第14話 青山晴①
ご覧いただき、ありがとうございます!
■青山晴視点
最初はただすれ違うだけの、他の子達と同じ、普通の男の子だった。
いつも朝の通学途中に、可愛い女の子と一緒に歩く彼を、特に気にも留めていなかった。
他の高校生達も、いつもと同じように女の子は私を男と勘違いして眺めていて、男の子は忌々しそうに顔を背ける。
こんな状態にももう慣れた。
だって、中学の時からずっとそうだったから。
中高一貫の女子高に通っていた私は、背が高いこともあって、よく周りの女の子達から、男の子の代用品みたいに扱われていた。
中には私に告白する女の子も結構いたりした。
だけど、私は別に女の子に対して恋愛感情を抱いたりもしないし、できれば好きになった男の子と素敵な恋愛をしてみたいと思う、どこにでもいる普通の女の子だ。
背が高くて、見た目が中性的な男の子に見えるっていうこと以外は。
それに元々、私は引っ込み思案の性格が災いして人付き合いが苦手で、そんな女の子達に面と向かって否定する勇気もなかったし、親しい友達もできなかった。
だから、私はただ黙ってその状況を、その扱いを受け入れた。
それは結局今も変わらず、大学でも浮いた存在だった。
たった一人だけできた、親友と呼べる女の子を除いて。
そして、そんな日々を送りながら、その日もいつものように大学に行くため、駅に向かって歩いていた。
その時。
毎朝すれ違う二人の高校生のうち、男の子のほうが私を見つめていた。
不思議だった。
普通、男の子達は私を見ると苦虫を噛み潰したように顔をしかめて顔を背けるか、すれ違いざまに舌打ちをされるか、そのどちらか。
なのに、彼の反応は違った。
ただジッと私の顔を見つめ続け、私がその視線に気づいて彼を見ると顔を逸らす。
この反応の意味は知っている。
恋愛小説でよくある……片想いをしている男の子が、好きな人を見つめるけど、見られると恥ずかしくてつい顔を逸らす、あの反応。
わ、私が……?
私は予想外の出来事に、思わず頭の中が真っ白になる。
けど、私はすぐに我に返ると、静かにかぶりを振った。
……まさか私に、そんな風に想ってくれる男の子なんて……。
浮つきそうになった心を落ち着かせ、私は駅へと足早に急いだ。
だけど、それからも彼は私のことを見つめ続けた。
毎朝、すれ違うたびに……。
こ、これって本当に……?
私は高鳴る胸を押さえ、親友に相談すると。
「ふむ……それはその男の子がハルのことを好きに違いない」
「え、ええ!? そ、その、どうしよう……!?」
私は想像しえない事態にオロオロする。
「落ち着け。そうだな……笑顔で手でも振ってあげたらどうだ?」
「ええ!? そ、そんなの……!」
「なあに、軽い気持ちでいい。本当にその男の子がハルのことを好きなら喜ぶだろうし、そうでないなら、他の男どもと同じ反応をするだろうしな」
私は親友の提案に俯いてしまう。
だって、前者だったら、そんなの初めての経験でどんな反応していいか分からないし、後者だったら、いつものこととはいえとても耐えられない……。
「ハル」
すると、親友は真剣な表情で私の名前を呼ぶ。
「ここでうじうじ悩んでいても仕方ないだろう。これはハルにとってチャンスだ」
「チャンス……?」
「そうだ、この出逢いをきっかけに、ハルという人間が一歩前に進むための、な」
そう言うと、親友は力強く頷いた。
私は。
「……うん、どうなるか分からないけど、明日の朝、実践してみます」
「その意気だ」
ニコリ、と微笑む親友に、私も決意を込めて強く頷き返した。
そして、次の日の朝。
私は、いつものように私を見つめる彼とすれ違う、その瞬間――
――私は彼に笑顔で手を振った。
「っ!?」
彼は息を飲むと、そのまま固まってしまった。
こ、これって、ドッチなの!?
