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神様は現代に馴染みやすい?

「……それ、そこまで見てて楽しいか?」


「はい。いくら見ても飽きないです」


 ある日。鈴はテレビという存在を知ってからがっつくようになった。それも何時間と飽きずに。家事とかのやる事はやるけど、それが終わったらず~っとテレビを睨み続けている。テレビ単体ってそこまで面白い物だろうか。

 鈴に問いかけると自分にとっての印象をコメントした。


「神界じゃこういうのはなかったのか?」


「向こうじゃ情報入手のほとんどが伝達か手紙でしたから。こうやって壁の絵が動く物はありませんでした。【てれび】っていいましたっけ。……はっ、まさかこの世界にも不思議な力があるんです!?」


「いやないけど。録画した映像をそのまま流してるんだよ」


「ろくが……?」


「ですよね」


 やっぱりカメラとかがない神界じゃ録画とか映像とかの言葉は存在しないのか。これは長くなりそうだと気を遠くしつつも出来る限りの範囲で説明した。

 俺はエンジニアとかそっち系じゃないからテレビの構造はあらかたしか理解してないけど、何とか伝わってくれた様子。俺の説明できる範囲で理解した鈴は耳と尻尾を動かすと楽しそうに目を輝かせた。


「――凄い! そんな事出来るんですか!?」


「ああ。俺が普段使ってるスマホでも同じ事が出来るぞ」


 そう言って写真を撮ってから鈴に見せると目を輝かせながら覗き込んだ。鏡とか水面の反射でしか自分の顔を見たことが無かったのだろうか、体を左右に振らしても動かない写真に顔をしかめた。

 写真についての分かりやすい表現と言えば……こんな感じか。


「これはだな……時間を切り抜いて保存するって技術なんだ」


「時間を切り抜く! 今の私にとっては凄く分かりやすいです!!」


「テレビもこれと同じで、長時間を切り抜いて保存しテレビで再生してる。そうする事でああやって画面の中で人が動くんだ」


「なるほど。人の技術って凄いんですね」


 なんか、自分が作った訳でもないのに嬉しくなる。鈴がここまで興味を持ってくれる事も嬉しいけど、逆にこの程度で興奮してちゃ都会に行った時どうなるんだろうって心配にもなる。

 すると鈴は顔を上げて部屋を見回した。


「……この部屋も人の技術で作られたって事なんですよね」


「この部屋だけじゃない。鈴が来たこの世界そのものが人の技術で作られたんだよ。俺が言えた事でもないけど、何年も何十年も何百年もかけて今の世界があるんだ」


「何百年……」


 まさか自分の口からこんな哲学的な言葉が出て来るだなんて思いもしなかった。俺自身も凄くびっくりしてる。

 よく考えれば鈴はこの世界の事は何も知らない(ように見える)んだ。

 なら少しでも理解してもらう為に色んな所へ連れて行った方がいいのだろうか。しかしそうなったとしてもこんな田舎に凄い物なんて無いし……。その時脳裏で電球が点く。


「そうだ。鈴に良い物がある」


「良い物?」


「人の技術を使ってこの世界を学んでもらう方法」


 そうしてテレビを操作した。

 都会に行かずとも鈴が興味津々のテレビで現代を学べる方法があるじゃないか。――特番とかドラマとかを見せれば行けるはず。

 適当な特番を付けると鈴は早速テレビに見入った。

 ……のだけど、2時間程度で終わると思ったソレが5時間もかかるだなんて、この時の俺は知る由もなかったのである。




「凄いです! 興味深いです!」


「そ、そうか……」


 夕方を通り越して夜。

 まさか鈴がここまで知識を得るのに集中するだなんて。神様の欲恐るべし……。

 しかしこんなに興味を持っていながらもやっぱり理解出来ない物もあるみたいで。


「ですけど何で差別があるんですか? みんな一緒になればいいのに……」


「神界じゃ差別はないかも知れないけど、この世界は厳しいんだ。差別は差別。そうとしか言い様がない」


「そう、ですか」


 あまりにも曖昧すぎる答えに鈴は困惑した様だった。

 鈴から急に向けられた現実的過ぎる質問。だけど俺はそれしか言えなかった。ソレを教えるのは鈴にとって残酷な事だと思ったから。

 部屋が静寂に満ちる。

 だけど鈴は顔を左右に振ると明るく話しかけた。


「――で! 次の映像とかは無いんですか!? できれば科学系のヤツがいいです!!」


「既に科学をご所望だと!?」


 ここに来てからもうすぐ1週間だと言うのに既に科学知識を望むとは。なんという理解度の速さ。神様の頭は末恐ろしい。その内俺よりも詳しくなるんだろうなぁと思いながらも次の映像を流した。鈴の要望通り科学系の映像を。


