第16話 青山晴③
ご覧いただき、ありがとうございます!
■青山晴視点
「ふう……」
アパートに帰り、ヒューズボックスを床に無造作に置くと、ポスン、と私はベッドに座った。
今日は色々なことがあったな……。
朝に正宗くんの制服の胸ポケットにRINEのIDを書いたメモを忍ばせたり、正宗くんからRINEを送ってもらったり、そして……ステラで一緒に働くことになったり。
「うふふ……!」
私は近くにあったクッションを抱きしめると、そのまま顔をうずめた。
明日から、正宗くんと一緒にアルバイトだ。
それを考えると、嬉しくて、嬉しくて、顔がほころんでしまう。
「はあ……正宗くん、今頃晩ご飯食べてるのかな……」
私は正宗くんの今を想像し、また口元を緩める。
「だけど、明日からステラで正宗くんとどう話せばいいのかな……き、緊張します……」
さっきまで浮かれていたのに、明日のことを想像したら、急に不安になってきた。
「あ、そうだ! 彼女に相談しましょう! 彼女でしたら、そういった恋愛なんかにも慣れてそうですし!」
そうと決まれば、私もご飯を済ませてしまわないと。
◇
『で、こんな夜にどうしたんだ?』
私は晩ご飯とお風呂を済ませた後、早速親友に電話した。
「あ、そ、その……前から相談してる、その、高校生の男の子のことで、また相談に乗って欲しいことがあって……」
『ん? それは構わないが……』
そう話すと、親友は少し戸惑った様子を見せた。
いつも凛としていて、自信に満ち溢れている彼女らしくない。
『その……私だって、恋愛経験があるわけでは、ないのだ……』
意外だった。
あれほど綺麗で、あれほど優秀で、大学でも男女ともに人望を集めている彼女が、まさか恋愛経験がないだなんて。
『あ、い、いや、けけ決して恋愛感情を持ち合わせたことがないわけではないぞ!? も、もちろん、好きな男性はいる……って、一体私は何を言っているのだ!?』
彼女と知り合ってから、こんなに狼狽える彼女は初めてだ。
「ふふ……」
そんな彼女の一面に触れて、私は思わずクスリ、と笑ってしまった。
『む、笑うのは失礼ではないか? 私とて、朴念仁というわけではないのだぞ?』
「あ、す、すいません。そんなつもりじゃないんですが……あなたという存在が近く感じられたものですから、少し嬉しくなっちゃいまして」
『むむう……そう言われてしまっては、怒るに怒れないではないか……』
スマホ越しに、苦笑する彼女の様子が感じられる。
っと、そうだった、肝心の相談を……。
「そ、それで、相談についてなんですけど……」
『あ、そ、そうだったな。それで、相談というのは?』
「は、はい……実は、私のアルバイト先にその男の子が入ってきまして……」
『へえ、良かったじゃないか』
「はい、それで、これからどう接したらいいのか分からなくて……」
そう。
元々引っ込み思案で人と話すのが苦手な私だ。
正宗くんは人当たりも良いし、優しいからすごく接しやすいんだけど、今度は正宗くんが素敵すぎて、どう話そうか迷ってしまう……。
制服に着替えてホールに戻って来た時も、私は思わず正宗くんに見惚れてしまったし……。
明日からもそんな正宗くんを間近で見続けることになるんです。私の心はもつのでしょうか……。
『ふう……聞かされている私からすれば、ただのノロケにしか聞こえないぞ』
「あ……そ、そういうわけでは……」
『まあいい。ただ、これから毎日接するんだ。そのうち慣れてくるんじゃないか?』
「そ、そのうちじゃダメなんです!」
『む?』
だって彼の隣には、いつも幼馴染の女の子がいる。
子どもの頃からの仲で、毎朝一緒に登校して、学校も一緒で……。
それだけでも、私は大きく出遅れてしまってるんです。
だから、私は一緒にアルバイトをするというこのきっかけを、最大限活かさないといけないんです!
『ふむ……話を聞く限りでは、その男子高校生はハルに気があるようにも思えるが……』
「そ、そうでしょうか……」
『ああ。だが、その幼馴染の女の子というのは確かに厄介だな。ハル、これは負けてはいられないぞ』
「は、はい」
『とりあえずは、寝る前にでもRINEでメッセージでも送ってみたらどうだ? そういった小さな積み重ねが、今後に大きく影響してくるはずだ』
そ、そうですね! せっかくRINE交換をしたんですから!
「や、やってみます!」
『うむ。じゃあ私も明日早いから、そろそろ切るぞ?』
「はい! その……いつもありがとうございます」
『なあに、親友のためだ。ではおやすみ』
「おやすみなさい」
私は通話オフのボタンをタップした。
「ふう……………………よし!」
気合を入れると、私は彼女のアドバイスの通りメッセージを打ち込む。
「ええと……『今日はお疲れさまでした。明日から一緒にアルバイト、がんばりましょうね! 制服姿、すごく素敵でした!』……」
こ、これだと、書き過ぎでしょうか……。
す、素直な気持ちとしては、これで間違いないんですが。
で、ですが彼女も小さな積み重ねが大事って言ってましたし、そ、それに、私の気持ちにも、気づいて欲しいし……。
「よ、よし!」
私は意を決し、送信ボタンをタップした。
……『制服姿、すごく素敵でした!』の部分は削除して。
「はあ……私の意気地なし……」
で、ですが、私にしてはまずまずじゃないでしょうか。
少し自分を褒めてあげましょう。
すると。
——チリン。
スマホの着信音が鳴り私は慌てて画面を確認する。
「あ……うふふ……」
『はい! 明日からよろしくお願いします!』
正宗くんからの返信に、思わず顔がほころぶ。
「はい、よろしくお願いします!」
正宗くんに聞こえるわけがないのに、私はスマホに向かって返事をする。
「うふふ……明日もがんばります! ……だけど、あの幼馴染さんは何とかしなきゃ……」
はい、正宗さんだけは譲れない……譲りたくない。
だから。
「私は絶対に負けません!」
お読みいただき、ありがとうございました!
3話構成のハルさんの話はいかがだったでしょうか?
今日もストック確保できたので、明日も2話投稿します!
次話は本日の朝投稿予定です!
少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、ブクマ、評価、感想をよろしくお願いします!