第15話 青山晴②
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■青山晴視点
「アレ? ひょっとして青山さん?」
「……どうも」
「なあんだ、青山さんもこのカフェ利用するんだー」
声を掛けてきたのは、男の人を連れた、同じゼミの斎藤さんだった。
彼女は私と違って、明るく社交的で、ゼミでも人気の女性だ。
だけど、私は彼女がどうしても苦手だった。
斎藤さんは正宗くんをジロジロと見た後、私を見ていやらしい表情を浮かべた。
「なるほどねえ……アレだ、大学じゃみんな、青山さんのこと男だって勘違いしちゃってるもんねえ? だから、高校生の男の子をつかまえたってわけだ」
「っ!? ち、違います!」
私は斎藤さんの心ない言葉に、声を荒げて全力で否定する。
「えー? だって、この前だってゼミで女の子からは逆ナンされて、男の子達からは舌打ちされてたじゃない? イケメン過ぎて」
「そうなの?」
「そうそう! で、結局ゼミでも仲間外れで、いつも一人でいるのよねー! カワイソウ」
「……………………」
悔しかった。
何も言い返せない自分に。
消し去りたかった。
正宗くんに知られてしまった本当の自分を。
だけど、私は俯き、唇を噛みながら、ただ黙って彼女の言葉を聞いているだけ。
「なんていうか、男に生まれてくれば良かったのにねー「はあ……ダセ」……って、ハア!?」
その時、正宗くんがポツリ、と呟く。
「チョット! アンタ何言って……」
「や、だから青山さんが自分より綺麗だからって、やっかんで絡んでくるのがダセエって言ったんすよ。それにここカフェなんで、他の客に迷惑っすよ? 常識ないんすか?」
ハッと顔を上げ、私の瞳に映る彼は、明らかに怒っていた。
私のために。私なんかのために。
「正宗くん……」
すると、彼女の隣にいた男の人が正宗くんに凄む。
「テメエ! チョットコッチ来いよ!」
「は? イヤに決まってるでしょ。なんで行かなきゃいけないんですか? バカっすか?」
正宗くんの言葉に怒った男の人は、正宗くんに飛び掛かり、そして、正宗くんの顔面を殴打した。
「きゃあああ!? ま、正宗くん!?」
殴られ、床に倒れる正宗くん。
そ、そんな……私なんかのために……!?
「だ、だれか!」
私はたまらずその場で叫ぶ。
「ね、ねえ!? ちょっとまずくない!?」
「お、おう……」
斎藤さんと男の人は、自分達のしたことに気づいたのか、しどろもどろになる。
「……なんで……なんで正宗くんを殴ったんですか! 正宗くんは悪くないのに! 正宗くんは私を庇ってくれただけなのに!」
私は今まで出したことがないほどの大声で、二人に向かって大声で叫んだ。
「今、警察呼びました!」
すると、カフェの店員さんが警察に通報してくれたらしく、間もなく到着するとのことだ。
「お、おい!」
「わ、私は悪くないから!」
そう言って二人が慌てて店を出ようとするけど、店員さんや他のお客さん達が入口を塞いでくれた。
それでようやく観念した二人は、近くにあった椅子にポスン、と力なく腰を下ろした。
そ、そんなことより正宗くんは!?
私は正宗くんの容態を確認すると、殴られて気を失っていた。
見る限り、大きな怪我とかはしてないみたいだけど……。
とにかく私は、正宗くんの頭が痛くならないように膝枕をして、正宗くんを見つめ続けていた。
◇
その後、正宗くんが無事目を覚ましたので、私達二人は警察に出頭し、そして。
「……チクショー、スゴイ長かった……」
「あ、お、お疲れ様です」
警察署の受付で待っていると、事情聴取が終わったようで正宗くんがようやく戻ってきた。
正宗くんの話では、あの二人は示談に持ち込もうとしたらしいけど、正宗くんは突っぱね、被害届を提出したそうだ。
正宗くんにあんなことをしたんだから、あの二人は罰を受けるべきだと私も思う。
その後、私達は警察署を出て、駅に向かって二人並んで歩く。
そして。
「その……ありがとうございました」
「へ?」
私が突然お礼を言うと、正宗くんはキョトンとした。
「正宗くんが斎藤さん……彼女の言葉を否定してくれて、怒ってくれて、う、嬉しかったです……」
「あ、あははは……」
正宗くんが照れ笑いする。
「わ、私、こんな見た目だから、男の人と間違われることが多くて、それに、あまり人と話すのも苦手で……」
ああ、私の口から言葉があふれ出る。
「だから、男の人に見られても否定できなくて、いつも我慢してたんです。だけど」
私は顔を上げ、正宗くんを見つめた。
「正宗くん……君が、私のことを見つけてくれた」
「俺……ですか……?」
正宗くんの問い掛けに、私は無言で頷く。
「いつも朝すれ違う時、女の子達は上気した顔で見つめて、男の子達は不機嫌そうに顔を背けてた。だけど、君だけは、私のことをじっと見つめてくれた」
そして私は、堰を切ったように正宗くんに言いたかったこと、伝えたかったことを言葉にする。
「それに今日も、私があんなカワイイ服を眺めていても、君は否定せず認めてくれた。それだけじゃない、カフェでのやり取りだって、私のために怒ってくれて……」
「……………………」
もう、私の想いは止まらなくなった。
そして。
「だから……だから、ありがとう」
私は、彼の頬にそっとキスをした。
「青山さん……」
「あ、そ、その……わ、私のことは“ハル”って呼んでくれると……嬉しい、です……」
この時、私は気づいた、気づいてしまった。
この素敵な男の子、堀口正宗くんを好きになってしまったことを。
◇
その次の平日の朝、正宗くんと出逢った時に私は彼の幼馴染の女の子……坂崎環奈さん、でしたっけ……彼女に見せつけるように彼の襟を直した後、私は彼女を見た。
正宗くんは譲らないと、意志表示をするために。
ほ、本当はこんなこと、普段の私なら絶対無理だけど、前の日の晩に親友に相談した時。
『本当に譲りたくないなら、それはちゃんと相手に示すべきだ。ハル自身が後悔しないためにも』
その言葉で、私は意を決したんだけど……うう、やっぱりこういうことは苦手だ……。
だけど、私はこれからは正宗くんに対して積極的になる、そう心に決めたんだ。
だから、正宗くん……これから、覚悟してくださいね?
お読みいただき、ありがとうございました!
ハルさん視点の話は3話構成となっておりますので、朝、昼、夜にそれぞれ投稿します!
次話は本日の夜投稿予定です!
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