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狐の家事仕事

 結局、俺は鈴を……拾う? 保護? とりあえず住まわせる事にした。神様云々が関わってるからどうなるのかは分からないけど、まあどうにかなるだろうと客観的に見ていたのだ。

 そう。見て“いた”のだ。


「これは……」


「自分なりに頑張ったんですけど……ごめんなさい」


 鈴に家事のいろはを叩きこんで学校へ行った後。返ってみれば戦場だったかの様な荒れ様に思わず笑顔を引きつらせる。

 すると白Tシャツに短パンという組み合わせに着替えた鈴は深々と頭を下げた。

 いやまあ彼女なりに頑張った結果は見える。服とか雑だけどちゃんと畳んであるし。でもなんで部屋の所々が焦げてるんだ……。


「あの焦げ跡は?」


「狐火の調整に失敗してしまって……」


「狐火?」


「これの事です」


 すると鈴は自分の周囲に蒼色の炎を3個くらい出現させた。

 こういうところを見ると神様っぽいんだよなぁと思いつつも自分の理想と目の前の神様を比べてみる。

 現代の服を来た神様って……。


「あ、ちなみに今の狐火に触れたら指が溶け落ちますよ」


「どういうこった!?」


 そ~っと指を近づけていたらそう言われる。ってうか狐火って触れたら指が溶け落ちるのか。びっくりしながらも理由を尋ねると鈴は狐火を動かして説明してくれた。

 狐火自体は小さいのだけど、説明してる最中に震え始める。


「狐火というのは私達狐の神様の能力みたいなものです。出現させられる狐火の数が力の強さと言われていて、狐の最高神様は最大50個の狐火を出現させました」


「ほ、ほぅ……」


「ですけど、その……私は少し特殊でして。狐火1個の火力が高いんです。ですから出現させる時は抑え込むんですが、同時に熱まで圧縮してしまい、結果として小さい狐火の火力は指を溶け落とす程なんです」


「なるほど」


 つまり力が強大故に抑え込んでるけど、その分抑え込んだ力の強さが異常、という訳か。なんとも分かりやすくも厄介な能力である事か。

 しかしそう聞くと新たな疑問が浮かんでくる。

 何で部屋の中で狐火を使う意味が?


「料理をした訳でもないっぽいのに何で狐火を使ったんだ?」


「……暗くて」


「暗い?」


「あのですねっ? こう、尻尾が壁に触れた瞬間に明が消えてしまって、それで!」


「あー、尻尾で電気を消しちゃったんだな」


 鈴は現代に全く馴染めていない。だから突然電気が消えたのに慌てて狐火を使ってしまったのか。その結果調整に失敗して壁を焼いてしまったと。これは先が思いやられる……。

 とりあえずは電気の仕組みを簡潔に説明した後に考えた。

 この焦げ跡、どうするべきか。

 すると鈴は何とも理想的な“魔法”を使って見せる。


「でもこの壁どうするか……」


「あ、じゃあ戻しますね」


「戻せるんだ!?」


 手をかざしたと思ったら焦げ跡が消えて行った。っていうか焼け焦げた(と思われる)物まで元通りになっていった。更に凄いのは焦げた物だけでそれ以外は何も変わっていない。

