第17話
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「まーくん、おはよー!」
昨日に引き続き、今日も環奈が家まで迎えに来た。
「うい。ところで環奈、お前、これから毎日迎えに来る気か?」
「そだよ」
「そうか」
ま、いいか。
どうせ待ち合わせして一緒に登校するんだし。
「んじゃ、行こうぜ」
「うん!」
「姉ちゃん、行ってくる」
「うむ。二人とも気をつけてな」
俺達は家を出て、いつもの通学路を歩く。
「あ、そうだまーくん、昨日はケーキありがとう!」
「ん? ああ、また持ってってやるよ」
なにせ、俺も今日からステラでバイトすることになったしな。
「あ、え、えと、それでね? もし良かったら、昨日のケーキのお礼に……」
「正宗くん、おはようございます!」
環奈が何か言おうとしたところで、突然後ろからハルさんに声をかけられた。
アレ? いつもと違うパターンだぞ?
「あ、おはようございますハルさ……「ホラ、まーくん早く行こ!」」
待て環奈、まだ挨拶の途中だろ。
すると、腕を引いて先に進もうとする環奈の前を遮るように、ハルさんが立ち塞がった。
「ふふ……まだ私が正宗くんとお話の途中ですから」
「へー、でも私達も学校あるんで。ねー、まーくん?」
今日も環奈はその視線で異常なほどのプレッシャーをかけてくる。
「あれ? おかしいですね。ここからでしたら、あと十五分くらいは余裕があるはずですが?」
ハルさんが人差し指で顎を押さえながら、とぼけた様子で首を傾げる。
「あ、そ、そうだ! ホラ、私達朝の当番なんで! いつもより早く行かないと!」
「ですが、昨日も当番されてましたよね? それに、ここを通る時間、いつもと同じですよ?」
「うぐぐ……!」
おおう、ハルさんが環奈を論破していく。
「ですが、そんなにお急ぎでしたら、これ以上お引き留めしても悪いですね」
「そ、そうそう! じゃ……」
「ですので、ええと……お友達だけ先に行かれてはいかがでしょうか?」
「はあ!?」
ハルさんの煽るような言葉に、環奈のスイッチが入った。
ヤバイ……こうなると、絶対環奈は引き下がらないぞ!?
「……この際だからハッキリ言いますけど」
環奈の後ろから、ゴゴゴ、という効果音が聞こえそうなほどのプレッシャーがハルさんに押し寄せる。
だ、大丈夫かな!?
「まーくんと私は幼馴染なんです!」
「ええと、はい、知ってますが」
「それに! 同じ学校で同じクラスで、ずっと一緒なんです!」
「はあ……」
環奈はビシッと指差しながら煽るが、意味が分からないのか、ハルさんはキョトンとしている。
「つまり! 私のほうがまーくんと一緒にいる時間が長いんです! 今も! 昔も!」
環奈はドヤ! という顔でハルさんを睨む。
だけど、ここでハルさんはとんでもないカウンターを仕掛けた。
「まあ、そうですね……といっても、私も放課後は正宗くんと一緒ですが」
「はあ!?」
「あれ、幼馴染なのに聞いていませんか? 正宗くん、今日から駅前の『ステラ』というケーキ屋さんで私と一緒にアルバイトすることになったんです」
「はあああああああああああああ!?」
環奈が驚愕のあまり、大きく口を開けて大声で叫んだ。
や、俺も長い付き合いだけど、ここまで驚いた環奈を見たのは初めてだな。
などとのんびり構えていたら。
「チョット! まーくんどういうこと! 説明してよ!」
「あ、お、落ち着け!?」
環奈が俺の襟首をつかみガクガクと揺らす。
ヤ、ヤメテ……頭が揺れて気持ち悪い……!
「早く! なんで黙ってるの!?」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
吐きそうな気分を必死で耐えていると、ハルさんが見かねて環奈を止めにかかる。
「は!? なんですか! これは私とまーくんの問題……!」
「そ、その前に正宗くんが!」
「へ? ……あ」
俺のぐったり様子に気づいたのか、環奈が慌ててつかんだ手を放した。
「ゲホ……」
「ご、ごめん……」
さすがに悪いと思っているのか、環奈はシュン、とした表情で俺を心配そうに見つめているので、とりあえず俺は大丈夫だと、手でジェスチャーした。
「ほ、本当に大丈夫ですか……?」
心配してくれているのはハルさんも同様で、俺の顔を覗き込みながら背中をさすってくれた。
「……あ、あはは、大丈夫っす……」
「ですが……」
なおも心配そうに見つめる二人。
「ホ、ホラホラ! もうすっかり大丈夫だから、二人ともそんな顔しないでよ!」
これ以上心配かけるのも悪いと思った俺は、胸を張って無理やり大丈夫だとアピールした。
「う、うん……」
「はい……」
納得はしてないようだけど、とりあえず二人ともそれ以上は言わなかった。
「そ、それで、バイトの理由だけど、や、実はプロデューサー業で失敗して、かなり金欠になっちゃったんだよね。その時にちょっとしたきっかけがあって、ステラの店長にバイトに誘われて……ちょうどいいかなって……ってアレ?」
見ると二人はそれぞれ違う反応を示した。
「はあ……まーくん、またゲーセンで……」
「ま、正宗さん、プロデューサーさんなんですか!?」
環奈はすぐに理由を察したようで、溜息を吐きながら呆れた表情でかぶりを振る。
かたやハルさんは、なぜか“プロデューサー”という言葉に異様に反応しているし……しかも、瞳をキラキラさせてるから、絶対勘違いしてるだろ。
「とにかく! バイトだったら別にステラじゃなくてもいいじゃん! バイト先変更しようよ! た、例えばその、一緒に……(ゴニョゴニョ)」
んあ? 環奈の奴、最後なんて言ったんだ?
「や、俺はバイトを変えるつもりはないぞ。なんつっても、店長はオカマさんだけど悪い人じゃないし、それに条件もそれなりに良かったし」
何より、ハルさんと一緒に働けるしな。これが一番デカい。
「というわけで、すまんがステラでバイトを……あれ? 環奈……さん?」
「…………………………」
環奈は俯いて両拳を握り、身体をプルプルしている。
ヤバイ!? これは!?
「まーくんの……」
く、来る!
「まーくんのバカー!」
「ふげ!?」
思った通りやってきた環奈の右ストレートを俺は甘んじて受けると、環奈は学校に向かって走り去っていった。
「イチチ……」
「その、だ、大丈夫ですか?」
ハルさんが心配そうにおずおずと尋ねる。
「あ、はい大丈夫です。いつものことなんで」
うん、こんなのはよくあることだ。
とはいえ、高校に入ってからはめっきり少なくなったけど。
「仲、いいんですね……」
「はい?」
「あ、い、いえ……私もそろそろ時間ですので失礼します……」
「あ、はい」
そう言うと、少し寂しそうな表情を浮かべたハルさんは、駅に向かって早足で去って行った。
「……なんだか置いてけぼり感が半端ない……」
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次話は今日の夜投稿予定です!
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