そう思いながらも、彼に確認することもできないので、私はそのまま去った。
その答えを知るのが怖かったから……。
◇
結局、私はもやもやした気持ちのまま次の休日を迎えた。
今日はステラが棚卸しで臨時休業ということもあって、アルバイトも休みになったので、街に本を買いに出かけたけど。
「あ……」
私は駅前通りに面するショップのショーウインドウに飾られていた女の子らしい、可愛い服に釘付けになる。
だけど。
「ふふ……私には似合いませんよね……」
そんな自虐めいた言葉を呟きつつも、未練がましくもその服から目が離せず、私はなおも見つめ続ける。
その時。
「…………………………って、ええ!?」
ショーウインドウのガラスに、服と私を交互に見つめる男の子の姿が映っていた。
「わわっ!?」
男の子は驚いて仰け反る。
「あ……君は……」
「そ、その……ども」
よく見ると、それは例の男の子だった。
男の子は私に気づいていたらしく、私に軽く頭を下げる。
「え、ええと……お買い物、ですか……?」
あ、そうか、私がお店の前で眺めてたから……。
「え、えと、あはは……私にこんな可愛い服、似合わない、ですよね……」
私は思わず、彼にそんな余計なことを言ってしまった。
そんなの、彼に答えられるはずないのに。
「え、えと……」
ほら、彼も困ってる。
だけど……彼は意外な言葉をかけてくれた。
「そ、そんなことないと思うっすよ……」
嬉しかった。
そんなこと言ってくれるなんて思ってもいなかった。
「え……ホ、ホントですか?」
だから、聞き間違いじゃないかと思って、つい私は聞き返してしまう。
「え、ええ……」
聞き間違いじゃなかった!
彼は本当にそう言ってくれた!
「あ、ありがとうございます!」
私は嬉しくなってはしゃぐようにお礼を言った。
「って、ご、ごめんなさい! 私ったらつい嬉しくなっちゃって……」
「あ、ああ……いえ……」
ああ……やっちゃった……。
彼……引いたりしてないかな……?
だけど、私は嬉しくて、天にも昇る心地で……。
だから、今以上に彼のことが知りたくなって、私は彼にお話をしないかと、お誘いしてしまった。
すると。
「あ、あああああ、い、いや、そ、それはもちろん、はい……」
そんな彼の反応に、私はつい笑ってしまう。
「ふふふ! 君って、すごくおもしろいんですね!」
「え、ええ!? そ、そうですか!?」
ああ、何というか、その、可愛いなあ……。
「あ、それで、あそこのカフェでお茶でも……どうですか?」
「ははは、はいっ! ぜひ!」
そして私達はそのカフェに入った。
◇
彼……正宗くんとの会話は楽しかった。
彼はすごく面白くて、どんな他愛のない話でも私には全て新鮮だった。
それに、彼の言葉には、相手を気遣う優しさがあった。
私の反応だったりしぐさだったり、そんな様子を見ながら、相手の気持ちに沿って話してくれる。
おかげで私は彼のことがますます気になってしまった。
そんな会話の流れの中で、彼が私にカフェに誘った理由を尋ねてきた。
それは。
あなたが私のことを見つめていたから。
あなたのことが気になって仕方がないから。
あなたのこと、もっと知りたいから。
あなたは、どうして私を見つめていたんですか?
私のこと、どう思っていますか?
あなたの隣にいた女の子は誰ですか?
話したいこと、聞きたいことがぐるぐると頭の中を駆け巡る。
そして、この胸の感情も……。
だけど、あの時の私は感情が高ぶって考えがまとまらなくて、会話も支離滅裂で……。
だから彼も途中で飲んでいたアイスラテをむせてしまったり、すごく焦った表情をしたり。
はあ、本当に私は口下手だなあ……。
だけど、嬉しいことも聞けた。
彼の隣にいた女の子は、彼の恋人じゃなかった。
じゃあ……って、それこそあり得ませんよね。
私と彼じゃ、その、釣り合いませんから……。
その時。
「アレ? ひょっとして青山さん?」
大学で同じゼミに所属する斎藤さんが現れた。
お読みいただき、ありがとうございました!
ハルさん視点の話は3話構成となっておりますので、朝、昼、夜にそれぞれ投稿します!
次話は本日の昼頃投稿予定です!
少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、ブクマ、評価、感想をよろしくお願いします!