不思議な出会い
「さっむいな……」
とある雪が降る日の夜。俺は一人寂しく道を歩いていた。両手には今日のイベントで手に入れた戦利品を持ち、気合いを入れ過ぎた事に若干後悔しつつ自分の本もそこそこ売れた事を誉れに思う。
――そう。今日は嫌という程待ちわびた《冬コミ》の最終日だ。今回は最終日に人気度の高い人達が出てきたり、コスプレ会場でラノベの原作者がひょこっとあらわれていたり、いきなり喧嘩が勃発したりと、アクシデントの絶えないコミケであったが、それでも俺は十分という程楽しんでいた。
この俺――西原海斗も《冬コミ》に参加していた。毎回原稿やら何やらが間に合わずに出場を逃していたのだが、今回はやっとの思いで参加することが出来た。初めてという訳ではないが売上もそこそこだったし、一定層のファンもいるそうだったから、個人的には大満足だ。
仲間内とのノリと気合いだけで始めた打ち上げもあらかた終わり、俺は疲労と無気力を抱えたまま家に帰ろうとしている。それが現状だ。
まあ、帰っても夕飯の支度をして風呂に入って飯を食べて寝て起きたらまた……という生活に逆戻りなのだけど。
そんな生活を思い浮かべてため息をこぼしていると“ある物”を見つける。
「……ん?」
雪の山――なのだが、それがピクピクと動いていた。木から落ちた雪に動物でも下敷きになったのか、なんて思って一応警戒しつつも近づく。
――でもその途端、声が聞こえた。
「○▽□×÷※#=¥……!」
「声!? まさか子供とかじゃないよな……」
急いで駆け寄って雪をかき分ける。紙袋だからそのまま地面に置くと同人誌とかが濡れてしまうのだけどこの際そんなの関係ない。
冷たすぎて痛みを感じてしまう。けどそんな事も些細な事と思える。だって、これがもし子供なら――いや、人間でも動物でも、死んでしまうかもしれない。手が冷たいなどと言っていられるものか。
「おい、大丈夫かッ!!」
見えて来た足を掴んで力一杯引っこ抜く。裸足なのか、なんて思いはしたが助けるのが最優先だ。少しは痛いだろうけど、ここはいち早く――――――。
なんて考え、引っこ抜いた瞬間に停止した。
「…………」
凍ってる。うん、キンッキンに。
いやそこじゃない。
こんな季節だと言うのに服装は巫女服。さらには見覚えのある丈じゃなく半袖仕様の物のようで、細い腕がきちんと見えてしまっている。女の子だという事も分かったのだけれど、それ以上に、俺を困惑させる事態が起きていた。
「み、耳と尻尾……?」
その少女には狐みたいに尖った耳が生えていて、あまつさえ狐のような尻尾まで生えていたのだ。身長的には中学生くらい、だろうか。稲穂のような毛色をしていて、いかにも人間じゃないという事が伺える。
――そう。俺は多分、その時。
神様を拾った“んだと思う”。