 しかし神様が科学に興味を持つって絵柄的に大丈夫なのか。だって住んでたところは江戸みたいって言ってたし、戻った時に常識の擦れ違いとか――――。

 そうか。鈴は今戻れないんだっけ。


「ご主人、これなんですか!? ……ご主人? どうしたん――――」


 でも鈴の質問に答える前に眠気が襲って来て、俺は眠りに落ちてしまった。まだ現代の技術に慣れていない鈴を1人残して。




 朝。目覚めた。

 直後に分かった事はあのまま寝てしまったという事だ。ソファーに横たわっていたのでその事を思い出し、咄嗟にガバッと体を起こした。するといつの間にか掛けられていた毛布が床に落ちる。

 すると鈴が机に突っ伏しているのが見えて安心した――――のは束の間。

 神様というのは恐ろしい。だって、テレビで「わぁーっ!」ってなってたのに何故かパソコンが開いてあったのだから。さらに検索中だった所を見ると自分だけの力で検索した可能性がある。


 それらから導き出された答えは1つ。

 鈴、実は結構順応性高いんじゃないのか。

 だって俺の解説もなしにパソコンを使っていたみたいだし、さらにキーボードを使って検索もしていた……。


「頑張ってたんだな」


 そう言って今度は鈴に毛布をかけてあげる。

 多分この毛布は鈴がかけてくれたんだろう。だから今度は俺から鈴にかけてあげる番だ。すると鈴は安心したような表情へと変わって行く。


 でもそんな表情を見ている内に1つの疑惑が生まれて。

 鈴はあの時差別に反応した。もしかしたら神界には差別がないからなのかも知れないけど、妙に引っ掛かってしまう。あくまで予測に過ぎないけど鈴が神界に戻れないのと何か関係があるのか……?

 まだ踏み込むべきじゃない。それは分かってる。

 だけどなるべく早く解決してあげたいと思っていた。こうしていると、いつか別れが来るときに辛くなると思ったから。


「…………」


 鈴から口を開いてくれなきゃ何も分からない。だけど容易に聞いていい内容じゃないというのも理解してる。だから迷った。いつ聞くべきかを。

 人間である俺が聞いていいのかも分からないのだけど。

 そんな風に迷っているとピクピクっと耳が動いて。


「んぁ~……。おはようございます、ご主人」


「ああ、おはよう」


 あれ、既にご主人と呼ばれるのに慣れてる!?

 もしかしたら俺も結構順応性が高いのだろうか……。

 とりあえず頭を振って変な思考を切り捨てつつもパソコンの事に付いて尋ねてみた。


「鈴、もしかしてパソコン使ったか?」


「はい。テレビで使い方とかやってたので。使える様になれば様々な事が知れましたし、この世界の知識はある程度頭に入れました」


「テレビの呼び方も安定してる……ってか凄いな色々と」


 既にこの世界の知識はある程度頭に入れたって、いくらパソコンが使える様になったとはいえ一晩でそんな事可能なのか。もしくは鈴の頭が超ハイスペックなだけか。神様だしそれくらいのスペックは持っていそうだけど。

 すると鈴は急に体を震わせ、目に輝きを灯らせながら顔を近づけて言う。


「そう言えばですね! 調べている最中に【らーめん】とか【しちゅー】とかの料理を見付けたんですけどここでも作れるんですか!?」


「ま、まあそこらへんなら出来ない事もないけど……」


 やっぱり新しい物には目がないのか。鈴は尻尾と耳を高速で動かしていた。確かにそこらへんの料理なら家でも出来ない事は無い。しかしそこまで出来るスキルが俺にあるかと言われると……。ラーメンはほとんどをカップ麺で済ませシチューはほとんどをレトルトとかで済ませて来たのだ。本格的なのはNOと言わざるを得ない。

 のだけどそこはさすが神様としか言い様がなかった。


「――料理の手順は覚えました!」


「よし、買い行くぞ!!」


 俺よりも料理上手な鈴が手順を覚えたのなら百人力……いや千人力だ。

 まさに神様鈴様仏様。

 しかし外に出るにも色々と準備をしなきゃいけない。


「ってやりたい所なんだけど、鈴、その耳と尻尾どうにかなるか?」


「はい?」


「俺達の世界はケモ耳とかないから」


「あ、そっか……。わかりました」


 すると鈴は耳と尻尾を小さくして普通の少女の姿になる。いや、小さくするというか折りたたむと言うか。そうして愛らしい少女の姿になると鈴はまたもや目を輝かせながら言った。

 凄くワクワクしてると姿勢で伝えながらも。


「私とご主人の初めての散歩ですね!!」


「いやまあ買物なんだけどな。あと外にいる時がご主人って呼ぶのは止めてね、絶対誤解されるから」


「じゃあ――――」


「お兄ちゃんでお願いします!!」

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