第1話
ご覧いただき、ありがとうございます!
短編ご好評につき、連載開始しました!
※第1話~第4話は短編とほぼ同じです。既に読まれている場合は第5話からどうぞ!
※カフェでの水かけシーンを変更しておりますが、ストーリーに影響はありません。
「まーくん、おはよ!」
いつもの朝の通学時間。
路地の角の待ち合わせ場所で、幼馴染の“坂崎環奈”が、今日も元気に挨拶を交わす。
ちなみに、“まーくん”っていうのは幼稚園の頃からの愛称で、俺の名前は“堀口正宗”だ。
独眼竜じゃなくて、刀のほうな。
「……はよ」
「もー! 相変わらず元気がないなあ。そんなんじゃ、“あの人”みたいにモテないよ!」
「うっせ」
環奈の言う“あの人”というのは、まさに俺の天敵というべき男だ。
なにせ、毎朝学校に行くたびに、俺は努力ではどうにもならない圧倒的な壁をまざまざと見せつけられ、そして、一日打ちひしがれることになるんだから。
その壁が何かって?
それは、学校に向かっていつもの通学路をあと五分も歩けばすぐに分かる。
「ねえねえ、今日も“あの人”に出会えるかな?」
「知らね」
俺の隣で、環奈がワクワクしながら聞いてくる。
どうやらコイツは件の“あの人”にご執心らしく、毎朝“あの人”に会うのを楽しみにしている。
全く、幼馴染であるこの俺と一緒に登校しているんだから、少しは気を遣って欲しいもんだが。
「はあ……まーくんも、せめて“あの人”の半分、いや、十分の一ほどのビジュアルがあれば、そこそこイケなくもないんだけどなあ」
「だから! 本人が隣にいるのにそういうこと言うのヤメロよ! 本気で泣くぞ!?」
くそう、何で朝から、しかも“あの人”に会う前からこんな思いをせにゃならんのだ!
はあ……溜息吐きたいのはこっちだっつーの……。
「あ」
その時、環奈がパアア、と満面の笑顔になる。
とうとう来やがったか……!
そう、道の向こう側から、いつも通り俺の天敵である“あの人”が歩いてきたのだ。
「ね、ねえねえ! きょ、今日も来たよ!」
「わ、分かったから身体を揺さぶるな!」
“あの人”というのは、俺達の通う高校の近くに住んでいる大学生(多分)で、毎朝俺達とは反対方向にある駅に向かってすれ違うのだ。
そして、今日も同じ通学路に通ううちの高校の女子生徒どもの全てが、環奈と同じようにその大学生に釘付けになっている。
いや、それだけじゃない。
最近ではその大学生のファンまで形成され始めており、まるでアイドルの出待ちでもするかのように数人の女子生徒が通学路で待ち構えていたりする。
そして。
「あ……あの……」
女子生徒達が次々と大学生に声をかけようとして、全員が途中でそれを諦める。
この不思議な行動について、一度環奈に尋ねたら、「尊みがすごすぎて声をかけるなんてムリ」とのことらしい。何だソレ。
だが、女子生徒達がそう思うのも無理はないかもしれない。
なにせ、その大学生ときたら、男とも女とも取れない中性的な顔立ちで、切れ長だけど大きな目、瞳の色は透き通るようなブラウン、通った鼻筋に薄い唇、アッシュグレーの髪をウルフカットにし、肌も透き通るほどの白さだ。
身長は俺よりも高く、多分一七五センチくらいあるだろうか。ただ、服装に関してはあまり興味がないのか、いつもTシャツにデニムジーンズ、赤のスニーカー、黄色のヒューズボックスという恰好だった。
まあ、住む世界が違うとはこのことだろう。
だが、そのせいで俺はいつも、この通学路で狙ったかのようにこの大学生とすれ違い、あまりのスペックの違いから周りの女子生徒達に比較され、鼻で笑われる日々を送らされているのだ。
もちろん、遠回りして学校に通えばすれ違わずに済む。
俺も耐え切れずに一度そうしようかと考えたこともあった。
だが、よくよく考えたら、何で俺がわざわざ通学路を変えなきゃならんのだ! 気に入らんのなら、お前がどっか行けよ! ってことで、それから俺とこの大学生との終わりのない聖戦を繰り広げているわけだ。
じゃあ具体的にどうやって戦っているかって?
もちろん、チキンな俺が面と向かって直接何かを言えるはずもなく、毎朝すれ違うたびにキッ、と睨みつけてやるのだ!
ただし、大学生の視界の外で、な!
「! 来た来た! 来たよっ!」
環奈の興奮は最高潮になり、俺の身体をガックンガックン揺らす。
フン、今日こそ俺の目力で、この大学生にルート変更を余儀なくさせてやる!
そして、いよいよ俺達の横を通り過ぎる、その時。
「っ!?」
なんと、大学生が笑顔で俺達に手を振ったのだ。
それこそ、男だろうが女だろうが、見惚れてその場で立ち尽くしてしまうほどに。
……………………………………………………ハッ!?
「お、おい……環奈……?」
「…………………………」
何とか意識を取り戻した俺は、環奈に声をかけるが、環奈はあまりの出来事に、口を半開きにさせながら両手を握り締め、ただただ大学生の後ろ姿をキラキラとした瞳で見つめ続けていた。
「おーい……環奈―……」
「…………………………」
どうやら再起動する様子もなかったので、俺は諦めて環奈を置きざりにしたまま、学校へと向かうことにした。
だけど……本当に綺麗、だったな……って、何考えてんだ俺!?
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