第11話
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「お、お待たせしました……」
私服に着替えたハルさんが、更衣室からおずおずと出てきた。
「あ、それじゃ俺も着替えてきますね」
「は、はい」
交代で更衣室に入ると、俺は急いで学校の制服に着替えた。
うーん、明日からは一旦家に帰ってから来たほうがいいかな?
ま、明日考えよ。
「よし、忘れ物はないな」
俺は店の制服をハンガーに吊るした後、念のため忘れ物がないかチェックする。
うん、イチゴショートもちゃんと持った。
それじゃ、帰るとするか。
そうして俺は更衣室を出ると。
「あ……」
出口で、ハルさんが待っていた。
「そ、その……一緒に帰りませんか……?」
「は、はい!」
そうか! ハルさんと同じシフトでバイトすると、こんなイベントまであるのか!
「じゃ、じゃあ行きましょうか……」
「はい!」
そして、俺達は揃って店を出た。
◇
「そういえば、正宗くんは急にバイトすることになって、その、大丈夫なんですか?」
「へ?」
並んで家に帰る途中、唐突にハルさんからそんなことを聞かれた。
「あ、ほ、ほら、バイトするとなると帰りも遅くなるし、家の人も心配したりするんじゃないかって」
「ああー」
まあ、そんな家庭もあるわな。
「や、うちは大丈夫です。そもそも姉と二人暮らしなんで」
「え!?」
俺の答えに、ハルさんが驚く。
「ああ、実はうち、父親が北海道に長期出張してて、母親もそれについて行ってるんです。だから二人が戻ってくるまでは、姉と二人暮らしなんすよ」
「ああ……だ、だけど、それだったらなおさらお姉さんが心配するんじゃ……」
「や、そこは姉は何も言わないんで。何というか、そこはそれなりに信用してくれてるんでしょうね」
「そ、それなら良かったです」
するとハルさんはホッと胸を撫で下ろした。
あれかな、俺のこと心配してくれたのかな。
だったら嬉しいな。
「それよりハルさんがステラでバイトしてたことのほうがびっくりですよ。まさかケーキを買いに行ったらハルさんがいるんですもん」
「あ、わ、私はちょうどバイト先を探していて、その時ステラでバイト募集の貼り紙がしてあったので、思い切って店をくぐったんです」
ハルさんはその時のことを思い出しているのか、少しはにかみながら話してくれた。
「そしたら、店長もすごくいい方で、今では勇気を出してよかったと思ってます」
そして俺のほうを見ながら、ニコリ、と微笑んだ。
「そっか。でも、そのおかげで俺はハルさんと一緒にバイトできるんだから、その、良かったかな……って、何言ってんだろ」
ホントに俺何言ってんの!?
こ、こんなこと言ったら、ハルさん不快に思ったりするんじゃ!?
「あ、じ、実は私も……その、正宗くんと一緒にバイトできて、嬉しいなって……」
そう言うと、ハルさんはモジモジしながら恥ずかしそうに俯いた。
ナニコレ、超可愛いんですけど。
「あ、あはは……あ、そうだ、RINE教えてくれてありがとうございます!」
「あ、はい! こちらこそ、制服の胸ポケットに忍ばせてしまってすいませんでした……でも」
すると、ハルさんは俺をじっと見つめる。
「正宗くんがRINEを送ってきてくれて、すごく嬉しかったです……だ、だから、今日は嬉しいことがいっぱいあり過ぎて、なんだか夢でも見てるみたいです……」
「え、えーっと……」
ハルさんこれ、素でしてるんだよね……。
その、メチャクチャ可愛い。
「あ、あはは、その、俺としては今日のこと、夢なんかだったらイヤだなあ……」
俺は何だか気恥ずかしくなり、ポリポリと頭を掻いた。
「あ、はい……わ、私も、夢より現実のほうがいいです……」
「う、うん……」
う、うう……何というか……。
「あ、わ、私のアパートこっちですから!」
「え? あ、ハルさん!?」
「し、失礼します!」
そう言うと、ハルさんはパタパタと慌てて走って行った。
もう夜だし、ハルさんの家の近くまで送ろうかと思ったんだけど……。
「え、ええと……はあ……まあ、多分大丈夫か……」
俺は軽く溜息を吐くと、今度は環奈の家へと向かった。
◇
「あらあら、正宗くん久しぶりねー!」
「あ、おばさんこんばんは。その、環奈はいますか?」
「環奈? ちょっと待ってね。環奈ー! 正宗くんが来てるわよー!」
おばさんが家の中へ向かって大声で叫ぶ。
すると。
「え、ちょ、ちょっと!? なんでまーくんが!?」
何やら家の奥から環奈の絶叫に近い声が聞こえてきた。
なんだよ、俺が来ちゃ悪いみたいじゃねーか。
「ま、まーくん! す、少しだけ待ってて!」
「お、おう……」
ト、トイレにでも行ってんのかな……。
「ゴメンね正宗くんー。環奈ったら、正宗くんに会うのが恥ずかしいみたい」
「は、はあ……」
毎日朝の通学でも学校でも顔を合わせてるのに、恥ずかしいって何だ?
「あ、ま、まーくんお待たせ!」
少し息を切らしながら、環奈はやっと出てきた。
だけど、環奈の服装……ギンガムチェックのブラウスワンピに薄いピンクのカーディガン羽織って、まるでどこかにお出かけするみたいにキメキメだな。
……家の中でいつもこんな格好してんのか?
「な、なあ環奈……なんつーか、その服装……」
「ふ、服装がどうしたの!?」
「あーいや、ま、まあ似合ってんじゃないか?」
「ホント?」
「あ、ああ……」
服装を褒めると、環奈はパアア、とみるみる笑顔になっていく。
「あ、そ、それで急にどうしたの?」
「ん、おお、そうだった。環奈、これ」
俺は手に持っていたケーキの入った箱を手渡す。
「あ、この包装……ひょっとしてステラ?」
「ああ……ホラ、佐山のせいで行きそびれちまったからな。それに、なんだかんだで後輩の面倒見がいいお前への労いも兼ねてってことで」
「うわあああ……」
環奈はケーキの箱を眺めながら、瞳を輝かせる。
「まーくん、その、ありがとう!」
「お、おう……」
ま、まさかケーキごときでこんなに喜ぶとは思わなかった。
「そ、それじゃ俺、帰るから」
「あ、う、うん……その……」
「ん?」
急にモジモジして、何だ?
「あ、ううん……それじゃ、ね?」
「おう、じゃあな」
……ま、いいか。
俺は環奈の玄関のドアを閉めると、急いで家に帰った。
お読みいただき、ありがとうございました!
今日もストックが確保できましたので、明日も朝と夜の2話投稿します!
ということで、次話は明日の朝投稿予定です!
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