第102話
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「センパイ……私は、センパイのことが好きです」
佐山は静かに……だけど、力強い声で告白をした。
俺には、そんな佐山の姿がすごくカッコよくて、凛としていて……。
……俺は佐山に、これから残酷な言葉を返さないといけない。
だけど、精一杯応えよう。
最高の勇気と誠意を見せてくれた、この後輩に。
「佐山……まずは、ありがとう。こんな俺なんかのことを、好きだって言ってくれて」
「…………………………」
「本当に、佐山はすごいよ……俺なんかと違って、真っ直ぐにこうやって告白して……」
そう言うと、俺は一瞬だけ下を向く。
今言ったように、佐山は俺なんかとは雲泥の差だ。
こんな、三人の気持ちを知っていながら、まるで自分の気持ちに整理をつけることもできずに、ただ逃げ回っている俺なんかとは。
「でも」
俺は顔を上げ、佐山を見つめる。
全てを悟っているのか、その瞳には既に涙を溜めていた。
「……ごめん。俺は佐山の想いには応えられない」
静かにそう告げると、佐山の身体が一瞬ビクッ、となった。
そして。
「……理由を聞いてもいいですか……?」
ああ、そうだよな……俺が断る理由をたとえ知っていても、だからといって納得できるわけじゃないもんな……。
「俺は……俺には、好きな人がいるから……」
「そうですか……それって、誰なんですか……?」
はは……誰、か……。
俺が好きな女性……。
佐山にそう問われ、俺の頭に真っ先に浮かんだ女性……。
それは。
「――――――――――」
「……そう、なんですね」
俺の答えを聞いた佐山が、ポツリ、と呟く。
「あはは……確かにあの人だったら、私じゃ太刀打ちできないですねー……」
そう言うと、佐山は肩を竦めておどけてみせた。
「でも、俺がその好きな女性に気づけたのは、佐山のおかげだよ……俺は今まで、誰かを失うのが怖くて、逃げて、選ばなかった。そんな俺の背中を押してくれたのは、佐山……お前だ」
「あ、あはは……なんだか皮肉ですね……」
――ぽた。
佐山の瞳から、大粒の涙が零れる。
「が、我慢しようって決めたんですけどね……だけど……だけど……っ!」
佐山が、制服の袖で何度も涙を拭うけど、一向に止まらない。
いや……一度溢れてしまったものを、その涙を、もう止めることはできなかった。
そんな佐山に、俺は手を伸ばそうとして……そのまま手を引っ込めた。
今、俺が佐山に優しくすることは、精一杯の勇気を見せてくれた佐山に、失礼だと思ったから。
俺が本当に好きだと気付いた女性への、裏切りだと思ったから。
「あ、あはは……センパイ……私、センパイに告白して……その……よ、よかった、です……ぐす、ひっく……っ!」
佐山は無理やり笑顔を作ってそう言うと。
「う、うう……うああああああああああ……っ!」
両手で顔を押さえ、大声で泣いた。
そして、俺はそんな佐山を、ただ見つめていた。
◇
「ぐす……え、えへへ……センパイはホントにお節介ですね……」
それからしばらくして、少し落ち着きを取り戻した佐山が、泣き笑いのような表情を見せた。
「わ、私なんて放っておいて、サッサとここから立ち去っちゃえばよかった、ぐす……のに……」
「……そんなわけにはいかないだろ……」
そんな悪態を吐いた佐山に、俺は少し口を尖らせた。
「あはは……ですけど、私はセンパイに告白しました……後悔は、してません……」
「そっか……」
「よし!」
すると佐山が、今度は自分の両頬をパシン、と勢いよく叩いた。
「うん! 私はもう大丈夫! ですからセンパイ、もう行ってもいいですよ!」
「全く……唐突にそんなことを……」
「えへへー、切り替えが早いのが、私のいいところですから!」
「お、おい!?」
そう言うと、佐山が俺の背中を押して追いやろうとする。
だけど……嘘吐け、無理しやがって……。
「ですけど、次はセンパイの番ですからね? あの人も……ううん、三人も、絶対にセンパイの答えを待っているはずですから……」
「ああ……そうだな……」
そうだ。
こんなにも、俺は佐山から勇気をもらったんだ。
次は、俺の番だ。
「はは……といっても、やっぱり心の……いや、その他諸々含めて準備ってモンもあるし、まずは生徒会長選挙を無事に終わらせて、それから、かな……」
「えー! ……って、言いたいところですけど、確かに生徒会長選挙をなんとかしなきゃですもんね……」
ああ……生徒会長選挙で無事に環奈を生徒会長にして、なんの憂いもなくなった、その時……俺は告白をしよう。
世界で一番大好きで、大切な……あの女性に……。
「センパイ! 頑張れ!」
「おわっ!?」
佐山に背中を思い切り叩かれ、俺は思わずよろめいた。
振り返ると、佐山が満面の笑みを浮かべている。
「私はもうしばらくここにいます! センパイは、前へ!」
そう言って、手を振る佐山。
だから。
「ああ!」
俺はそれに応えるように右の拳を高々と掲げると、踵を返してその場を去る。
――また溢れそうになる涙を必死で堪える、佐山を置いて。
お読みいただき、ありがとうございました!
この佐山の告白シーンについては、この物語の非常に重要なシーンのため、連日投稿にしました!
いや、やっとこのシーンを書けて満足です!
次回の更新は、10/3の日曜日です!……多分。
少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、ブクマ、評価、感想をよろしくお願いします!




