第12話
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「……た、ただいまー」
俺は玄関のドアをそろり、と開ける。
イチゴショートを環奈の家に届けた後、俺はまっすぐ家に帰ったものの、もう夜の九時過ぎてるから、姉ちゃん怒ってるかな。
一応、RINEで遅くなるとは送っといたけど……。
「お帰り」
「っ!?」
すると、待ち構えていたかのように姉ちゃんが玄関で仁王立ちしていた。
「あ、あははー……その、ただいま……」
「うむ。で、どうする?」
『どうする』ってなんだよ!?
え、何!? 物理攻撃か精神攻撃か、好きなほうを選べってこと!?
「え、ええと、どうする、とは……?」
俺は恐怖に怯えながら、姉ちゃんにおずおずと尋ねる。
「む、決まっているだろう。ご飯にするか、お風呂にするかだ」
「あ、ああ、ソッチか」
「? 変なことを言うな。なんだ、『それとも、私?』とでも言えばよかったか?」
「ヤメテ」
姉ちゃんは本気と冗談の線引きが難しいんだよ! ……とは面と向かって言わないが。
そんなこと言ったら、姉ちゃんのことだから、朝まで結論を得ない議論を繰り広げるに違いない。
「ま、まあ、とりあえずご飯、かな」
「うむ。なら、すぐ支度するから手洗いうがいをして席に座れ」
「へーい」
とりあえず姉ちゃんが怒っていないことにホッとした俺は、洗面所へと向かう。
「はあ……でも、ハルさんとバイトかあ……」
ヤベ、明日から超楽しみなんだけど。
それに、ハルさんの姿を見た時は勘違いして怒っちゃったけど、事情を知った後は、ハルさんの制服姿が頭から離れない。
「うーん、綺麗な人は何着ても綺麗ってことなのかな」
自然に呟いた言葉に、俺は妙に納得してしまった。
おっと、早く席に着かないと、姉ちゃんに怒られる。
俺は慌ててダイニングに向かった。
「あれ? 姉ちゃんまだ食べてなかったの?」
「ああ。やはり夕食くらい、一緒に食べたいからな」
うーん、それは悪いことをしたな……。
しかも、明日からも帰りが遅くなるからなあ。
「ええと、RINEで伝えたと思うけど、俺、ステラでバイトすることになったんだ。だから……」
「ああ、分かっているよ。それでも、私は正宗と一緒にご飯を食べたいんだ。ただの私のわがままだから、正宗は気にする必要はない」
そう言って、姉ちゃんはニコリ、と微笑んだ。
や、そんなの気にするに決まってんじゃん。
だけど……ありがとう姉ちゃん。
俺は姉ちゃんの気持ちが嬉しいんだけどそれを素直に表現できなくて、恥ずかしさを隠すために、ご飯をかき込んだ。
……俺、やっぱりこの家に来てよかったよ。
◇
「ふう……」
夕食も終わり、風呂も歯磨きも終わったけど、まだ寝るには早いな。
俺は枕元に置いてある読みかけのラノベを手に取り、しおりを挟んでいるページを開く。
「ふむ……しかしこのヒロイン、カワユスな。こんな彼女、ぜひとも欲しいもんだ」
ま、そんなの、俺にはあり得ないけど。
その時。
——ピコン。
「ん? RINE?」
俺はスマホを手に取り画面を見ると、環奈からのメッセージだった。
『イチゴショートすっごく美味しかった! まーくんありがとう!』
「わはは、気に入ったようで何よりだ」
といっても、元々環奈がリクエストしたんだけどな。
だけど、こんなに喜んでくれるとは思わなかった。
「さてさて、じゃあ……」
俺はスマホにメッセージを打ち込んでいく。
『ならよかった。ケーキ、また届けてやるよ』
「よし、送信っと」
俺は環奈にメッセージを返した。
「これからはステラでバイトするんだ。今回はイチゴショートだったけど、次はモンブランでも持ってってやるか」
俺は環奈がことのほか喜んでくれたことでつい嬉しくなり、そんなことを呟いた。
「ふああ……」
環奈にRINEを返したら、急に眠気が襲って来たぞ?
「うーん……まだ早いけど、今日は寝るか……」
そう呟くと、俺はベッドの中に潜り込む。
——ピコン。
「ん? また環奈か?」
スマホの画面を見ると、送り主はハルさんだった。
『今日はお疲れさまでした。明日から一緒にアルバイト、がんばりましょうね!』
変なネコのスタンプと一緒に送られてきたメッセージを見て、思わず俺の口元が緩む。
「はは、そりゃもう俺は超がんばりますとも!」
俺はスマホにメッセージを打ち込む。
『はい! 明日からよろしくお願いします!』
俺は送信ボタンをタップし、メッセージを送った。
「うんうん、今日はいい夢を見れそうだ」
俺はベッドの中で余韻に浸りながら、目まぐるしかった一日を終えた。
お読みいただき、ありがとうございました!
次話では環奈視点のお話を今日の夜投稿予定です!
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