚きのあまり思わずウインドウにしがみついた。
俺も、大学生がここまでリアクションするとは思っておらず、つい俺も仰け反ってしまった。
「あ……君は……」
「そ、その……ども」
俺に気づいた大学生に、俺は気まずいながらも軽く会釈した。
「え、ええと……お買い物、ですか……?」
って、俺は何を聞いてるんだよおおおお!?
男の人にそんなこと聞いたら、ぶん殴られちまうぞ!?
「え、えと、あはは……私にこんな可愛い服、似合わない、ですよね……」
そう言うと、大学生は苦笑いした。
「え、えと……」
オイオイ、その言葉を受けて俺にどう答えろと!?
と、とりあえず……。
「そ、そんなことないと思うっすよ……」
オイオイオイ! 何言ってんの俺!?
「え……ホ、ホントですか?」
アレ? この大学生……嬉しそうだぞ!?
ひょっとして女装癖が……!?
「え、ええ……」
「あ、ありがとうございます!」
「わわ!?」
すると大学生は俺の手をつかみ、嬉しそうにはにかみながらお礼を言った。
え!? え!? コレってどういう状況!?
「って、ご、ごめんなさい! 私ったらつい嬉しくなっちゃって……」
「あ、ああ……いえ……」
だけど、この一連のやり取りで俺は気づいた。気づいてしまった。
この大学生……女の人だった……。
だって、俺の手を握った時の手の感触、すごくスベスベして柔らかかったし、それに近づいた時、すごく良い匂いしたし、間違いないね。
だとしたら、これまでの俺の行動って……あああああ! こんなの黒歴史にもほどがあるぞ! どうすんだよコレ!?
「あ、あの……」
「ハ、ハイッ!?」
ヤ、ヤバイ……ひょっとして、いつも嫉妬で睨んでたこと、怒ってるんじゃ……!?
「その、も、もしよかったら、少しお話……しませんか?」
「…………………………へ?」
彼女の提案に、俺は思わずマヌケな声を出してしまった。
「あ、い、いえ、その……前から一度、お話ししてみたいな、なんて思ってたんです……」
「あ、あああああ、い、いや、そ、それはもちろん、はい……」
って、どんな返事だよ!?
いいのかダメなのか、よく分かんねえじゃねーか!?
「……………………っぷ」
「?」
「ふふふ! 君って、すごくおもしろいんですね!」
「え、ええ!? そ、そうですか!?」
なぜか笑われてしまった……。
や、確かに挙動不審なところとかあったかもだけど、そんなおもしろいことはした覚えが……。
「あ、それで、あそこのカフェでお茶でも……どうですか?」
「ははは、はいっ! ぜひ!」
ということで、思いもかけず大学生のお姉さんとお茶をすることになってしまった。
◇
「へえ、正宗くんってお名前なんですね」
「え、ええ……あ、戦国武将じゃなくて、刀の正宗ですから」
「ふふ、はい、分かりました」
気がつけば、俺は大学生のお姉さん……“青山晴”さんとカフェでお茶しながら楽しく会話していた。
や、だってイメージが全然違うんだもん……って、最初のイメージがイケメン大学生だったから違って当然なんだけどね。
それより、青山さんは実はかなりいい人だった。
見た目が中性的なイケメンで、長身スレンダー体型なもんだから勘違いしちゃってたけど、おしとやかでしぐさなんかも女性的で、言葉遣いも丁寧で……まさに大和撫子なお姉さんタイプだった。
それに、女性と分かった上で改めて青山さんの顔を見ると……その、すごく綺麗なんだけど……。
とと、とりあえず会話しなきゃ。
「だ、だけど、どうして俺なんかをカフェに誘ったんですか?」
俺はアイスラテを飲みながら、なんとなくそんなことを尋ねてみる。
「あ、え、ええと……ほら、毎朝大学に通う途中で、君が可愛い女の子とすれ違う時に、いつも私のこと見ていたから……」
「っ!? ゲホゲホッ!?」
「だ、大丈夫ですか!?」
あああああ!? 気づかれてた!?
ヤ、ヤバイぞ!? まさかイケメンに嫉妬して睨んでただなんてとても言えない……!
「本当に大丈夫……?」
いつの間にか青山さんは俺の隣に来て、優しく背中をさすってくれていた。
そして、俺の顔を心配そうに見つめる。
ヤバイ……別の意味でヤバイ……。
や、だって、こんな綺麗な女性がこんな至近距離で俺のこと心配してくれてるんだぞ!?
誰だよこんな素敵な女性をイケメンだなんて失礼なこと言ったの! ……あ、俺だ。
「だだ、大丈夫です!」
「ホントですか?」
「は、はい!」
「だったらいいですど……」
そう言って、青山さんは自分の席に戻った。チョット名残惜しい。
「そ、そうだ。私も正宗くんに聞きたかったことがあったんです」
「? 聞きたいこと?」
ま、まさか、何で睨んでいたか問い質す気なんじゃ……!?
ヤバイ、オワタ……。
「あ、あの、いつも一緒にいる女の子、正宗くんの彼女さんですか?」
「へ?」
死刑宣告を待つ犯罪者の気分で待っていた俺は、意外な質問に少し拍子抜けした。
「あ、い、いえ、べ、別に答えていただかなくても……」
「ああ、アイツは“坂崎環奈”と言って、幼稚園の頃からのただの幼馴染なんです。だから、別に彼女とかじゃないですよ」
まあアイツはカワイイし性格も良いから、学校でもかなり人気があるのは間違いないけど。
なのに不思議と、今まで恋愛感情を抱いたことはないんだよなあ。
むしろ、どっちかっていうと同志っていうのが一番近いかも。
「そ、そうなんだ……」
すると、青山さんはあからさまにホッとした様子を見せた。何で?
その時。
「アレ? ひょっとして青山さん?」
すると、ガタイのいい少しイケメンの男を連れた清楚な感じの、美人と呼んでもおかしくない女性が、青山さんに声を掛けてきた。
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