第18話
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「……それで、ステラでバイトをねえ……」
昼休み、今日も環奈に捕まった俺は中庭へと連行され、弁当を交換しながら昨日の経緯を詳細に説明させられた。
「だけど、朝も言ったけど別にステラじゃなくたって……」
「いや、あれ以上のバイト先はない」
だって、ハルさんいるもん。
「へえー、あの大学生のお姉さんがいるもんねー。まーくんのエッチ!」
「なんでだよ!?」
全く、俺とハルさんは健全な清い関係だっつーの。
「そ、それで、今日もバイト、行くの……?」
「今日もっつーか、今日が初日なんだけどね。昨日はただの成り行きだし。といっても、昨日の分もバイト代出るけど」
「ふうん……」
すると、環奈は口元を押さえて何やらブツブツ言いだした。
こういう時の環奈は、絶対にろくな事を考えていない。
「言っとくけど、俺がバイト行くの邪魔しようとか、そんなことするなよ」
「え!? し、しないよ、何言ってるの!?」
「怪しい……」
絶対邪魔するつもりだったな……。
これは対策を練っておいた方がよさそうだ。
「とにかく、俺はステラにバイトに行く! 以上!」
「……好きにすればいいじゃん」
環奈は観念したのか、唇を尖らせながらそう呟いた。
く、くそう、そんな態度は反則だろ……。
だ、だが俺は絆されんぞ! 俺はバイトに行く! ぜ、絶対にな!
「そ、そういうことだから、早く昼メシ食っちまおうぜ!」
「う、うん……」
結局気まずい雰囲気のまま、俺と環奈は昼メシを終えた。
◇
——キーンコーン。
放課後になり、俺はそそくさと帰り支度をする。
と、とりあえず環奈に見つかる前に帰らないと……!
昼休みの様子からすると、邪魔したりってのはないと思うんだけど、その、あの寂しそうな顔されちまうと、俺の心がもたん。
という訳で、俺は静かに教室を立ち去ろうとして。
「お、堀口! 帰りゲーセン行かね?」
佐々木のバカヤロウ! そんな大声で呼んだら環奈に気付かれちまうだろうが!
俺は佐々木にチョイチョイ、と手招きをする。
「お、なんだ?」
「(バカヤロウ)」
俺は小さくささやきながら、佐々木の頭にチョップを見舞ってやった。
「イテッ! 何す……」
「(だから静かにしろ! ……俺は今日はバイトがあるから、お前には付き合えん)」
「え、お前バイト始めたの?」
「だから声が大きいっつってんだろうが! あ、ヤベ」
佐々木のせいで俺まで声が大きくなっちまった。
「とにかく、そういうことだから、俺は帰る」
「お、おう。バイト代入ったらなんか奢れ」
「なんでだよ!」
ダメだ、これ以上相手してられん。
そ、それよりも環奈は……?
どうやら環奈はクラスメイトと話をしてるみたいで、今の佐々木とのやり取りには気づいてないみたいだな。
よ、よし、今のうちに……!
「デュフフ、堀口氏、今日は拙者と……グハッ!?」
近寄ってきた長岡を蹴飛ばし、俺はいそいそと教室を出た。
◇
「こんにちはー」
「アラ! 正宗クン、今日からヨロシクネ!」
「はい!」
ステラに着いた俺は、早速店長に挨拶をすると、更衣室へと向かう。
そういえば、ホールにハルさんの姿が見えなかったな……。
ま、今日もバイトに来るって言ってたし、大学の授業でも長引いてちょっと遅れてるだけだろう。
そんなことを考えながら、鼻歌交じりに更衣室のドアを開けて…………………………へ?
「あ……」
「え……」
そこには、下着姿で制服に着替えているハルさんがいた。
「あ、あわわわわわわわわ!?」
「すすすすすいません!」
俺は慌ててドアを閉めて、クルリ、と後ろを向いた。
ヤ、ヤバイぞ!? どど、どうすんだよコレ!?
絶対ハルさん怒ってるぞ!?
ま、まずは落ち着け正宗よ!
とりあえず、ハルさんが更衣室から出てきたら、速やかに土下座を敢行するんだ!
俺は胸に手を当て、死刑宣告を待つ被告人のような心境でその時を待つ。
……額から汗が一滴流れ落ちる。
——ガチャ。
「あ……」
ハルさんが顔を真っ赤にして更衣室から姿を現した!
今だ!
「ももも、申し訳ございませんでした————!」
「あわわわわわわわわ!?」
俺は即座にその場で土下座し、床に額をこすりつけた。
と、とにかくハルさんに誠意を見せて、何とか許してもらわねば!
「あ、そ、その、正宗くん!?」
「は、はい、このたびは誠に……誠に申し訳ございませんでした!」
くう、額を床につけてる俺には、ハルさんの様子が分からない……!
ど、どうだ? どうなんだ……!?
その時、ハルさんが俺に近づく気配を感じた。
「あの……正宗くん、顔を上げてください」
ハルさんはそっと俺の肩を抱き、身体を起こした。
「そ、その、わ、私が鍵を閉め忘れていたのがいけませんでしたので、き、気にしないでください……」
「あ、だ、だけど……」
「も、もういいですから……」
「は、はあ……」
これ以上押し問答したら逆に申し訳ないので、俺はハルさんに促されるまま立ち上がった。
「そ、それで……」
「は、はい」
「そ、その…………………………見ました、か?」
「っ!?」
うぐう!? こ、これはどう答えるのが正解なんだ!?
しょ、正直に言うか!?
だ、だけど、おしとやかなハルさんのことだ、それを知ったら卒倒するんじゃ……。
……いや、俺はハルさんに対して誠実でありたい。
「ハルさん……」
「は、はい……」
「そ、その……す」
「す……?」
「素晴らしかったっす……」
「あわわわわわわわわわわわ!?」
ハルさんは耳まで真っ赤にしながら、両手で顔を押さえてホールへと走り去ってしまった……。
「しまったあ!? ここは『見なかった』と嘘を吐くのが正解だったかあ!」
俺は思わずその場で膝をついた。
だけど。
「えへ、えへへ……」
俺は更衣室で見た、その下着姿と透き通るような白い素肌を思い浮かべ、心の中で歓喜の雄たけびをあげ続けた。
お読みいただき、ありがとうございました!
明日は日曜日なので、2話投稿します!
次話は本日の朝投稿予定です!
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