 とりあえずは元通りの部屋にすると言う。


「……すいません。迷惑ばかりかけてしまって」


「ん~」


 注意すべきか頑張った事を褒めるべきかを迷う。

 なにせ子供――――いや神様と暮らすなんて事がありえない事だし、いったいどっちを選ぶのが正解か……。迷った時は直感で選べと言われた気がしたから俺は手を伸ばした。

 そして頭にポンポンと乗せて撫でてあげる。


「ま、元通りにはなったし頑張った事も伝わったからいいさ。これを通してもっと頑張ろうな」


「……はいっ!!」


 すると鈴は元気よく返事した。

 そもそも叱る事は得意じゃないからこれでいいか。

 と、ここで問題が解決しても新たな問題が次々と出て来る。だからソレを解消すべく俺は鈴に提案した。


「鈴。俺は明日休みだ」


「はい」


「って事で、鈴に家事全般をこなしてもらえる様に特訓するぞ!」


「分かりました!!」



 step1、掃除。



「掃除は清潔感を引き出す為に必要な事だ。まずは掃除を学んでもらって、現代に慣れてもらいたいと思う」


「はいっ。掃除は神界でもやりましたから得意です!」


 鈴は意気込んで答える。

 「向こうでも掃除をしている」という言葉に安心しながらも早速掃除の仕方を教える。これならstep1は余裕でクリアできそうだな。

 と思ったのも束の間。


「コレ、何ですか?」


「ですよね~……」


 掃除機を前にした鈴がそう言う。

 まあこの辺りならまだ想像の範囲内だ。そもそも機械とか無縁の世界からこっちに来たんだからそんな反応になっても仕方ない。うん、仕方ない。



 step2、洗濯。



「洗濯は普段身にまとう衣服を綺麗にする為に必要な事だ。ってな訳で、鈴の技量を見させてもらう」


「洗濯も神界で――――」


「川で洗ってたなんて言わないよな」


「…………」


 図星の様で黙り込む鈴。そりゃ洗濯機なんて到底無いんだから川で洗うくらいしか方法がないよなぁ……。と自問自答で納得しつつも洗い方を説明する。

 果たして鈴が洗濯機を使いこなせるかどうか。


「まずは服をここに入れて、洗剤をここに入れて、その後にこことここを……」


「洗剤をここに……? それで、ここと……これを……?」


「やっぱりか」


 すると鈴は何個かあるボタンを押すのに迷い始める。

 ま、まあここら辺もまだ超想像の範囲内だ。超想像の範囲内って既に想像の範囲を超えてる気がするけどそこは気にしちゃいけない。

 でも服は畳めていたんだからせめてよしとしよう。

 無理やりだけど。



 step3、炊事。



「次は炊事……要するに料理だな。こればっかりは才能的なアレとしか言えないけど、どうだ?」


「料理は得意です。色んな人に振舞った事もありますから!」


「…………」


「あれ、信じてもらってない!?」


 そう言いつつも鈴はキッチンに向き合った。

 俺は料理自体は出来るけど時間がないって理由で毎回簡素な物で済ませるから、これで鈴が料理を出来る様なら代わりに作ってもらいたい所だけど……。

 神界の料理がどんな感じでやるのかは分からない。だからコンロさえ使えれば何とかなるか。

 と思っていたのだけど。


「包丁、使うの上手なんだな」


「はいっ。お姉ちゃんに教えて貰いましたから」


「お姉ちゃんいるんだ」


 意外と上手い包丁捌きで次々と食材を切っていく。ちゃんと猫の手も出来てるし、神界の料理はこっちとそんなに変わらないのだろうか。卵も普通に割って混ぜるし、炊飯器の使い方もちょっと教えただけで平気……。鈴は料理の才能“は”あるのか。

 火はどうするのだろうと思いきやまさかの狐火。


「ちょっ、それフライパン溶けないか?」


「これは大丈夫です。狐火は小さくすればするほど火力も弱まりますから。まあ、私の場合は凄く小さくしなきゃ具材が焦げちゃうんですけどね」


 鈴はそう言って苦笑いを浮かべた。

 でも火力の調整は上手く行っている様で、ちゃんとご飯と具材は加熱されながら混ざって行く。やがて味付けも終わってから鈴が更に盛ったのは――――、


「……チャーハン?」


「はい」


 日本料理かと思いきやまさかのチャーハン。

 神界って外国の料理とかも作ってたりするのかな。まあ、必ずしも神様が日本の神という訳でもないだろうし、そこは気にしなくてもいいか。

 しかし大事なのは味だ。見栄えは良くても味はどうだろう。

 ……流石にそこまでの心配は不要だった。


「普通以上に上手い。鈴、料理上手だったんだな」


「はい。料理は得意なんです。料理は」


「料理は、ねぇ……」


 一先ずは料理が出来るだけでも十分よかった。別に家事を全てやってくれだなんて無茶も言う気はないけど、少しでも手間が省ければその分色んなものに手が回せるという物だ。

 そうして考えていると鈴は問いかける。


「あの、ご主人」


「ん、どうし――――ご主人!?」


「私達は世話になる人の事をご主人と呼ぶんです。……それでご主人、次のステップって何ですか?」


「あー、えっと……」


 いきなりこんな少女からご主人と呼ばれるだなんて思わなかったからびっくりした。だけど今だけは置いておいて鈴の言葉に答えようとする。

 正直な事を言えば、次が最大の難関と言っても過言じゃない。

 かといってこのままじゃ鈴は絶対にクリアする事は出来ない。まず知識を学ばせる方法があるし、他にクリアして貰わなきゃいけない課題もある。


「step4はまだ早いから、今はこの3つに慣れて行こう。塵も積もれば山となるってやつだ」


「……はい!」


 とりあえずは最後のステップを保留しつつもそう言った。

 だけど本当にその通りなのだ。鈴はまだこの世界に来て一週間も経ってない。それなのに最後のステップ――――買物はまだ厳しいだろう。この世界の買物は最近色々と変わって来ているし。


「そう言えばさ、俺の事ご主人って言ってたけど大丈夫なのか? 色々と」


「お世話になってるのは変わらないですし、何より行き場のない私を拾ってくれたんです。きっと大丈夫ですよ」


「ふ、ふ~ん……」


 まだ幼い少女にご主人と言われるのは危ない気もするけれど……まあ鈴が大丈夫と言うのだから大丈夫なのだろう。そう信じ込んで納得した。

 でもこれでも鈴は“一応”神様なんだし、ルール的に大丈夫なのだろうか。そんな心配が止めどなく溢れる。だって人間と神が関わっちゃいけないとかいうルールがあったら怖いし。


「ま、いっか」


「…………?」


 だけど考えるだけ損と思いその思考を切り捨てた。

 すると鈴は耳をピクピクとさせながらも首をかしげる。

 まだ考えなきゃいけない事は沢山あるし、それと並行して学校で出された課題とかもこなさなきゃいけない。

 そして「普通の人よりも忙しいのか」と自覚して密かにため息をこぼした。

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